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第131話『ラビッⅡ』

 野営地で偶然出会いった行商人一行からとてもいい話が聞けた。悪い話もあったけど。

 彼らはサウスシャアから来たそうで目的地の新鮮な情報がゲットできたのである。


「つまりサウスシャアでは回復薬の類が高騰していると」

「はい、つい半年ほど前に未攻略のダンジョンで数十年ぶりに攻略階層記録が更新され、希少な鉱石や素材が市場に流れまして、その噂を聞きつけた冒険者が集まり消耗品、中でも回復薬などの供給が追い付かない状況です」


 未攻略のダンジョン。サウスシャアを調べてその存在は知っていた。なんでも百年以上前に見つかったダンジョンで、百年かけて四十八層まで進んでいるが、まだ攻略されていない大規模ダンジョン。ちなみに普通のダンジョンは三十層~四十層くらいで最深部になり、小規模と分類されるダンジョンは十層までしかない所もあるらしい。

 そう言えばギルドの噂で四十九層到達で好景気だって話も聞いたような気がする。


「一番消費が激しい回復薬はすでに半年前の二倍近くまで値段が上がっています」


 いいね。バタラベガルの素材は中級の回復薬に使える。足りない素材は道中で集めながら進めば到着するころにはそれなりの数が揃えられる。


「こちらからも伺ってよろしいですか」

「ええ、どうぞ」

「随分と立派な魔導甲冑をお揃えですが、セシニ魔導工房かサウザンブレイ製作所(ワークス)どちらの品でしょうか?」


 なんですと。

 このアクティブ・アーマーは全てシルバーファクトリー製ですよ。もっともまだ外注を受けたのは南門守備隊だけ、まだまだ駆け出しの超無名工房だから知らなくて当然だけどね。

 仕事のできるメイドのシルヴィアさんから、素早く調べた二つの工房の情報がサーチバイザーに送られてきた。


 どれどれ。

 セシニ魔導工房。創立百年以上の老舗魔導工房で主に鎧を専門に制作していた。代々工房主が研鑽を続け鎧に魔法を付加して魔導甲冑の制作に成功、王族とも専属契約を結ぶ王国屈指の技能集団と。

 サウザンブレイ製作所。こっちは創立十年ちょっと、ダンジョンで発見された魔導甲冑の解析と量産化に成功。今もっとも勢いのある若手の魔導技師集団。

 一方は伝統と経験でもう片方は勢いと効率かな、この二つまるで対局のような集団だな。


「どうかされましたか」

「なんでもありません」


 いかんいかん、ついつい説明文を夢中で読んで無言になってしまった。


「この魔導甲冑アクティブ・アーマーはそのどちらの製品でもありませんよ」

「なんと、これほど精巧な造りはどちらかだと思ったのですが、驚きです。どこか別の国にある工房の、いやもしかしたらダンジョン品ですか、それにしては形に統一感があるのですが、まさか未知のダンジョンを新たに発見したと」

「どれもはずれです。これは我が工房シルバーファクトリー製です」

「シルバーファクトリー、聞いたことのない工房ですね」

「できたてですからね、ご縁とご用命があればよろしくお願いします」

「売れるといいですね」


 有名工房のどちらでも無いと答えてから目に見えて興味が失われていく、魔導甲冑は高額で取引される。そのため多くの者が制作に挑み、その殆どが失敗していった歴史があるそうな、我が工房もその内の一つと思われたのだろう。どうせシルバーファクトリーは無名工房ですよ性能を知らなければ少し変わった鎧にしか見えない。相手の方から話題を切り替えられてしまった。


 それからサウスシャアの未攻略ダンジョンの記録を更新したのがセシニ魔導工房の魔導甲冑を装備した冒険者集団で対抗意識を燃やしているサイザンブレイ製作所もお抱えの魔導甲冑部隊を送り込んできていると聞いた。


 つまり、サウスシャアに行けばいろいろな種類の魔導甲冑を見れると、もしかしたら新しいアイディアのヒントがもらえるかも、これは楽しみができたと喜んだのも束の間、探している素材を伝え持っていたら譲ってほしいと頼んでみたら。


「この二つの集団が新たな魔導甲冑を制作するために鉱石や魔物素材を買い集めて、特にレア金属も回復薬ほどでは無いですが品薄状態ですね」


 とても悲しい情報がもたらされた。

 回復薬だけじゃなく素材まで高騰しているなんて、なんてこった。





 翌日。俺は早朝に皆を集めて道中に素材集めをすると発表した。

 欲している素材が高騰しているとのことなので、到着までに同じく高騰している回復薬を作り資金源にしたい。


「と言うわけで、冒険者チームを今までの護衛と待機のローテイションに素材採取を加える」

「素材採取は了解しました。その上で一つ質問いいですか?」

「どうぞムギくん」

「そのカズマさんの後ろに並んでいるホーンラビットっぽいピンク集団は何ですか」


 いいよムギくん。制作者にとって制作した作品について聞かれるのは嬉しいものだ。


「よくぞ聞いてくれました。これは移動速度を落とすことなく採取するためのサポート用に制作した新しいアクティブ・ビーストです」



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■製造番号AB-400S・機体名『ラビッⅡ・スコビット』

◇超軽量級兎型 ◇カラー「サーモンピンク」

◇素材 フォルテ合金

◇機体構成

「コア」下級魔結晶

「タイプ」ラビット

◇武装

・メインウェポン

   :テイルスコップ

・オプション

   :探索イヤーアンテナ

◇補足

 AB-400D『ラビドリル』とセット運用を目的として制作されたアクティブビースト、2体セットでラビッⅡと名付けられた。主目的は素材採取であり、スコビットの担当はアンテナでの素材の発見と尻尾のスコップを使った採取である。外見はホーンラビットの革をかぶせているので野生のホーンラビット(グレー)と見分けるためにピンク色に塗装された。

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■製造番号AB-400D・機体名『ラブッⅡ・ラビドリル』

◇超軽量級兎型 ◇カラー「サーモンピンク」

◇素材 フォルテ合金

◇機体構成

「コア」下級魔結晶

「タイプ」ラビット

◇武装

・メインウェポン

   :ラビドリル

・オプション

   :胃袋倉庫

◇補足

 AB-400S『スコビット』とセット運用を目的として制作されたアクティブビースト。素材採取がメインのスコビットに対してドリルでの岩盤掘削と胃袋倉庫に収納しての運搬が主目的になる。また額の角がドリルになっており下級の魔物なら倒せるかもしれない。

 スコビットを同じく見分けるためにピンク塗装がされている。

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「な、なるほど、野生のホーンラビットと見分けるためのピンク色でしたか」

「これなら誤射はしなさそう」


 わかってくれるかクロエ、その通りだ。


「でも気のせいか、美味しそうな色に見える。何でだろう」


 それはなミケ、ブラックボアみたいな魔獣が見た目で釣れないかという願望も含まれている。だから普通のピンクではなくサーモンピンクにしたのだ。この色に中型以上の魔物が引き寄せられたら、さらなる素材や食材のゲットに繋がる。

 まあ、うまくいけばの話だけどね。


 このラビッⅡは全部で六セット十二機制作。昨晩ファーが捕まえたホーンラビット、お肉はありがたく頂き余った毛皮と骨と魔結晶を余すことなく使用した。


「最初の採取担当はベルノヴァにお願いする。この場の片づけは俺たちがやるから先行で出発してくれ」

「わかりました。大量の素材を期待していてください」

「おいムギ、本当にこの格好で出発するのか」

「これは少し恥ずかしい」

「何を言っているのです。今こそこれまでの恩義に報いる時。ベルノヴァの活躍する番です。気合を入れていきましょう。AW-03-L01レオライラック・ウォーリア出撃です」

「ああ、台本があったんだっけ、えっと、敵がいない時の出撃は、製造番号を読んでから機体名を言うのか、面倒くさいな、えーだぶる03える02レオライラック・ファイター行くぜ」

「エイダブリュー-03-エル03レオライラック・スナイパー発進する」


 真面目獣人少女ムギの頼もしい宣言と共にベルノヴァは出発していく、棒読みの二人を連れて。

 後の二人はもうちょっと気合が欲しかった、これはこれで面白いけど。

 ムギの凛々しい顔に厳ついアクティブ、そして一人四羽のピンク兎を抱えた姿はとてもシュールであった。そしてこのミスマッチな姿もカタルの外部カメラにしっかりと記録されるのであった。


評価や誤字脱字報告ありがとうございます。

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