第130話『ウルフバンカー改』
バタラベガルをせん滅し終えて。
「カズマくん、素材は花弁だけでいいんだよね」
「一応、蔦なんかも使えるみたいだけど、代用できる草がその辺で簡単に採取できるみたいだから無理に集める必要はないよ」
まだ出発して半日しかたっていない、これからも素材がゲットできそうなポイントがいくつかあるので、いくら倉庫用のカタルがあると言っても初日からかさ張る荷物は持ちたくない。
俺、リンデ、シルヴィアにファー、ウルフクラウンにベルノヴァ、しまいには車イスのクレハまでもがカタルから降り、総出で五十体以上のバタラベガルの解体を行った。
「くっそ、せっかくパワーアップしたってのに、まったく活躍できなかったぜ」
「お前な相手見て戦い方を考えろよな、一つ覚えの突撃ばっかしやがって、なんで強化された機体の性能をお前を抑えるために使わなきゃならないんだ」
「あはは、悪かったよ」
まったく悪気を感じていないダラスさんの謝罪にテルザーさんが口をゆがませた。いつものことなのでテルザーさんも言っても無駄だとわかっているけど、性格から言わずにはいられないんだろう。
素材の回収を最後の方は大雑把に終わらせて出発、思わぬ足止めを食ってしまったけど、バタラベガルに遭遇した以外は順調だった。時たま見かけるブラックボアなどは。
「そんなパワーじゃ俺には通じないぜ!」
真正面から突撃を受け止めたダラスさんが首にバンカーを打ち込み、肉に与えるダメージを最小限に抑えて倒したり。
「これで、今日の晩飯はゲットだな」
空から鳥系の魔物が近づいてくれば。
「レーダーに比較的強い反応、空か、それなら俺の出番のようだな」
種類を判別するよりも早くテルザーさんが魔法で撃ち落としたりと、カタルを止める必要もなく回収まで行い。馬車で二日の距離を一日で走破できた。バタラベガルと遭遇していなければ三日分は行けたけど、まあトラブルやアクシデントも想定していたので誤差の範囲だ。
「ようやく活躍できたぜ」
鉱山都市サウスシャアへと向かう道に自然とできた野営に最適なポイント。そこで嬉しそうにバンカーを磨くダラスさん。新しく増えたバンカーに大変満足しているようだ。俺的にはガチガチの格闘戦使用で乗りたいとは思えないけど。
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■製造番号AW-04Ⅱ-F/C・機体名『ウルフバンカーF型改』
◇中量級突撃型 ◇カラー「ウルフグレー」
◇素材 フォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」三連中級魔結晶
「ヘッド(H)」ウルフヘルム改
「ボディ(B)」強化アイアンプレート
「ライトアーム(AR)」強化バンカーアーム
「レフトアーム(AL)」強化バンカーアーム
「レッグ(L)」マルチグリープ18(最大18倍)
「バックパック(BP)」突撃ブースター
◇武装
・メインウェポン(AR)……手持ち式パイルバンカー
〃 (AL)……アイアンシールド
・サブウェポン・・・…両腕部内臓パイルバンカー
〃 (B)……魔導式ショットガン
〃 (L)……ワイヤーアンカー
◇補足
関節部とバンカーにミスリル塗装液を塗ることで強化、出力もコアを三連中級魔結晶に換装したことで約三倍になっている。強化型バンカーも右腕だけでなく両手搭載となり素材も鉄からフォルテ合金へと交換して耐久力が向上。
耐久力が上がったので、バンカーアームよりもさらに高威力で高反動な両手持ちのパイルバンカーを主力武装として装備させた。
マルチグリープ。ホバー移動、ローラー移動、固定スパイク、加速装置と四種の機能が備わっている。サブウェポンの魔導式ショットガンは完全な脳筋使用にしたくなかったカズマの最後の抵抗だった。ウルフクランのF型四機全てがこの改造を受けている。
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いや、本当にバンカーばかりが搭載された機体。
ウルフクラウンの他の前衛メンバーも全員この改造を施している。それでいいのかと何度も確認したけど前衛陣はダラスさんとほぼ同じ思考をしていた。みんなバンカーにほれ込んでいる。チーム名もウルフバンカーに変えればと提案したくなったほどだ。
そしてテルザーさんたち後衛の機体も前衛に合わせて強化した。全員分改造するって約束だったからね。
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■製造番号AW-04Ⅱ-B/C・機体名『ウルフバンカーB型改』
◇中量級後衛型 ◇カラー「ウルフグレー」
◇素材 フォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」三連中級魔結晶
「ヘッド(H)」索敵アンテナ内臓ウルフヘルム改
「ボディ(B)」強化アイアンプレート
「ライトアーム(AR)」強化バンカーアーム
「レフトアーム(AL)」軽量アイアンアーム
「レッグ(L)」マルチグリープ18(最大18倍)
「バックパック(BP)」魔力生成ユニット(中)ショルダーキャノン付き
◇武装
・メインウェポン(AR)……マジックランス
〃 (AL)……アイアンシールド
・サブウェポン(AR) ・・・…右腕部内臓パイルバンカー
〃 (BP)……魔導式ショットガン
〃 (L)……魔導式ショートソード
〃 (L)……ワイヤーアンカー
◇補足
B型を強化改修した機体になる。こちらにもF型ほどではないが関節などにミスリル塗装がされており、カズマ曰く、この機体でも十分に前衛が務められるとこぼしていた。
三連中級魔結晶コアのおかげで搭乗者の魔法使用がサポートされ威力、使用回数ともに上がっている。
ウルフクラウン所有のB型二機、両機ともこの改造を受けている。
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さて晩飯の時間だ。野営地と言っても日本のキャンプ地のように整えられているわけではなく、道のそばに開けたスペースがある場所のこと、馬車を止め野営をするのに適した場所に過ぎない。なので当然この場所には俺たち以外の旅人がいたりする。
盗賊が潜んでいることもあるそうなので、普通は軽く挨拶して後は不干渉なんだって。
あくまでも普通の場合、例外もある。
俺たちはカタルに完備した調理場を使い料理得意のメイド姉妹がジュージューと、いい音と匂いをさせながら今日ダラスさんが仕留めたブラックボアの塊肉を豪快に調理していると、離れた位置で野営をしていた男たちの中から、身なりの良い商人風の男性が近づいてきた。
「あの、すみません、少しお話を、よろしいですか」
年齢は三十代前半くらいか、男はサウスシャアからやってきた行商人だと名乗った。
サウスシャアからの十日ばかりの道のり、当然のこと新鮮な食材などは無く、保存食オンリーで食事をしていたところに食欲を刺激する匂いがして我慢ができなくなったとのこと、代金を払うから少し食事を分けてほしいとお願いされた。
俺はサウスシャアからの行商人と聞き、代金はいいからサウスシャアの情報が欲しいと交換条件を持ち掛ける。
食事を譲ると言った瞬間、背後のウルフクラウンとミケがいるあたりから鋭い突き刺さるような気配を感じたけど、この旅の目的はサウスシャアでの素材集めで君たちは俺に雇われた冒険者だよねと、強い心で気配を無視。
「そこの雇われ冒険者ども、肉はいっぱいあるから知能を低下させるな見苦しいわよ」
いつの間にかに、茂みの中に移動していたファーが飢えた獣になっていた連中を注意する。その手には焼き肉の匂いに引き寄せられた魔物ホーンラビットが十数匹も吊り下げられていた。
討伐レベル3とほぼ最下級の弱い魔物で子供でもこん棒を持てば追い払える程度の戦闘力しかないが、肉は脂が少なくなかなか美味で冒険者ギルドでは常時依頼として張り出されており、駆け出しの冒険者がランクアップのために追い掛け回す魔物の代表だ。
ブラックボアに数種類の鳥系の魔物そしてホーンラビットと、今夜の野営地で様々な肉料理が振舞われた。
「どう、カズマくん」
食事する人数が増え、リンデも自主的に調理の手伝いへと回りホーンラビットの肉を串にさして焼き上げる。
「俺個人の感想では、ブラックボアの肉は癖があって硬く、鳥系の魔物もパサパサで微妙、ホーンラビットが一番口にあったかな」
昔会社帰りによく立ち寄った数十円焼き鳥に似た味がした。リンデが焼いてくれたと嬉しさまでもがプラスされとても美味。
俺の返事に嬉しそうに頷いたリンデは追加でホーンラビットの串肉を焼き始める。
その串は予約ね。他の人はメイド姉妹が焼いた肉をお食べください。
さあ、行商人さん。護衛の冒険者たちの分まで肉を分けてあげたんだから、サウスシャアでの有益な情報をくださいな。