第132話『先行採取班ベルノヴァ』
「スゲー、ヤベー、スゲー! おいウサギども次はどっちだ、そっちか!!」
興奮しているミケが素材を見つけたスコビットよりも早く発見ポイントに向かい素材を回収する。素材探査機能が付いているスコビットの情報はアクティブのバイザーにも共有されているので、発見すればすぐにわかる仕様。
駆け出しの冒険者であるベルノヴァは最近まで、正確にはカズマと出会うまでは受ける仕事の八割は野草の採取であった。そのためなのか、貴重な素材が見つかるとミケはテンションを急上昇させレオライラック・ファイターの加速力でスコビットと素材の回収競争をやっている。
「出発の時には、あれだけ文句を言っていたのに」
カズマに出会う前は貴重素材が見つかった日は夕食のおかずが一品増える。その感覚が忘れられないようだ。
「またあたいの勝ち、大量だぜーやっふー」
「まったく」
ムギはため息をつきながらラビッⅡとミケが離れすぎないよう見張り、クロエが危険な魔物が近づいてこないか周辺警戒。
ここはカズマ達一行より先行すること二時間ほどの採取ポイント。近くに町や村はなく貴重な素材が豊富に取れる。だがそれは魔物にも言えることで、サウスナン近郊ではお目にかかれない高レベルな魔物が潜んでいる可能性もある。
「ムギ、強い反応、おそらく中型以上」
「こっちでも捉えました。データ照合『魔物鑑定』」
シルヴィアの検索には劣るがアクティブにはSOネットを利用した魔物鑑定システムも組み込まれている。
「レーダーに光点二つ、二体いる」
「ミケ、採取はいったんやめて、ラビッⅡは集合、私の後ろに」
魔物の動きはあまり早くないがまっすぐこちらに向かってきている。これからこの道にはカズマたちもやってくる。逃げて合流するのも一つの手ではあるが、対処が可能な問題ならできる限り自分たちで対処したい、自分たちは護衛として雇われた冒険者なのだからとムギは決断した。
「情報不足により魔物鑑定失敗、クロエ」
「クローアイ射出、視覚情報を手に入れて」
起伏のない掛け声で一つ目烏を飛ばした。クロエはその視覚情報をムギと共有する。
魔物は二メートル以上の体格で発見は難しくなかった。
「もう一度魔物鑑定」
視覚情報が加わったことで今度は相手の正体を看破することに成功した。
「魔物判明、フォルテゴーレム、数は二体」
「それだけか、討伐レベルは」
「討伐レベル88です」
フォルテゴーレム。土の体を持つゴーレムが、フォルテ鉱石を取り込むことで上位種へと進化した魔物。魔力を含むフォルテ鉱石は流れる魔力の量によりその硬さを高めていく、その性質が気に入ったカズマもフォルテ鉱石から作られたメゾフォルテ合金をレオライラックの装甲に採用している。
「けっこうなレベルだな」
ミケが二本のアウルソードを引き抜き戦闘態勢を取り、ムギとクロエは魔導銃を構えた。
「左のフォルテゴーレムを狙います」
「了解」
クロエが魔導式スナイパーライフル・シャドウパンサーにエネルギーをフル充電させる。相手の位置はクローアイにより完璧に補足できていた。
フォルテゴーレムは隠れる気もなく、足音を響かせ三人の前に姿を現した。先手必勝とばかりに先頭にいるミケへ襲い掛かってくるが、射程はゴーレムの腕よりもクロエの弾丸の方が圧倒的に長い。
最大にまで高められたシャドウパンサーの一撃は、あっさりとフォルテゴーレムの装甲を撃ち抜き、ゴーレムを残骸へと作り換えた。
「こっちも行くぜ!!」
繰り出されるミケのアウルソードとフォルテゴーレムの腕がぶつかり合う。
鈍い金属音を上げてぶつかり合う剣と拳、体格は圧倒的にゴーレムの方が上だが、パワーもスピードもミケのレオライラック・ファイターの方が上であった。
ムギやクロエの援護を受ける必要もなく、岩アウルソードが地面を少しだけ陥没させて姿勢を崩すと炎アウルソードの袈裟懸けの一撃がフォルテゴーレムを斜めに両断した。だがゴーレム系の魔物は魔核を破壊されない限りは動き続ける。
滑り落ちた上半身も、腰から下だけになった下半身も止まらない。
ミケはレオライラックのフルパワーで下半身を押さえつけると、むき出しになった魔核を掴んで引き抜いた。
魔核を失ったフォルテゴーレムは、糸を失った操り人形のように崩れ落ち動きを止める。
「魔核は破壊よりも回収した方が、ボスが喜ぶからな」
「出番がありませんでした。二人とも少しは私にも回して欲しかったです」
結局ムギは魔導銃ハイパーマギライフルを構えただけで、一歩も動くことなく戦闘は終了してしまった。討伐レベル88は強敵である。
リーダーとして緊張感をもって指示を出し戦闘態勢を取っていたのに、あっさりと解決。ミケに至っては魔核を無傷で回収までしている。
「ムギがダラスと同じこと言った」
「ちょっとクロエ、いくらなんでもダラスさんと一緒にされるのはとても心外です」
「まあまあ落ち着けよリーダー、これからダンジョンに向かうんだぜ、活躍の機会ならいくらでもあるさ、そん時にボスに褒めてもらえばいいだろ」
「ムギも、私はカズマさんに褒められたいから文句を言ったわけでなく!!」
「はいはい、わかってるって」
ムギとミケが口げんかをしている横で、クロエはラビッⅡたちに採取を再開するよう指示をだしていた。
「今のうちに沢山採取してボスに褒められよう」
その後、合流したカズマが大量の回復薬の素材と二山もあるフォルテ鉄に飛び上がって喜び、ベルノヴァはお褒めの言葉と追加報酬をもらうことができた。
それから、効果が見込まれるとわかった先行採取は、何度も行われ、移動中も作業を続けたカズマにより一行は、採取用のアクティブビーストや回復薬を大量にストックすることに成功した。
目的地、ダンジョン都市サウスシャアまでは、あと少し。