第114話『下宿と下準備』
ムギたちからようやく数件だけど意見が聞けた。
「今は無理だけど、近いうちにレオライラックも改造するからよろしくね」
「改造ですか?」
「もちろん、せっかく意見が聞けたんだから、反映させないとね」
すぐに取り掛かりたいけど、ベテルドさんからの依頼、守備隊用のアクティブ製作に資金集めとやらなければならないことがある。
守備隊用のアクティブの製作期間は一ヵ月くれたけど、もしまだガーキマイラが生き残っていたらそんな悠長にはしていられない。五十機を同時に作るのは不可能だから、出来上がった機体から順次納品していく形がいい。
だけどまだ守備隊用のアクティブをどうするか決まってないんだよな。
資金集めしながらアイディアを探そう。
「意見ありがとうな」
「いえ、そもそもこれは助けてもらったお礼ですので」
律儀だねムギは、こっちとしては大助かりだからいいけど、もう十分すぎる返礼はもらっている。
「ムギ様、先ほどのお話をマスターにしてはどうですか」
「何、実はアクティブに問題でもあった?」
「いえ、レオライラックの性能に関しては一切の問題を感じていません、それは本当です。ただ……」
性能以外で問題が出たのか、とても言いにくそうだけど。
「遠慮なく言ってくれ」
「えっとですね、私たちが泊まっている宿は、駆け出しの冒険者がよく利用する料金が優しい宿で、部屋も六人の相部屋で、そのレオライラックを置く場所が」
「ああ、保管場所か、ごめんうっかりしていた」
そうだよ、日本に比べてこの国は土地は広大にあるけど、なんでも自由に使えるわけじゃない。失念していた。
「昨晩は、女将さんに頼み込んで厩舎に置かせてもらえましたが、毎日となると、ちょっと」
「そりゃそうだよな、すまん。面倒かもしれないけど、今使っているハンガーをベルノヴァ専用にするから好きに使ってくれていい」
貸し駐車場みたいな感じ。
「いいんですか」
「ハンガーは余ってるし、まったく問題なし」
「ありがとうございます。助かります」
失念していたのは俺の過失だ。空きスペースを貸すぐらいどうってことはない。
「それでしたら、ムギ様たちもいっそここに住んでしまうのはどうでしょう」
「えっ!?」
「マスターは無料でも良いといいそうですが、それではムギ様の良心が許せないでしょうから、どうでしょう。現在宿泊している宿と同じ料金で下宿すると言うのは」
おいおいこのメイド様は何を勝手に話を進めているんですかね。それはとてもナイスアイディアだ。かわいい獣人娘たちとの同居生活、それは異世界ファンタジーの醍醐味でしょ。
「いえ、しかしそれではご迷惑をかけすぎでは」
「まったく迷惑じゃないぞ、部屋はたくさん作ったから、みんなに個室を用意できる」
「個室!!」
個室に三人娘の目の色が変わった。
「個室で生活なんて一人前の冒険者の証、それに個室になったらもう相部屋のヤツに気を使う必要もなくなる。ムギ、ここは兄さんの提案に乗っかろうぜ」
「ですがミケ、これではいつまでたっても恩返しが」
「近くに居れば恩を返せる確率も上がる」
ミケだけでなくクロエもここに下宿することに乗り気のようだ。それだけ個室という単語は強力な魔法だった。
「わかりました。まだ駆け出しですが、これから頑張ってシルバーファクトリーのアクティブ・アーマーを扱うに相応しい冒険者になると誓います」
ミケ、クロエ二人の説得でムギもここに下宿する決意を固めてくれた。
三人の部屋割りを決めて応接室を出ると、ちょうどウルフクラウンに修理した機体の受け渡しが行われていた。
「全機、問題はありませんか」
「おう、ばっちりだぜ」
答えたのはダラスさん、さっそくシャドーボクシングのように腕を突き出しバンカーのチェックをしていた。
「気休め程度ですが強度を上げておきました。本格的な強化は素材が手に入ってからになります」
「わかってるよ、今回の依頼はその素材を手に入れるための資金集めなんだろ、気合い入れていくから期待していてくれ!」
約束だからね、ミスリルが無事手に入ったら、その一部をダラス機の改造に回す。
「カズマ、探す素材だがヒールダケだけでいいんだな」
「はい、そのキャリーウルフにヒールダケを探す機能を付けましたので、発見はそんなに難しく無いと思います」
「めったに見つからない素材なはずなんだけどな、今更か」
驚きもせずキャリーウルフの新機能を受け入れるテルザーさん。ホントに俺のやることに慣れてきたな、最初はいろいろ驚いてくれたのに。
出発するウルフクラウンを見送り、ムギたちも引っ越しのために宿へ荷物を取りに戻ったから、俺も別の仕事に取り掛かる。確かシルヴィアが俺向きの依頼が冒険者ギルドにあったそうなので、その話から聞こう。
「見つけたのは、魔道ギルドが発注している魔槍士用の魔槍の製作です」
魔槍士って確かテルザーさんも魔槍士だったよな、一日数回しか魔法が使えない魔法使いが冒険の足手まといにならないように槍の形をした魔法の杖を装備した人、それが魔槍士だ。
シルヴィアが冒険者ギルドのシステムから依頼書のデータを送ってくれる。規則で禁止されていないから違法ではないけど、機密情報まで見放題なのは改善して欲しいな、率先して見る気はないけど、まあ、元の世界のインターネットを理解していないと覗き見なんてできないと思うから、そんなに心配はしていないけど。
依頼書には、魔槍を(上限)二百本製作して欲しいとある。個人にまとめて二百本注文するわけでは無く、製作者が個々に作れる本数だけ納品して冒険者ギルドが管理、上限が二百本までというわけだ。報酬は納品した魔槍一本につき金貨一枚、百本納品すれば金貨百枚。
「なんで魔導ギルドが直接依頼を出さないんだ」
「魔導ギルドも同じ依頼を出しているようです。ですが魔導ギルドも依頼は会員でないと受注できないため、冒険者ギルドにも同様の依頼を出しているそうです」
「なるほど、冒険者ギルドも登録していないと依頼が受けられないもんな」
両方のギルドに登録することもできるけど、大抵はどっちかのギルドにしか登録しない。そのため多く確保したいときには両方に依頼を出しているのか。
「魔槍の作り方はっと」
SOネットで検索したらすぐに判明、材料は普通の槍に専用の魔法陣を描いたプレートをはめ込み下級魔結晶を効力が高まる位置に二つ配置。思ったよりも簡単な作りだ。魔法陣プレートも変形で行ける。
「魔槍士用の魔槍は本来、鍛冶師見習いが練習で作るそうなのですが、サウスナンは見習い不足で数が足りていません。見習いが作れるレベルの道具ならマスターの意味不明な製作能力で量産は楽勝でしょう」
「意味不明は余計だよ」
「やれやれ」
わざわざ口に出して呆れたように首を振らないでください。
「とにかく冒険者ギルドと魔導ギルドの依頼は会員であるエル様を通して行えば、金貨三百枚以上は稼げます」
すでに何本か納品されているが、それほど数が集まっていない、これから製作するのでその間に納品されるかもしれないけど、集まるスピードは遅いようなので数日中に完成させれば、シルヴィアの言う通り金貨三百枚以上は稼げる。
「よし、この依頼を受けよう」
「エル様には私からお願いしておきます」
「よろしく」
それにしても魔法陣プレートと魔結晶の配置を工夫すれば魔力の効率が上がるのか、これはアクティブにも転用できる技術だ。これを使えばベテルドさん依頼の量産機もかなりコストダウンできるかも、その分、手間暇がかかりそうだけど。
評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。