第113話『成長と報告』
自身の腕で一番難しいダラス機の修理をおこない、アシュラ・スミスの六腕で他のウルフバンカーの修理をする。
他のウルフバンカーはマルセルさんたちが台車に乗せて、六腕が届く場所に運んでもらった。
「まるで背中に目があるようですね」
背後に運んでもらったウルフバンカーを見もせず修理している光景にマルセルさんたちが驚くが、当然背中に目などない、アシュラ・スミスには作業補助をするために背部にもカメラが付いていてサーチバイザーに映し出されているだけだ。
作業を二分しているので六腕は難しい操作はできないけど損傷個所を外して取り替えるだけの簡単作業、スィンバンカーからこれまで散々いじってきた機体だから、図面は細部まで頭に入っている。
欲しいパーツもマルセルさんがすぐに渡してくれるので作業が滞ることもない。
「ありがとうマルセルさん、助かるよ」
優秀な七人が来てくれて本当によかった。俺は意識の八割をダラス機の修理に回す。
浸透性接着剤を流し込むようにスキル『変形』を使い鉄材を流し込み、ボロボロになった内部構造を修理していく、このまま元の状態に戻してもまたすぐに壊れてしまいそうなので、内部骨格を太くしていく、重量はその分かさむけどダラスさんのパワーがあれば問題ないだろう。次の強化までの繋ぎだし。
修理開始から二時間、ほぼ修理が終わり、残るはダラス機の無くなったライトアームのみ。
「マスター、ただ今もどりました」
「お帰りシルヴィア、ご苦労様」
シルヴィアにはウルフクラウンの指名依頼を冒険者ギルドに出しに行ってもらっていたのだ。ついでに製作系などで儲かりそうな依頼がないかの確認もお願いしていた。
「ウルフクラウンへの指名依頼は無事に受理されました。マスター向けの製作依頼もありましたので後で報告します」
「報告は今でもいいけど?」
「お客様がおみえです」
何で後回しにするのかと思ったら、シルヴィアと一緒にアクティブを装備したベルノヴァの獣人娘三人が工房にやってきた。冒険者ギルドからの帰り道、工房を目指す三人と偶然会ったそうだ。
「おはようございますカズマさん、すみません忙しそうな時に」
「こっちこそすまない約束していたのに、もうすぐ終わるから、少しだけ待っていてくれ、レオライラックは五番から七番ハンガーに入れて整備班にチェックしてもらって」
「わかりました」
いつまでもマルセルさんたちを元奴隷の人たちと呼ぶのもおかしいので、シルバーファクトリー整備班と呼称することにした。
素直にアクティブを預けに行くムギたち、彼女たちが工房にやってきたのはレオライラックを動かした感想を報告するためだ、そもそもの約束が機体のテストだったので来るのは初めからわかっていたけどウルフバンカーの修理を俺が急遽入れてしまった。待たせるのは申し訳ないけど、あと少しだから、急いでかつ丁寧に仕上げよう。
ライトアームは完全に消失しているので、パーツを作って組み上げる。少しでも強度をあげるために繋ぎ目を丁寧に魔導ヤスリで仕上げ肉眼では確認できないほど整える。
「よし」
仕上がったライトアームをウルフバンカーに取り付けて完成だ。
「すごい手際ですね」
「どうやって、そんな多くの腕を動かすんだ」
「不思議」
集中していて背後にやってきていたムギたちに気が付かなかった。彼女たちは俺の作業をずっと見ていたらしい。
「慣れかな?」
言われて気が付いたが、俺は無意識レベルでアシュラの六腕を操作できるようになっていた。スキルを手に入れてから、思考スピードに二本の腕だけでは製作スピードが付いていけなくなっていたので、自然とできるようになっていた。
「もう少しだけ待ってもらっていいか、後これだけなんだ」
「私たちはかまいませんよ」
ウルフバンカーの修理は完成した。マルセルさんたち整備班に最終確認の起動チェックをお願いして、俺はキャリーウルフに上級回復薬を作るのに必要な素材ヒールダケを探す機能を追加する。
素材を一つだけに絞れば改造はそれほど難しくない。ヒールダケを『探知』と付加するだけだから、全部まとめてやってしまおう。
「よし、これで完成」
「ムギ、クロエ、見たかよ、この人、三体の犬型ゴーレムを同時に改造したぞ」
「信じられません」
「神技」
はじめはもっと拙い動きしかできなかった六腕だけど、俺も成長しているようだ。よし約束の三時間以内にすべての作業が終わったぞ。
「お待たせ、ごめん時間がかかった」
「全然時間はかかっていませんよ」
俺が謝罪するとムギが否定してミケとクロエも頷く。
「ありがとう、でもまだまだ本物の腕ほど器用に動かせないからロスはあった」
信じられないといった顔をするムギたちだけど事実なんだよな。俺のアーム操作に関しては本題と関係ないのでそろそろ打ち切ろう。
ウルフバンカーのチェックをしているマルセルさんにウルフクラウンへの機体とキャリーウルフの引き渡しをお願いして、俺は落ち着いて話を聞くためにムギたちを連れて応接室に移動した。
資金集めも大事だけど、なんで資金を集めるのか、それはより高性能のアクティブを作るため、それが最大の目標なんだからムギたちの報告をこれ以上後回しになどできない。
シルヴィアが手早くお茶とお茶菓子をセットして話しやすい空間を作り上げる。
「それじゃ、レオライラックを動かした感想を聞かせてくれ」
「では私から」
トップバッターはいつも通りリーダーのムギから。
紙のメモと一緒にサーチバイザーの録音機能も作動させ念の為にシルヴィアにも一緒に聞いてもらう。これで聞き取りは万全の態勢だ。
ムギのアクティブ・アーマーは『レオライラック・ウォーリア』飛行機能も備えた汎用型。
「扱いやすくて素晴らしい魔導甲冑でした。接近戦はもちろん私が遠距離戦闘までできるなんて、そして何より、あの飛行能力です。空を飛びまわる感覚は最高でした。ガーキマイラを討伐できたのは全てレオライラック・ウォーリアのおかげです。これに問題を感じる人なんていないと思いますが」
ベタ褒めだった。
製作者としては嬉しいんだけど、機体の性能にもっと欲を持って欲しいな、このままだとミケやクロエも似たような報告になりそうだ。
聞き方を変えよう。
「乗り心地はどうだった、操作しづらいとかは」
「ありません、思った通りに動けました」
「パワー不足を感じたりは?」
「ニドルワームを掴んで投げられました、信じられないパワーです」
「じゃあ素早さとかに違和感は、生身よりもかなりの重装備だし」
「空まで飛べて、遅いとは全く思いません」
「物足りなさは無かった?」
「ガーキマイラと正面から戦えて、物足りなさなどありません」
ムギの性格は理解してるけど、ここまできっぱり断言されてしまうと会話が途切れる。
まいった。このままだと何の発展も無いまま現状維持で満足してしまう。
抽象的な聞き方ではダメだ、もっと具体的な答えを言える質問をしないと。
「それじゃ質問なんだけど、機体に追加したい機能とかってあるかな」
「いえ、現状で満足しているのに追加機能なんて」
だから満足しないで!!
「三人の機体にはそれぞれ別の武装や能力を付けただろ、自分の機体には無い装備で使ってみたいモノとかなかった?」
「なるほど、それでしたら――」
ようやくムギが遠慮がちではあるけど自身の意見を口にしてくれた。
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