第21話『採寸』
魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。
「悪魔像か、シルヴィアちょっと検索してみてくれ」
「了解」
レオリンデの話しを聞き終えた俺はこの村の状況をだいたい理解した。開拓村であるここは、まだ自給自足できるだけの環境が整っていないのだ、おそらく食材や必要な道具などは定期的に山道を通って運ばれていたのだろう。
それが悪魔像の出現によって生命線だった唯一の道が寸断されてしまったのだ。
「該当データあり、転送します」
サーチバイザーへ送られてきたデータを見て驚愕する。
レオリンデが遭遇した悪魔像少佐は討伐レベル100で俺が初めて見る三桁の討伐レベル、絶対討伐対象と注意書きまでされている。
悪魔像は魔物と違い捕食などではなく明確な殺意をもって人類を襲ってくる。悪魔像にはおもに十一の階級があり階級が高くなればなるほど、利口になり罠や戦術も用いてくるそうだ。少佐級が山に陣取りこの村を封鎖したことも何か思惑があってのことだろう。城塞都市を攻め落とすだけの戦力はないから、討伐にくる人間を狩るとか。
多くの悪魔像は聖なる結界で覆われた悪魔の領域に閉じ込められているらしいが、ごくまれに結界の穴から這い出してくる場合があるらしい。
「悪魔像少佐って言うのは、悪魔像の中でも上から四番目に位置してるのか」
討伐レベル100の存在は大災害扱いであり国から軍が派遣されるレベル。悪魔像以外だとドラゴンや巨大魔獣などがあげられるが、危険度は悪魔像の方が高いらしい。ドラゴンなどは気まぐれでありめったに人里には近づいてこないが、悪魔像は人の多い方へと嬉々としてやってきては目に入る人を殺める人類にとっての天敵。
「アーネットは英雄として讃えられるべきだ、とどめは確認できていないが翼を奪い地上に落とすだけでも大功績だろう」
「たしかにそうだな、国家レベルの災害を払ったようなものだ」
こんな存在から飛行能力を奪ったんだ英雄扱いされてもいいはず。
「……ありがとう。彼女の功績を認めてくれたのは君がはじめてだ」
あれ、俺の呼び方が貴様から君へと変わったぞ、もしかして恋愛シュミレーションみたいに高感度アップしたのかな、なんてな、そんなことはないだろう。
それにしてもそれだけの悪魔像を撃ち落として誰も賞賛しないなんて。
「レベル100の悪魔像を落としたんだろ、ほめて当然だと思うが」
「この村の者たちには、翼だけしか落とせない役立たずと言われたよ」
レオリンデは悲しみの色を浮かべた瞳でほほ笑む。
なるほど、村の人たちからすれば脅威から解放されたわけじゃないし、翼ひとつ落としたところで意味がない、求めているモノが違うから。
いかに英雄的な行いをしようとも、自分たちを助け出してくれなければ役立たず。理解できなくもないが、レオリンデとしては悲しいよな。
「わかった。俺がアーネットさんの功績に敬意をはらいコーティング剤を討伐部隊へ寄贈します」
「いいのか」
「もちろん」
目を見開き、コーティング剤を差し出した俺の手を握りしめてきた。
「ありがとう。お心遣い感謝するカズマ殿」
目頭にうっすらと涙が浮かんでいた。
「かわりと言ってはなんだけど、頼みがあるんだ」
「なんだ、今の私ではたいしたことはできないが、できる限り努力はしよう」
じゃあアクティブを装備してその姿を写真に取らせてといいたいが、あいにく余分なアクティブはこさえていない。さらにアクティブを作るには大きな街へ行かなければ、大きな街へ行くにはこの村を封鎖している悪魔像をなんとかしないといけない。
だったら悪魔像を排除するための行動をしなければ。
「討伐部隊に魔導技師見習いとその従者を雇う気はない? 素人よりコーティング剤の扱いはうまいと思うよ、鎧のサイズ直しは得意分野だ」
ここぞとばかりに自分たちを売り込んでみた。
雇ってもらえれば美少女のレオリンデとお近づきになれるとか、そんな打算ももちろんあるが、悪魔像と戦闘になったとき共闘できそうなのが一番の理由だ。
「面白い頼みごとをする、給金が払えないのはわかっているだろ」
「それは現状打破で手を打とう。俺には夢がある。その夢を叶えるためには大きな都市に行く必要があるんだ」
より多くのアクティブアーマーを作るためには素材が沢山手に入る拠点を確保しなければならない。
「この村を脱出することが君たちへの報酬か、悪くない、いや現状では最良の条件だ。私たちの利害は一致しているのだな」
「戦力としても期待してもらってもいいぜ、ブラックボア程度なら俺もシルヴィアもしとめるだけの装備を持っている」
アクティブがなかったらとても敵わないけど、このフゥオリジンさえあれば、悪魔像が相手だってビビったりしないぜ、接近戦はするつもりないけど。
「心強いな、さっきも名乗ったがもう一度名乗ろう。私は騎士見習いレオリンデ・フジ・ヴァルトワ。親しい者たちからはリンデと呼ばれている。どうか君たちもリンデと呼んでくれ」
「交渉成立だな、よろしくリンデ」
「よろしくお願いしますリンデ様」
差し出されたリンデの手を握り返し、シルヴィアは俺の斜め後ろで深く頭をさげた。
「俺のこともカズマって呼び捨てでいいぞ」
「呼捨て!」
とたんに固まったリンデさんが顔を赤くした。
「そうカズマ、呼んでみ」
「か、かずま、無理だ! すまん、私はカズマ殿と呼ばせてもらう。すまない、まだ異性を呼び捨てにした経験が無いのだ」
凛々しい騎士見習いの姿はどこにもなく、どんどんと声がか細くなっていった。
「まあ慣れたらまた挑戦してみてくれ」
「努力はしよう」
絶対に無理だと表情に出しながらも努力を約束してくれた。
「それじゃさっそく作業を始めますか、この部屋でしても」
「かまわない、コーティングして欲しいのは壁の三本と私とバァルボンの剣、合計五本なのだが」
「大丈夫、それくらいなら十分足りる量を持ってるよ」
「そうかよかった」
溜まっていたモノをまとめてはき出すように大きく息をつくリンデ、コーティング剤が手に入ってホッとしたようだ。
「剣が終わったら鎧のサイズの直しもしようか」
「施しを受けるばかりで申し訳ないがお願いしたい、あの鎧はやはり私にとって大切なモノなのだ」
もし以前の討伐戦でリンデの父親が命を落としていた場合、形見の品、最後の想い出の品になってしまうんだもんな、そりゃ大事だ。
「流石に全身鎧のままサイズは大きくできないから、肩とかモモのあたりは削るしかないけど」
素材を薄く引き伸ばせば外見をそのまま保てるが、それでは防御力のないただの薄い鎧になってしまう。想い出の品だ気軽に外見を変えることはできないので確認してみれば、リンデはあっさりと外見を捨てた。
「必要なパーツだけでいい軽装鎧に作り直してくれ、必要なのは想い出ではなく戦力だ、余った鉄材は好きに使ってくれていい」
「それは助かるけどいいのか?」
「大切なのは鎧に籠った想いだ。父上は私を守るためにこの鎧をこしらえてくれた。なら例え形を変えようとも実を取るのは当たり前だ」
「わかった、余った鉄材は大切に使わせてもらうよ、鎧の完成も楽しみにしてくれ」
「よろしく頼む」
「シルヴィア、鎧の完成度を高めるためにもリンデの体の正確なサイズが知りたい、剣を仕上げている間に測っておいてくれ」
「体のサイズだと!!」
リンデが胸を隠すように両腕を交差させて俺から一歩はなれた。
しかし甘い、頼まれた以上は全力でやってあげるよ。俺はシルヴィアに視線だけで遠慮なく実行しろと命令する。
「了解しました。マスターの希望通り、リンデ様の身長からスリーサイズまでゼロコンマ1ミリまでしっかりと採寸測量させてもらいます」
今さらだけど、この世界の長さや重さの単位が日本と同じだんだよな、きっとショウ・オオクラさんがひろめたんだろうけど。
「さあリンデ様、別の部屋にまいりましょう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「リンデ、鎧を作り直すには必要なことなんだ」
「それはわかるが、なぜか背中がゾワリとするぞ!」
失礼なこれは純粋な修理作業の一環だ、けっしてやましい気持ちが一番じゃないぞ、まったく興味がないわけではないけどな、魔導技師見習いとしてその辺はわきまえるつもりだ。
リンデも必要だとは分かっているので、強く断ることができずシルヴィアにうながされて重い足取りで部屋を出ていった。




