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第124話『逆転、崩壊』

 俺は作り出した崩壊の弾丸を魔導式リボルバーに装填した。

 ロックオンアームが無いのが悔やまれる。命中させるには俺自身の射撃力で決めなければならない。それに、アクティブで使うことを前提に作ってるからこのリボルバーの反動はかなり強い、けっこう近づかないと命中させられない。


「リンデ、そいつの動きを止めてくれ、トドメは俺がやる」

『任せて!』


 迷いの一切ないはっきりとした返事に、全身に緊張が巡る。

 俺から言ったことだけど、少しも疑わないのはどうなんだろうリンデさん。信用されるのは嬉しいけど、同時にプレッシャーを感じてしまう。


「リンデが信じてくれたんだ、やるしかない、やるしかないんだ」


 リンデは攻撃を特佐級の足へと集中させ動きを鈍らせていくが、動きを止めるまでにはいかない、やはり決定力不足だ。援護したいけど、何かないか。


「そうだ」


 俺はリボルバーの通常弾に必中と付加した。某ロボットゲームの御なじみワードなのでとてもイメージがしやすかった。普段はロックオンアームがあるから使っていなかったが、倒すためでなくけん制目的なら十分効果を発揮できる。

 大振りの攻撃を交わしたリンデと特佐級の間に距離ができた。


「くらえ!」


 眉間、両目、喉、心臓、人間なら確実に急所となる場所を狙って五発の弾丸を発射した。弾丸は物理法則を無視した曲線軌道を描き狙った箇所へと飛び、見事に五発全弾命中。

 特佐級はうめき声をあげ数歩後ずさりした。ダメージはそれほど無さそうだが、目的の援護は十分に果たせた。


 三十二倍の加速を使いリンデが地面スレスレを滑空するように走り、アームソードを特佐級の足へ深く突き刺した。

 今までよりも深い、アームソードが根元まで入った。

 このまま足を斬り飛ばせる。そう思ったんだけど、ミスリルアームソードの内側、チェイスの元々のパーツが衝撃に耐えられず自壊して隙間から破片が飛び散り、無傷のアームソードからすっぽりとリンデの腕が抜けてしまった。


「まだまだ!!」


 唯一の武器を失い、もうだめだ逃げろと俺が叫ぶよりも早く、リンデは飛び上がると、戦技法『雷針脚(らいしんりゃく)』を放つ。後から聞いた話だけど雷針脚とは力を足先に集中して破壊力を高めた蹴り技で、生身の足で使っても鉄の盾を凹ませる威力があるとか。

 そんな技を三十二倍に高まった脚力で、さらにミスリルの装甲付きが、足を傷つけられ前かがみになった特佐級の背中に突き刺さった。

 特佐級をつぶすように地面に磔にする。

 過激だ。


「カズマくん!!」

「お、おう!」


 リンデの足技に驚愕している場合じゃない、俺は走った。

 生身の足で全速力、リンデに比べればナメクジみたいな速度かもしれないが、もう必死で走りました。

 動きを止めてくれと頼んで、それを見事に答えてくれたんだ。接近戦が嫌いでも今回ばかりは相手の顔がはっきり見える距離まで近づかなければならない。

 俺の中の定義では、例え剣や槍が届かない間合いであっても相手の表情が見える距離での戦いは接近戦である。


 もがく特佐級、だが、片腕を失い片足にはまだ深々と刺さったままのアームソード、蓄積させたダメージの影響でリンデの踏みつけから逃れられない。

 近くで見るとリンデの足が足首あたりまでめり込んでる。これなら動けないな。

 あわてるな、でも急げ、慌てないで急ぐんだ。

 うわ、もがく特佐級と目が合っちまった。漏らしそうになるくらい怖すぎるんですけど、だから接近戦なんて嫌いなんだ。

 だけどリンデが見ているんだ、こんな時くらいは意地を張れ、俺の小鳥心臓。


「カズマくん、早く!」

「わかってる!!」


 チェイスの装甲が軋み悲鳴を上げている。時間がない。

 勢いだ、止まったら恐怖で動けなくなる。勢いで狙いを付けて、その流れで引き金を引け、止まるな、特佐級は石かジャガイモだとでも考えろ。


「当たってくれ!!」


 指が痛くなるほどの勢いで引き金を引いた。

 発射された弾丸は、大口を空けていた特佐級の口に飛び込んでいく。


「……命中した」


 よかった、本当によかった、外したらもう後がなかった。

 崩壊の弾丸をくらった特佐級はこれまで激しくもがいていた動きを止め、本当に悪魔の形をした石像のように固まると、全身に無数のヒビが入り、他の悪魔像を倒した時と同じように紫の砂となって崩れた。


 腰砕けになりへなへなと座り込む。


 風の無いテントの中なので紫の砂はその場にとどまり小山となった。まったく魔物と違って倒しても使える素材が取れないのに、上位の悪魔像を倒すためには強力な装備が大量に必要って割に合わなすぎる。


「お疲れリンデ」

「カズマくんもお疲れ様」


 座り込んだ俺の元に、変な軋む音を出しているリンデのチェイスがやってきた。装甲の隙間からポロポロと限界を超えたチェイスの破片がこぼれ落ちている。これは修繕不可能なレベルのダメージだな、外したらもう装着は無理だろう。


「待ってろ、今外すから」

「ありがとう、開閉の操作を受け付けないからちょっとだけ困ってたんだ」


 急造の改造だったので開閉装置を取り付けていなかったよ、リンデがチェイスから出るためにはけっきょく一部は壊さなければならなかった。

 開閉の妨げになっている場所のミスリル装甲を外すと、バリンバリンと何かが割れる音と一緒にリンデが解放される。予想通り、いや予想よりもチェイスの損傷は大きかった。ミスリルアーマーの下はほぼ原型をとどめていない。


 さっきの銃撃を外してたら本当に人生が終わっていたかも。

 そもそもリンデが助けに来てくれなかったら、どうなっていたか。

 特佐級が倒れたとわかったオークション参加者たちが瓦礫の間からわらわらと這い出して来る。レーダーでいることはわかっていたけど、じかに見るとこれだけの人が隠れていたのかと驚かされる人数だ。

 そんな人たちを横目で見ながらリンデに特佐級の足止めをしてくれたお礼を伝える。


「ありがとう、本当に助かったよ。でもどうしてリンデがこんな所に――」


 言葉が詰まった。俺はあまりの驚きに言葉が止まってしまった。

 だって、リンデの首には奴隷を示す首輪が巻かれていた。


「リンデ、それはいったい」

「ごめんカズマくん、約束を守れなくなっちゃった」


 リンデって騎士の家のお嬢様なんだろ、それがなんで、そんな姿に。

 リンデとの再会は、あまりの予想外で悪魔像を倒した喜びなど吹き飛ばされた。


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