第127話『カタルで出発』
ダンジョン素材集めチームが結成されてから一週間後の早朝。
鉱山都市サウスシャアへ出発するため魔導工房シルバーファクトリーの前には三つの冒険者チームが集合していた。
魔導工房シルバーファクトリーの冒険者チーム。チーム名は変更するのも面倒だとそのままシルバーファクトリーで登録。副リーダーに任命されたリンデ、補佐役シルヴィア、メイド筆頭のファー、そして魔導車椅子を手に入れたクレハがこの場にいる。クレハの参加はメンバー内でも賛否があったが、戦争に行くわけでもないので三カ月も留守番させるよりは一緒に行こうとカズマの意見が採用された。
次にウルフクラウンのリーダーダラス、副リーダーテルザーといつもの六人フルメンバー。全員の機体が改造されておりやる気が漲っている。
最後のベルノヴァもムギ、ミケ、クロエの三人娘が欠けることなく集合。悪魔像によって壊されたムギのレオライラックは完全に再生修理が終わっており磨き上げられたボディがまだ登り切っていない太陽の光を反射させていた。
集まったのは全部で十三人、リンデとクレハを除く全員がアクティブを纏ったフル装備状態。本来ならあと二人この場にいるはずだったのだが、諸事情により姿を見せていない。
「我がシルバーファクトリーの依頼を受けていただき、ありがとう。依頼主にかわって礼を言う。三カ月と長い期間だがよろしく頼む、契約通り期間内のアクティブの修理や整備は万全に行う用意ができている。諸君は存分に実力を発揮して欲しい」
依頼主がいないので代わりに新副リーダーであるリンデが以前の騎士風の固い口調で挨拶、冒険者の出発には似合わないが、この場にいるのは全員身内みたいな者たちなので苦笑い程度で流している。
「それでは出発しよう」
「よし、最初の護衛は俺たちだな、お嬢さんたちは馬車っぽいモノに乗ってくれ」
雇った人数が多いので道中の護衛は班に分かれてのローテーションで行なうとリンデが中心となり事前に決めていた。シルバーファクトリー、ベルノヴァがダラスに従って馬車っぽいモノに乗り込む。
どうして馬車と断言しないのか、それは形状があまりにも馬車とかけ離れていたから、ではどうして馬車っぽいと呼称するのか、それは用途が馬車と同じだからだ。
人を乗せて徒歩よりも早く移動する乗り物、それが馬車だ。この世界でもっとも一般的な乗り物である。この馬車っぽいモノも用途は人や物を乗せて運ぶために使われる。
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■製造番号AB-300・機体名『カタル』
◇重量級亀型 ◇カラー「モスグリーン」
◇素材 フォルテ合金
◇機体構成
「コア」三連中級魔結晶
「タイプ」タートル
◇武装
・メインウェポン
:魔導機銃四門
・サブウェポン
:六連式L2PBミサイルポッド二門
・オプション
:大型探査アンテナ
:バストイレ
◇補足
亀の形をした移動用アクティブ・ビースト。サイズは大型トラックほどあり最高移動速度は馬車の三倍以上、甲羅の中は居住スペースとなっており小さな一軒家ほどのスペースがある。頭部の探査アンテナで周囲を調べ魔物や素材を探し出し、防衛用として各脚部の上に魔導式機銃と甲羅の左右にL2PBミサイルポット(2リットルペットボトルサイズ)が装備されている。さらに足の延ばせるバス&水洗トイレ完備。
防衛都市サウスナンから鉱山都市サウスシャアに移動と運搬手段として四機が製作された。一号機が男性居住用、二号機が女性居住用、三号機が道中でも製作活動ができるようにとカズマ専用工房、そして四号機は荷物運搬が主目的の倉庫となっている。
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馬のいらない自動で動く馬車、つまりは車だ。亀の形をした車、カータートル。略して『カタル』。
早朝なのでまだ人通りは少ないが、すれ違う人々は一様にぎょっとして目を見開き道を譲ってくれる。
「やっぱりお前たちか」
早朝なので騒音トラブルを考慮して消音歩行でゆっくりと南門に到着すると、守備隊長であるベテルドがわざわざ出迎えてくれた。
「これは、甲羅をもった海竜か」
「製作者曰く亀型だそうだ。これからサウスシャアのダンジョンに行く」
「お前たちなら素材集めにいつかは向かうと思っていたよ、工房があるんだから帰ってくるのだろ」
「二カ月半から三カ月で帰ってくる予定だ」
製作者兼代表がいまだに姿を見せないので、代理としてここもリンデが騎士モードで対応。
「依頼の品の残りも一番後ろのカタルに乗せてある。確認してくれ」
南門守備隊からの注文である拠点防衛型アクティブ・アーマー『ドグーラ』をダンジョンへと行く前に、なんとか最終ロットまでをカズマは完成させていた。出発まで一週間かかったのは準備のためもあるが、このドグーラの製作に時間が必要だった。
「確かに残りのドグーラをすべて確認した。ありがとうと工房主殿にも伝えておいてくれ」
「承知した。それでは我々は出発する」
「いらない心配だと思うが道中気を付けていけよ」
ドグーラを受け取った南門守備隊に見送られ四機のカタルが南門を潜り抜けた。
リンデは女性用の二号機には戻らず工房用の三号機へ。
カタル三号機の中は半分が作業スペースで残りの半分がアクティブ2機を固定できるハンガーとなっている。二つのハンガーは共に埋まっており白い布がかぶせられていた。
その内の一つがあらかじめ自分用だと聞かされているリンデは布を取り見てみたい衝動を押さえ、作業台で気持ちよさそうに寝ている工房主へと近づいていく。この後、カズマからリンデ専用機の説明を聞く予定となっていたのだが。
リンデの接近に気が付かない工房主カズマは、仕事をやり切った晴れやかな表情で気持ちよさそうに寝息を立てている。そして、わずかに揺れる頭の上には一日の半分以上を寝て過ごす光の妖精ノネが緩んだ表情で惰眠をむさぼっていた。
「さて、どうしようか」
南門を出たら起こして欲しいと頼まれていたリンデだが、あまりにも気持ちよさそうに寝ているので起こすのが躊躇われた。
「リンデ様、マスターは起きられましたか」
「それが、ちょっと」
後からやってきたシルヴィアに少し困った感じで答える。
カズマがこの時間にカタルの中で熟睡しているのは一週間ほぼ全力で仕事をしていたからだ。納品用のドグーラや移動用カタルの製作に、ウルフバンカーの強化、悪魔像との戦闘で破壊されたムギのレオライラックの修理、リンデ専用機の組み立てなど他の職人では考えられない仕事量を一人でこなした。
出発の挨拶ができなかったのはこれが原因、起こすのはかわいそうに思えるリンデがどうしようかと悩む。
「予想通りですね、リンデ様、今のうちに新しいインナースーツにお着換えください。マスターは私が起こしておきます」
「かなり熟睡してるけど」
「大丈夫です。マスターが一発で目覚める専用キーワードを獲得していますので、リンデ様は安心して新型用のインナースーツにお着換えください。マスターが目を覚ましましたら新型の説明になりますので」
シルヴィアに背中を押され、カタルの脱衣所へと入る。ここで悩んでも仕方がないと、着ている服を脱ぎインナースーツを履こうとした所でカズマが叫び声をあげて目を覚ました。
「なま、なんだってーーー!!」
扉越しでも良く聞こえるほどの声量、いったいシルヴィアは何と言ってカズマを起こしたのだろうか、理由はわからないがリンデは少しだけ背筋にゾクリとする悪寒がした。
「なまってなに?」
読んでいただきありがとうございます。
年末の休みがどれだけ休みになるのか……
年内にもう一本、更新予定。