第120話『今だ』
「我が師より授かった最強の技ッ!!」
チョイ乗り青年が元気に、槍を構え突撃する。あれはリンデが卵二等兵を倒した時の突き技に似ている。だが、その自慢の最強の技も魔力結界に弾かれた。
ガーキマイラはチョイ乗り青年を消し飛ばそうと魔力をためたところに、そうはさせないと戦士のバトルアックスが叩きこまれるのだがそれも結界を突破できなかった。何とか衝撃を与えて魔法の発射を食い止めるのがやっと。
「卑怯だぞ、正々堂々と戦え怪物!!」
魔物相手に卑怯と叫ぶチョイ乗り青年は、ガーキマイラの攻撃をギリギリで回避して何度も攻めているが結果はかわらない。
「この結界さえ無ければ、簡単に倒せるのに!!」
かなり心配になってきたけど、他に手段がない。その魔力結界は何とかするから、どうか倒してくれ。サーチバイザーでの弾道計算を参考に俺はやや斜め上方向に、即席で作ったボーガンを放つ。
放たれた矢の先端には、結界『破壊』を付加した矢じりが付いている。
即席で製作したため、命中補正は一切ない、自力で命中させなければならないので、かなり怖いけど人の顔が識別できるくらいの距離まで接近していた。
矢は放物線を描いてガーキマイラの魔力結界に命中、中心を狙ったが、ずれて端を掠るような命中だったけど、当たれば効力を発揮する。
魔力結界は薄氷が砕け散るように崩壊して消滅する。
「魔力結界がなくなりました」
回復士の少女が結界の崩壊に気が付く。
「あとは頼むぞ」
俺はすぐに離脱したかったけど、二つあるドウマシープの顔に睨みつけられて足がすくんで動けなくなってしまった。滅茶苦茶怖い。
「卑怯な結界さえなければ、俺は最強!!」
「ホントに頼むぞ」
アクティブの無い俺は、ゴブリン一匹(討伐レベル5)と互角に戦える力しか無いんだから。
「今だ!!」
闘気法で身体能力を強化した青年が必殺の突きを繰り出す。ガーキマイラの意識が俺に向いていたので、図らずも不意打ちの形となった。突きは見事にガーキマイラの首元に命中したのだが。
「何だと!!」
穂先が少し刺さる程度で止まってしまった。
「こっちだ!」
戦士も続けてバトルアックスを叩き込むが、バトルアックスの方が砕け反動で手首を痛めてしまったようだ。
「おいおい」
ガーキマイラの意識はいまだに結界を壊した俺に向いている。
「逃げてください!」
回復士の少女が俺に気が付いて逃げるように言ってくれるけど、ダメだ完全に逃げられない。
ガーキマイラは魔法ではなく、マーダータイガーの牙で直接噛みつこうと迫ってきている。
「マスター!!」
背後でシルヴィアの悲鳴のような叫びが聞こえる。
死を意識したからなのか、時間の流れがとてもゆるやかに感じられ、周囲の状況も理解できる。逃げ道はない、迫る牙を回避する方法もない。
リンデの機体、完成させられなかったな、せっかくミスリルをゲットできたのに。
これが最後だと思ったら頭に浮かんだ未練はリンデの機体のことであった。
そんな時だ。
ガーキマイラの真横から白い閃光がぶつかり、バトルアックスの攻撃すらビクともしなかったガーキマイラの体が吹き飛ばされる。
「まさか」
ガーキマイラをステージへと吹き飛ばしたのは白いアクティブ・アーマー。
「カズマくん、大丈夫」
「リンデなのか」
最後に思い浮かべた少女がリアルで出現してびっくりだ。本当に刹那のタイミングで助けられた。
吹き飛ばされたガーキマイラがのっそりと起きあがる。
「話してる余裕はなさそうだね」
せっかくの再会が、こんな形になるなんて。
リンデはアクセルグリープを全快にして肉薄すると、爆裂魔法を使おうとしていたドウマシープの頭の一つにパイルバンカーを打ち込み、もう一つの頭を魔導ショートソードで切り落とした。これで相手の飛び道具を封じられた。
しかしガーキマイラは並の魔物ではない、二つの首を失っても反撃してきた。
繰り出されたのは鋭く大きな爪、回避しきれなかったリンデはアイアンシールドで受けるが、たったの一撃でシールドは切り裂かれ、その後繰り出される連続攻撃にチェイスの装甲、肩、腕、胸の各所が爪によって削られていく。
「この!!」
リンデも黙ってやられているわけでは無い、果敢に反撃しているが、とても悔しい現実がわかってしまった。パワーも素早さもチェイスよりガーキマイラの方が上なのだ。正面から戦い、なんとか持ちこたえているのはリンデの戦闘技術のおかげ。
チェイスは元々カリンたち子供用に設計した機体、特徴は扱いやすさと拡張性、リンデが装備してるプロトタイプチェイスは一切の追加オプションはなく、特徴である拡張性が死んでいる。ここが工房なら追加装備があったのに。
このままでは、援護しなければリンデが負ける。
呆けている場合じゃない、動けよ俺の足、もう狙われているわけじゃないんだぞ。
氷のように固まった自分の足を殴りつけ死の恐怖で固まった体に火を入れる。
散乱している瓦礫を掴み一本の矢を作る。そしてさっきはしなかったボーガン本体に『必中』を付加、さっきしなかったのは程度の低い素材に上位魔結晶を組み込むと付加が機能する前に崩壊、最悪は行き場を失った魔力が爆発するかもしれない。シルバーメイズにいたころに爆発を経験したので、それからは程度が低い素材を使うときは計算してやってきたけど、そんな余裕はない。
「一発撃てればいいんだ!」
必中があるから細かい狙いは必要ない。
リンデに当たらないことだけを意識して俺はボーガンのトリガーを引く。
矢が発射された直後、ボーガンが爆発、衝撃で骨が折れ破片が刺さる。
まさか矢も一緒に爆発したかとあせったけど杞憂だった。
矢はしっかりとガーキマイラ目掛け飛んでいく、矢に込められた付加は『弱体』、本音では即死などを付加したかったけど、強力すぎる付加はやった瞬間爆発する。
リンデの横をすり抜けた矢はガーキマイラの脇腹に浅く刺さると、とたんに動きが目に見えて鈍くなった。
「今だ、リンデ!!」
「バンカー!」
加速したリンデはガーキマイラの懐に飛び込むと、連続でパイルバンカーを撃ちこみ続ける。これまでの戦闘でダメージを受けていた装甲が割れ、四発打ち込んだ後に砕けて散り、リンデの白い腕があらわになった。
なるほど、ダラスさんのバンカーもあんな風に壊れたのかなと、今はどうでもいい納得を得た。
評価やブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
久しぶりにリンデの登場、チェイスの詳細は第83話にて紹介しています。