第128話『レオヴァルキリー・アンフレームド』
俺は頑張った。
ここ一週間、一日の平均睡眠時間は二時間もなかった。
守備隊の依頼の残りのドグーラを制作したし。
ムギの機体も完全修復。
ウルフクラウンの六機全部の改造もした。
そしてリンデ専用機の本体も完成させた。本当は武装まで作りたかったけど、時間と材料がたりなかった。
つまり、とにかく頑張った。
だからとにかく眠い、起きたくない。
ここはダンジョン都市へ向かうカタルの中、かすかに感じる振動すら心地よい。
「マスター、起きる時間となりました。起きますか」
今は眠りが浅いタイミングなのかなシルヴィアが起こしに来てることが理解できるけど、すまない、今は体と精神が起きることを拒絶している。
「起きた方がよろしいですよ、現在、リンデ様がナマ着替え中です」
「ナマ、なんだってーーー!!」
全身の細胞が一瞬で目を覚ました。
なんだって、と叫んだはずなのに、口からは別の言葉が漏れた気がするけど。
「おはようございます。寝起きでも元気なマスター」
「やってくれるじゃないかシルヴィア」
「ありがとうございます」
「褒めてない!」
このメイド様はかわいい顔して主で遊びやがる。
「遊びも含んでいますが、ナマも本当です」
更衣室から着替える音が聞こえてるから、指で示さなくてもリンデがいることはわかっています。
「ナマって言うな」
連日の疲労が回復していないのに、さらに疲れた気がする。
「流石シルヴィアさん。カズマくん目を覚ましたんだね」
「おう、なんとかな」
新しく製作したホワイト系カラーのインナースーツに着替えたリンデが脱衣所から出てきた。シルヴィアがナマなんて言うから、全身フィットのインナースーツ姿のリンデを直視できないじゃないか。
「健全少年ですねマスター」
「うるさいわ」
いかん気持ちを切り替えろ、このまま不審な行動をとり続けるとシルヴィアに遊ばれ続けてしまう。俺はゴホンと咳払いをして、白い布をかぶしているアクティブの前へと移動した。
「もう、わかっていると思うけど、こいつがリンデ専用の機体だ。材料の関係で専用の武装までは作れなかったけど、これまで製作したアクティブの中で間違いなく最高傑作だと断言できる」
俺は布に手をかけ、勢いよく取り去った。
舞い上がる白い布の下から出てきた白銀色に輝くアクティブアーマー。
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■製造番号AW-03-UF・機体名『レオヴァルキリー・アンフレームド』
◇中量級汎用型 ◇カラー「ホワイトゴールド&スカイブルー」
◇素材 ミスリル
◇機体構成
「コア(C)」三連上級魔結晶
「ヘッド(H)」ヘッドギア・レオヴァル
「ボディ(B)」レオヴァルアーマー
「ライトアーム(AR)」レオヴァルアーム
「レフトアーム(AL)」レオヴァルアーム
「レッグ(L)」レオヴァルレッグ
「バックパック(BP)」飛翔ユニット
◇武装
・メインウェポン(AR)……ハイパーマギライフル
〃 (BP)……雷鳴アウルソード
・サブウェポン(L)……マジックガンソード
〃 (AL)……ウィンドスカイシールド
◇補足
カズマがリンデのために設計したリンデ専用機、コアに三連上級魔結晶を用いた初めての機体。構成素材はフルミスリルで制作され、武装にもミスリルが使われる設計になっていたが、ミスリル不足で武装が制作できずレオライラック・ウォーリアのBPと武装を流用。
外見はカズマがリンデの魅力を最大限発揮できるようにと戦乙女ヴァルキリーをモチーフにしている。アンフレームドの名称は装備が未完成の意味で付けられた。カズマはいつか装備も完成させアンフレームドを消したいと願っている。
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「……すごい、輝いてる」
「本当は武装まで作って渡したかったんだけど、素材とか時間とか素材なんかが、ちょっとたりなくて、でも、必ず完成させるから待っていてくれ」
「これだけでも十分過ぎると思うんだけど」
レオヴァルキリーを装着したリンデはスペックを見て満足してくれているようだけど、俺自身が納得できていない。この機体はヴァルキリーをモチーフにしている。なので当然ミスリルで作った翼なども付ける予定だったんだけど、圧倒的にミスリルが足りなかった。
ウルフバンカーの強化にもミスリルを少量使ってしまったし、もう手元には弾丸一発分のミスリルも残っていない。
それでも、俺はあきらめない。
「必ず完成させるから‼」
「わ、わかった、楽しみに待ってるね」
ダンジョンでミスリルを獲得できることを願わずにはいられない。
「マスター、リンデ様相手に興奮されている所、申し訳ありませんが」
「言い方、誤解を与えるような言い方やめてくれ!」
ほらリンデが苦笑いしているじゃないか。少しだけ興奮している自覚があるのでシルヴィアの言っている事を否定はできないけど、あきらかに俺をからかっているだろ。
「まさか、緊急事態です。こちらでレーダーをご覧ください」
差し出されたのは寝るときに外したサーチバイザーだ。もう心の声が返されるのも慣れてしまった。
俺はサーチバイザーを受け取りレーダーを起動させると、四台のカタルに並走する魔物を示すマーカーが複数表示されていた。
「シルヴィア、魔物の正体はわかるか」
「魔力パターンデータ検索、該当はありません。ですが植物系の魔物に似たパターンがいくつか見られます。内包する魔力量からの推測になりますが、EからDランクの植物系の群れの確率七十八パーセント」
「道のそばに出る魔物にすれば強い気がするけど、ウルフクラウンのメンバーだけでも対処できそうだな、だけど」
「だけど、せっかくだからこの機体の性能テストしたいよね」
俺の言いたかったことをリンデが引き継いでくれた。気が合いますねリンデさん。
「カタル後部ハッチオープン。レオヴァルキリー・アンフレームド発進準備」
と俺が叫ぶと。
「カタルの後部ハッチオープンします。レオヴァルキリーの固定フック解除、発信準備完了」
シルヴィアが壁にあるカタルの操作パネルで発進準備を整えてくれ。
「レオヴァルキリー・アンフレームド。レオリンデ・フジ行きます!」
俺が渡した台本通りのセリフを叫びリンデがかっこよく出撃していってくれた。
俺の作ったアクティブを装備した美少女が、アニメでよくあるセリフを叫び母艦(亀型馬車)から発進していった。
感動しかない。
日本にいた頃、プラモデルを改造しながら何年も夢見た光景が現実となった瞬間だった。
もちろんサーチバイザーとカタルの内部カメラ各種は録画モードになっている。
この日のために様々なパターンの台本を書き、リンデはもちろん、シルヴィアやファー、ウルフクラウンにベルノヴァのみんなにも覚えてもらっていた。お約束の場面に遭遇したら使ってもらおうと、各人のバイザーにもカンペが出るようになっている。もちろん危険な魔物が近くにいる時などは自動でオフになる安全設計だ。
ファーには技術の無駄遣いだと怒られたけど、俺は夢のためには自重しないと決めた。
「マスター、この台本を書かなければ、もっと睡眠時間を確保できたのでは」
「……うるさいな」
体が若返ったから徹夜も少しはできるんだよ。
「後悔はない」
「そうですか、カタルの外部カメラを全て起動します」
スペックデータには書き込んでいないけど、カタルにはシルヴィアの録画機能を応用した十数個のカメラを装備している。
「全部最高画質で録画開始ね」
俺の戦いはまだまだこれからだ。