第126話『リストアップ』
クレハは自由に動ける足を手に入れたのがよっぽど嬉しかったのか、試走がしたいとリンデとファーを連れて散歩へと出かけて行った。
俺は南門守備隊の依頼である拠点防衛型ドグーラの生産作業を昼過ぎまでこなし、そろそろ小腹が空いてきたのでいったん休憩、手を止めるとちょうど壊れたショウ・オオクラ製のオークションテントの状態を調べに行っていたシルヴィアが帰ってきた。
「ただいま戻りましたマスター」
「ご苦労様、どんな感じだった」
「必要な素材のリストアップに成功しました。テント本体の核に設計図が残っていたので一緒にダウンロードしてあります」
『オークションテントの修理で必要な素材』
■魔物素材
・ジャンバットの皮膜 40枚
・ユクチオドレイクの骨 120本
・アルボの核 250個
・ファグトレントの木材 50個
・モスダイルの皮 100枚
・門番グレートキーパーの核 1個
■ダンジョン鉱石
・ダジャダイト 20個
・ダンジョンクリスタル(レッド・ブルー・イエロー・ブラック)4色各10個
ジャンバットって以前に悪魔像・少佐級の洞窟にいた大きな蝙蝠だよな、他の魔物は名前も聞いたことがないけど、少なくともここサウスナンの冒険者ギルドの討伐依頼にはなかった。
珍しい魔物なのかと検索してみたら、地上ではほとんど見かけないダンジョン内にいる魔物だとわかった。
ユクチオドレイクはダンジョン内の地底湖などにいる目の無い小型水竜。
アルボはダンジョンにのみ出現する丸形の鳥系魔物。
ファグトレントは牙のある裂けた口を持つ樹木の魔物。
モスダイルは頭がワニで体が黒牛のような魔物。
門番グレートキーパーは、名前の通りダンジョンの奥などに設置されている門の番をしている魔物らしい。
この六種類が魔物の素材で残り二種類が鉱石と。
ダジャダイト、ダンジョン内のみで採掘できる魔力を帯びた黒い鉱石。
ダンジョンクリスタルは、ダンジョンに生息する魔物の体内からたまに取れるクリスタルとのこと。
必要な素材は合計八種類。
「冒険者ギルドに売ってたりは?」
「していませんでした。念の為、貿易商のコルネ・コルスター様にも確認を取りましたが、ここサウスナンでは需要がほとんど無い素材とのことで、取り扱っていないそうです。いくつかは取り寄せは可能だとのことですが、納品まで早くても数カ月、遅いと一年以上先になりそうだと」
それじゃ期日までに間に合わない。
「自分で取りに行くしかないか、どこか良い採取場所ってあるかな」
「この街より西にある鉱山都市サウスシャアが有力候補かと、都市内部およびその周辺には大小十三のダンジョンがあります。九十八パーセントの確率でリスト全ての素材が採取できると推測します」
「鉱山都市か」
鉱山ってことは、いろいろな鉱石や鉄塊なんかも豊富にありそうだな。
この都市から西に馬車で八日の距離か、時間制限があるからな片道に八日は地味に痛いロスだ。
「マスター、サウスシャアなら素材や鉱石が売りに出されている可能性もあります。全て採取しなくても購入で時間短縮を計れるかもしれません」
「確かにその通りだ。アクティブの全速力を使って一気にサウスシャアに行くべきか」
「早計な判断ですマスター。行きはそれでもかまいませんが、帰り道アクティブのコンテナだけでは素材全てを載せるのは不可能です」
ああ、そうだよな、数百個の素材だもんな、当たり前だがコンテナには入らない。
「急がば回れか」
クールダウンだ。頭を冷やそう。
落ち着いて、素材を集めるには何が必要かを丁寧に考えるんだ。
まずは馬車よりも早い移動手段が必要、それに集めた素材を持ち帰るための運搬方法、もし素材が売りに出されていた時のための購入費。そしてダンジョン内での素材集めのための人手か、多ければ多いほどいいよな、ダラスさんたちやムギたちにも頼もう。
「よし、決めた」
「どのように動かれますか」
「一週間後に鉱山都市サウスシャアに向けて出発する。それまでに受けている依頼と準備を完璧に終わらせるぞ。シルヴィア、ウルフクラウンとベルノヴァに指名依頼を出すから冒険者ギルドの手続きを頼む」
「了解ですマスター」
依頼の詳細をバイザーからシルヴィアに転送したところで頭上から声がかけられた。
「俺たちに何か頼み事か」
「ベルノヴァへの指名と聞こえましたが、カズマさんからの依頼ですか」
依頼を発注するよりも早くに当人たちがやってきた。
「三カ月ほどの長期の指名依頼だ。ちょっと鉱山都市サウスシャアのダンジョンで素材集めをしたいから、護衛と採取の手伝いを頼みたい」
「三カ月をちょっととは言わないだろ」
「護衛依頼で一ヵ月の経験はありますが、そこまで長い期間は初めてです」
やっぱり三カ月の期間は長かったか。
いくら指名依頼は査定ポイントが高くても、拘束時間が長いと他の仕事は受けられないし、昇級速度が遅くなるよな。ただでさえ二年も開拓村に閉じ込められていたウルフクラウンは昇級に飢えている。
なのでサービスを上乗せしよう。
「もちろん、ダンジョンで採取できた素材も俺たちに必要無いモノはギルドに提出して採取依頼を達成させてもOKだ」
「マジかよ、指名依頼中に他の依頼を受けてもいいのか」
「他では信じられない待遇ですね」
冒険者ギルド規定を読んだけど、雇用主が許可を出せば他の依頼を受けても良いらしい。もっともめったに許可を出す依頼主はいない、だって契約中の冒険者がゲットした素材は全て自分の物になるのだから、自分で売った方が儲けが出る。
この条件で二チームはかなり揺れているようだな。
ここは、畳み掛ける場面だ。条件を追加して断れない空気を作る。
「さらに、依頼期間中の機体のメンテ、修理の費用は全てウチが負担するぞ」
「いいのかメンテや修理がタダって、最高じゃないか!」
普通、指名依頼期間中でも武具の調達や修理は自己負担。
「前に約束した改造も当然タダでやります。ムギの機体修理も費用はいらないぞ」
「正式な返事は仲間と相談してからになるが、任せろ、絶対にイヤとは言わせないから!」
「私たちベルノヴァも参加の方向で検討させてもらいます」
こうして鉱山都市サウスシャアでのダンジョン素材集めチームが結成された。