第123話『MAチェイスR』
痛む腕を押さえリンデを連れて、ある場所をめざす。
そこには、気絶したチョイ乗り青年を助け起こす回復士の少女がいた。
「カズマくん、もしかしてこの人の着ている鎧を使うつもり」
「そう、この鎧は俺がオークションで競り落とした物なんだ、それを勝手に使われたの」
「ごめんなさい、お止めしたのですが、聞いてもらえず」
「緊急事態だったから責めないよ、この鎧は返してもらうけど」
正式にはまだお金を払っていないので俺の物にはなっていないけど、後でちゃんとお金を払うので問題ない、緊急事態だから。
「ムギ、ファー、シルヴィア、五分だけ時間を稼いでくれ」
サーチバイザーに三人から了解の返事。ムギたちが必死で戦ってくれているんだ、急がなければ。
「まずは鎧を脱がして、いッ」
鎧を剥がそうとしたら、また腕に激痛が走った。
「腕をケガされたんですか、見せてください」
回復士の少女は俺の傍に駆け寄ると、折れた腕を確認する。
「このくらいなら、何とかなりますね。少しじっとしていてください」
彼女は小型の杖を取り出し、素早く回廊魔法をかけてくれた。簡単に使っているように見えるけど、使ってくれたのは高度な回廊魔法だ。低位の回廊魔法は擦り傷とか軽傷を直すのがやっとなのに、彼女は淀みなく骨折した腕を直すほどの高位の回廊魔法をかけてくれたのだ。
腕から痛みが無くなり、ずっとあった熱も覚めていく。
手を強く握っても激痛は襲ってこず、完全に治っていた。
「違和感はありますか」
「まったくない、ありがとう」
もう一度確認するけど、ケガなど最初から無かったと錯覚しそうになるくらい完治している。
「これなら」
俺は両手を使ってミスリルの鎧を剥ぎ取る。時間が無いので『変形』を駆使して時短作業、隣にいる回復士の少女は粘土のようにグニャグニャ曲がるミスリルに驚いている。
「この能力は内緒で頼む」
「は、はい」
うかつだったけど素直そうな子だし、信じよう。今は信じるしかない。
「リンデ、ここに立ってくれ」
「こうかな」
「時間がないから、装備したまま改造するぞ」
「全部、カズマくんに任せる」
時間も機材もないから細かい所まで作り込むことはできない。だけどリンデの機体はこれまで一番設計図を書いて頭の中のイメージは鮮明にできている。
まずは、上級魔結晶を外付けのブースターコアにして機体の出力を上げる。出力が上がれば当然のこと関節部分に大きな負荷がかかるようになるのでゲットしたミスリルを『変形』で形状を変えて、肩、腰、手首に足首などなど、関節部分に流し込み強化する。
ここまででサーチバイザーのタイマーが三分経過を表示する。
約束の五分まで残り二分。
リアルタイムで表示されるムギのレオライラック・ウォーリアの状態、ダメージが蓄積されていっている。急がないと。
いくら能力でプラモ感覚でパワードなスーツが作れるようになっても、悪魔像が暴れる戦場では簡単に作れるものじゃない。雷鳴魔法が使われるたびに、こっちに飛んでくるんじゃないかと全身から冷や汗が噴き出す。
よし関節の強化は終わった。あとは残ったミスリルを使ってボディの上にアーマーパーツとして取り付ける。
『マスター、スカイシールド大破しました』
『ライフルの実弾が弾切れ、魔力弾だけだと威嚇にもならないわよ!』
サーチバイザーにメイド姉妹から悲鳴のような報告がきた。援護するシルヴィアとファーのおかげで、ムギは何とか悪魔像・特佐級を抑え込んでいた。援護が無くなれば均衡が崩れる。
レオライラック・ウォーリアのライトアームが破損、飛行ユニットも連続使用でオーバーヒート、主力であるハイパーマギライフルも握りつぶされた。
『やられっぱなしでいられるか!!』
普段冷静なムギが吠えた。サーチバイザーを通した音声と生声、両方が耳に飛び込んでくる。
ムギは機体の片腕を失いながらも、最後の意地で悪魔像・特佐の片腕を斬り落としたのだ。
勢いを殺すことができず、斬った時の勢いで地面を削りながら転倒した。
「ありがとうムギ、良く時間を稼いでくれた」
約束の五分、リンデのチェイスの改修は完了した。
==============================
■製造番号AW-06-P-R・機体名『ミスリルアーマー・チェイスR』
◇重中量級汎用型 ◇カラー「白銀」
◇素材 軽量鉄材&ミスリル
◇機体構成
「コア(C)」上級魔結晶+後付け上級魔結晶
「ヘッド(H)」チェイスヘッドギア
「ボディ(B)」軽量アイアンボディ(ミスリルアーマー)
「ライトアーム(AR)」リペアアーム
「レフトアーム(AL)」軽量アイアンアーム(ミスリルアームソード)
「レッグ(L)」アクセルグリープ32(最大32倍)
「バックパック(BP)」なし
◇武装
・メインウェポン(AL)……ミスリルアームソード
◇補足
中破したリンデのチェイスをカズマが戦闘中に修理、強化した機体。外付けコアで出力を上げ、手に入れたばかりのミスリルをふんだんに使って重装甲へとビルドアップ、急ぎの改装であったため武器はレフトアームと一体になっているアームソードのみとなった。
================================
「これで行けるぞリンデ」
「ありがとうカズマくん、いくよチェイス!!」
リンデの魔力に反応して作動したコアから機体全体へ魔力が巡り、ミスリル装甲が白銀色に輝き、悪魔像・特佐級へ駆け出した後を追うように残光が流れた。
速い、出力は簡単に計算した結果八倍は出ている。
あの速さ悪魔像も完全には反応できていない、速攻、リンデがアームソードを首目掛け放つ、わずかに反応した悪魔像に狙いはずらされたけど、狙いを瞬時に変えたリンデは魔法を使う角を斬り落した、これでアイツは雷鳴魔法を使えない。
「シルヴィア、ファー、ムギの救助を頼む」
『了解しました』
『任せて』
機体は大破したけど、搭乗者のムギは無事だとバイタルが表示されている。
これで悪魔像・特佐級を倒せれば万々歳なんだけど、そう簡単にはいかないか。
「そこ!!」
気合の籠ったリンデの一撃が特佐級に小さなキズを付ける。
反撃が来るがリンデは大きく後方に飛んで回避、再び突っ込んで敵に小さなキズを増やす。流石はミスリル素材、出力八倍はパワーもスピードも特佐級を上回っている。だけど、急場の修理で機体バランスがかなり悪いな、もしかしたら真っすぐに進むことも難しくなっているかも。
俺だったら最初の加速で壁に激突して終わっていたね、間違いなく。
リンデはよく操ってくれている。戦況は劣勢から均衡くらいになったか、少しずつだけどキズ付けているから長期戦に持ち込めばこっちが優勢になる。いや、チェイスリペアの操縦は精神力の消耗が激しいはず、それに中破していたチェイスのパーツが増加出力に耐えきれず自壊するかもしれない。
せめてもっと強力な武器を持たせられたら最初の一撃で終わっていたかもしれない。だけど修復に使った分を引いて残ったミスリルは短い刃のアームソードを作るのがやっとの分量だったんだ。
それでさらにアームソードを作って残った親指サイズのミスリルが俺の手の中にある。最初は全部アームソードにして少しでも刃を伸ばそうと思ったけど、それで決め手にならなかったら詰んでしまう。
これは最後の手段、できれば希少金属であるミスリルを使い捨てにしたくはなかったけど、それは平時の話、リンデが必死に特佐級と戦ってくれている。そんなリンデを助けるためだ、少量のミスリルくらい笑って使い潰してやろう。
俺はミスリルと上位魔結晶を『変形』で混ぜ合わせ崩壊のイメージを『付加』した弾丸を作り出した。
感想、、評価、誤字報告ありがとうございます。