第116話『オークション開催の日』
オークション開催日。
俺はシルヴィア、ファーのメイド姉妹と一緒にキャリーウルフ二機が引く馬車に乗ってオークション会場へやってきていた。昨夜はノネもオークションは面白そうだから来ると宣言していたけど、案の定、朝起きられず。寝床から出てこなかったので置いてきた。
オークション会場の場所は告知通り西門近くの広場で、そこにサーカスのような巨大なテントで特設会場が設置されていた。
集まったお客は五百人以上、下手をすると千人近くいるかもしれない。護衛や使用人もいるだろうが、オークションに参加する人は数百人はいそうだ。
「想像よりも大規模なオークションなんだな」
「出品される商品が豊富で多彩、サウスナンでは最大のオークションよ、高級奴隷なんかも出品されるから、この日に限っては裕福層も中央から出てくるわ」
奴隷か、こんな話を聞くとここが異世界なんだと改めて思い知らされる。この国では合法なので日本の倫理観を押し付ける気はないが、いい気分じゃない。
「マスター、オークションへの参加登録をしてきました。注意事項は武器の持ち込みは一切禁止だとのことです」
馬車でファーと話していると、オークション参加の手続きに行ってくれていたシルヴィアが戻ってくる。
武器の持ち込み禁止は聞いていたので驚きはしない。先ほどファーが言っていた事、裕福層もかなりの数参加するのでナイフ一本持ち込みは許されていない。許されるのは専用のVIP席を持つ上客の護衛だけ。
なので今回はアクティブを工房に置いて俺はインナースーツにパイロットジャケット、姉妹はメイド服である。
「それじゃファー、馬車の番よろしくな」
「任せなさい、SOネットを見て暇を潰しているから」
馬車にはスペースがあるのでアクティブ一機くらい積めないことはなかったけど、鎧やその他を買い込む予定なので空にした。キャリーウルフのコンテナには、魔導リボルバーにグライダーナイフ、ファーの魔導銃MMライフルが念の為に入れてあるけどね。
大店であるノミリック商会が仕切るだけあって腕利きの会場護衛が多く配置されているけどさすがに手ぶらでは来られない。
馬車をファーに任せ、シルヴィアと一緒に会場へ。
入り口でボディチェックを受けてテントに入ると、中央のステージを囲むように半円形の階段席が設けられ、その上に天井から吊るされた豪華な個室VIP席が備え付けられていた。
「階段席は四百席、VIP用の個室は十室あります」
「四百もあるのか」
服装から推測すると客の三割は裕福層で七割が商人や冒険者のようだ。
余裕をもってくつろいでいる人、持ってきた金貨の詰まった袋を握りしめ緊張している人など様々だ。
会場の雰囲気は動く人が少ないからか、多くの人がいるのにひんやりとしている。もしかしたら魔導具などでテント内の空調を調整しているのかも。
俺は登録した時に割り振られた指定の座席に腰を下ろして、入場時それなりの追加料金を払って買った出品カタログに目を通す。オークション参加料金も取られるのにカタログが別売りなんていい商売してるよ。座席はほぼ埋まっている。この中の何人がカタログを買ったかは知らないけど、これだけでそれなりの金額を稼いでいるだろう。
わかっているけど、買ってしまったカタログ。
「順番とか出品される品物がわかれば、色々と買う戦略を立てられるからな」
「カタログさえ買わなければ落札できた、なんて事が起きないといいですね」
「わかってるよ、それでも出品物が正確にわかるのがこれしかないから買わない選択はなかった」
ページをめくり、ミスリルの鎧を探す。
カタログはオークションに出品される順番に記載されていた。それでわかった事だが、このオークションは二部門に分かれている。
前半は剣や鎧といった道具系、後半は魔獣や奴隷といった生きた存在が出てくる。
「魔獣も品物なのか」
「魔獣使いをやっている冒険者用の戦闘魔獣や騎馬などに訓練できる騎乗魔獣などが多いようですね」
「シークレットって奴もあるけど」
「推測ですが、SOネットには見た目が美しい愛玩用魔獣もいるそうです」
シークレットにする理由があるのか、愛玩用なんて金持ちしか買わないだろうに、金持ちの依頼で情報を隠して競合相手を減らそうとしてるのかな。
まあ、魔獣は俺には関係ない。寄り道をしてしまったけど、本来の目的である鎧のページを探す。ミスリル、ミスリルっと。
「あった」
ミスリル製のフルプレートメイル。魔法が宿った鎧でかつては隣国の英雄が装備していたと書かれている。
「出品順は四十番目ですね」
「いくらで落札できるかわからないから、それまでは入札を控えよう」
用意してきた金貨は二千枚、回復薬が予想よりも高く売れたのでラッキーだった。絶対にミスリルの鎧は俺がゲットする。
日本にいたころネットオークションでは買い物したことあるけど、リアルでのオークションは初めてなのでワクワクしてきた。
「お兄さん、オークションの参加は初めてですか」
「はい、そうですが」
俺の高揚が伝わったのか隣の商人風の男性が話しかけてきた。
「失礼、私は居住地区に店を構えるコルネと申します。よろしく」
「どうも、俺も居住地区で工房をしていますカズマです」
「おや、居住地区の方でしたか、メイドさんを連れているので、てっきり中央地区のお方だと思いましたぞ」
「すみません、中央地区へのコネとかは無いですよ」
「あはは、これはキツイことを、確かにそれを狙って声を掛けましたけどね」
本音をあっさり吐露するなんて面白い人だな。人に不快感を与えない雰囲気を持つ中年商人、こんな人はきっと営業も上手い。
「よく俺が初参加だってわかりましたね」
「これでも二十年以上は、このオークションに通っていますからね。初参加の人くらい見分けられますよ、君のようにワクワクした顔をしていますから」
「なるほど」
そんなに表情にでていたのか。
「ばっちり記録しましたので、帰ったら上映会をしましょう。タイトルは『マスター童心に帰る』でどうでしょう」
「それだけはやめてください」
なんだかんだで、工房にはベルノヴァだけでなくウルフクラウンの皆さんまで住み着いてしまった。上映会なんてやったらファーやダラスさんに絶対からかわれる。
「面白い人たちですね」
「騒がしくて申し訳ないです」
「いえいえ、ピリピリするよりも数倍はいいですよ、たまにいるんですよ、鬼気迫った雰囲気を出して命懸けで入札する人が、そんな人が隣の時は本当に大変で」
「大規模といっても買い物ですよ、それに命を懸けるんですか?」
「めったにいませんけどね、安い代金を渡されて指定の品物を落札してこいと命令された使用人とか」
なにそれ、怖いんですけど。
「おっと、始まる前に暗い話をしてしまいましたね、お詫びにオークションの裏話を御一つ、お教えしましょう」
コルネさんと話していると、オークションの開始時間になり、ステージ中央に正装した進行役の老人が姿を現した。
「お目当ての品物は何番目の出品ですかな」
「四十番目です」
「なら大丈夫ですね、実際に見ながら説明した方がわかりやすいですから」
いったいどんな裏話を聞かせてくれるのだろうか。
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上から2つ目の場所に、これまで登場したアクティブアーマーの機体一覧を追加しました。




