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第119話『パチ物』

 天井の穴から入ってくるガーキマイラ、マーダータイガーの頭部と体に蝙蝠の翼、尻尾の部分にはヤギ、いやドウマシープの顔とここまではなら、最初に遭遇したガーキマイラそのものだけど、違う部分もあった。尻尾のドウマシープの顔が二つあったのだ。


 ドウマシープの顔の口が開き、魔力が集まっていく。


「あ、まずい――」


 とっさに隣にいたシルヴィアを引き寄せ抱きかかえた瞬間、俺の意識はブラックアウトした。





「マスター、マスター」


 小声で俺を呼ぶシルヴィアの声で意識を取り戻した。


「シルヴィア、無事だったか」

「お静かに、従者をかばう貧弱主には文句の十、二十も言いたいところですが、ありがとうございますと一つだけ伝えて、静かにしてくれと願います」


 珍しくシルヴィアが慌てている。それで思い出した。頭がボーっとしていて、抜け落ちていたけどガーキマイラに襲撃されたんだった。


 ゆっくりとあたりを見回すと、キレイに並べられていた座席が竜巻でも直撃したかのように散乱している。俺たちはそんな瓦礫と化した座席の間の空間に閉じ込められていた。背中や足が痛いけど、ブラックボアの革を加工した耐衝撃吸収のインナースーツのおかげで骨は折れていなそうだ。

 上を確認すればガーキマイラはまだ会場の天井を旋回していた。


「どのくらい気を失っていた」

「三分ほどです」


 動けば発見されそうだな。対抗手段がないのでここに隠れていることしかできない。お願いだからもう爆裂魔法は撃ち込まないでくれ。

 頼みの綱は外で待機しているファーが武器を届けてくれること、今さらだけど、声を出さずにバイザーのメッセージ機能でファーに連絡を送った。


『ファー無事か、配達できそう』

『そっちこそ無事なのね、こっちはテントから出てきた人が大混乱、そっちに行くのは時間が必要、踏ん張れマスター』


 メッセージは数秒で返ってきた。さすがシルヴィアの姉だ、メッセージの入力速度が人間の限界を超えている。ファーの性格から精一杯努力しているのはわかるので、急かすことはしない、現状の目標は突破口ができるまで、なんとしても生き残ることだ。


『二代目マスター返事はいらない。わかっている状況を伝えるわよ、西門守備隊はガバドンの群れの対応だけで手一杯で救援は無理、一番の戦力はVIPの護衛だったけど、こっちはさっさと雇い主と一緒に逃げていったわ以上』


 やっぱり自分たちで切り抜けるしかないか。

 使える物はないかと辺りを見回すと、座席の残骸に挟まれ動かないコルネさんを発見した。


『シルヴィア』

『了解ですマスター』


 これも今さらだが、シルヴィアとの会話もメッセージ機能に切り替えた。

 シルヴィアは俺の短いメッセージと視線だけで求めていることを正確に理解してくれて、コルネさんの容体を確認する。


『息はありますが、足が残骸に埋まっています』

『そっちは俺が何とかする』


 音をたてないようにゆっくり匍匐前進で移動、ガーキマイラに気付かれないように慎重に、ヤツはまだ天上付近を旋回している。探し物でもしているようだ。

 コルネさんの元までたどり着くシルヴィアの言う通り、足が完全に埋もれていた。引っ張り出すのは無理そうだ。それならば足近くの残骸に手を付けスキル『変形』を発動させて形を変える。


『マスター、丁寧にお願いします』


 わかってる。返事を返す余裕もない。大きく変形させれば積み上がった瓦礫が崩れてガーキマイラをおびき寄せてしまう。異世界に来て一番集中して変形を使ってるよ。

 空調の魔道具も止まってしまったのだろう。空気は淀んで暑苦しく、額から大粒の汗が流れ落ち眉毛に弾かれ頬を流れ落ちていく。バイザーに曇り防止機能を付けていなかったら視界が真っ白になっていたな。


 よし、足が抜けるだけの穴を広げた。

 俺はシルヴィアと一緒にコルネさんを慎重に移動させる。

 あとちょっとの所で、瓦礫が大きく崩れる音が響いた。

 背中に冷たい電流が駆け抜け、暑い暑いと思っていた気温の中で全身に鳥肌が立つ。

 音の発生源は俺たちじゃない、壊れた中央ステージ近くだ。


「やいやいやい、やってくれたじゃねえか怪物!!」


 瓦礫を崩しながら現れガーキマイラに向かって悪態をついたのはチョイ乗り青年であった。手にはオークションで落札した蒼き名槍シャハンボルグが握られている。


「もしかして、保管庫から取ってきたのか」

「そのようですね、落札はしていましたがまだ代金を払っていませんよね」


 落札代金はオークション終了後のまとめ払いとなっていたけど、今はそんな細かい事はいい、俺はファーに届けてもらう以外に武器の調達手段を思いつかなかったんだから、武器を持ちガーキマイラに向かっていく勇気と機転に称賛を送っておこう。

 青年の他にも三人の仲間がいて、それぞれが落札していた聖なるシリーズの武器を持っていた。


「みんな行くぞ、あの化け物は俺たちで倒す!!」


 あいかわらずの大きい声で聖なる青空色の名槍シャハンボルクを構える青年。


「まったく、どうして買い物に来て戦闘になるんだよ」


 聖なる地を守った戦士が持っていたと噂されるバトルアックスを構えるのは、顔に大きな傷を持つ中年戦士。


「まだ瓦礫の下に人が何人もいるわ、注意して戦いなさいよ」


 勝気な言葉で注意を飛ばすのは、聖なる塔で修行した魔法使いが弟子に送ったと伝わる魔槍を掲げる魔槍士の女性。


「見たことのない魔物です。外見の特徴から最近噂になっているガーキマイラではないでしょうか」


 冷静に魔物を分析して正体を見破ったのは、聖なる使命を授かった回復士、自称聖女が持っていたと伝説に残る杖を持つ回復士の少女。

 いろいろとパチ物っぽい装備で身を固めた四人チーム。


「ステージ上なら被害が少ないはずです」


 チームの頭脳を担当しているのは回復士の少女のようだ、彼女は壊れたステージなら埋もれている人がいないと、戦いの場を指示する。


「わかった」


 それに答えたのは中年の戦士、闘気法で脚力を強化して十数メートル離れていたステージに飛び移る。


「こっちだ、混ぜ物野郎!」


 中年戦士が挑発すると、旋回していたガーキマイラが一気に急降下して襲ってくる。おそらく闘気法の相手を引き付ける挑発技を使ったんだろう。SOネットにそんな技があると書いてあった。

 挑発を受けたガーキマイラは中年戦士しか眼中になくなっている。その横腹に闘気法で加速したチョイ乗り青年の槍が突き刺さる。前に魔力結界に弾かれた。


「なんだと」


 かなりの威力があった突きが効かなかった。悪魔像・卵二等兵を一撃で倒したリンデの技に似ていたけど、今回の固体の魔力結界は前に遭遇したガーキマイラの結界よりも強力なようだ。

 標的が中年戦士からチョイ乗り青年に切り替わる。


「ぼさっとするな!!」


 技が効かなかったことに唖然となり無防備を晒す青年に魔槍士の女性が喝を入れ、風魔法を叩き込むが、これも魔力結界によって阻まれた。

 彼らに魔力結界を破る手段はなさそうだ。このままじゃ会場に残った人は俺たちも含めて全滅する。あの魔力結界さえ敗れれば、あのチームに勝つ目はあるか、それはわからないけど、この場での最大戦力は彼らだ。

 ならば、俺にできることで援護するしかない。


「こんな時にアクティブあったらな」

「呼べば飛んでくる機能は無いのですか」


 指パッチンして機体名を叫べば飛んでくるって、さすがにそんな機能は作れない、いや、作れそうだけど、今まで発想が無かったから作ってない。


「残念ながら」

「使えないマスターです」

「大変申し訳ありません」


 こんな緊急時でも変わらないシルヴィアとの掛け合いが俺の心の鎮静剤になった。

 ファーはまだ到着していないから武器もないけど、俺ならこの残骸からでも武器を作り出すことはできる。


 コルネさんを助ける時にできた残骸の破片を手に持ち俺は変形で即席の武器を作った。即席で見た目も悪くパチ物っぽいけど、あの魔力結界は破れるはずだ。

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