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第112話『全力始動』

「さぁ、作戦会議を始めようか」

「マスターがいつになく真剣になっています」


 ベテルドさんが依頼をして帰ったあと、応接間に残った俺はシルヴィア、ファーと一緒に作戦会議を始めた。


「議題はもちろん、オークションで確実にミスリル素材をゲットすることだ」

「ミスリル素材じゃなくて鎧ね」

「その鎧を落札するためには、予算はいくら用意すればいいと思う」

「金貨数百枚は確実にするわね」

「SOネットの情報ですと、過去の最高額は金貨五百五十枚とあります」


 SOネットは全ての情報があるわけではないので信じ過ぎるのは危ないけど。


「倍近くの金貨千枚くらい用意していけば確実かな」

「まあ、それだけあれば安心だけど、二代目(セカンド)マスターは金貨千枚なんて大金をどうやって用意するつもりなの」

「何を言っているんだファー、それをどうやって稼ぐかの作戦会議だろ」


 スコーメタルを倒した時は金貨五百枚貰えたけど、さすがにそんな強力な魔物はそうそう現れない、現れたとしても今回のガーキマイラのように合同討伐になってしまうだろう。


「合同討伐の報酬にベテルド様からの依頼、工房の残金を合計して金貨二百枚ほどしかありません」

「目標まで残り金貨八百枚か、シルヴィア、オークションの開催日はいつだっけ?」

「五日後、西門近くの広場、オークションのための特設会場で行われます」

「一日二百枚稼げば足りるか」

「一日百六十枚でしょ、どんな計算してるのよ!」


 いや、それくらいの計算はできるけど、二百枚を一日で稼げれば楽だなって。もしかしたらオークションには他にも掘り出し物があるかもしれない。


「朝からにぎやかね」

「エルどうしたのよ、今日は来るの早いじゃない」


 やってきたのは工房の隣で魔導銃専門店を営んでいるエルフ美人のエルさん。ファーが俺の従者となってからちょくちょく工房に遊びにきている。美人は何人いてもいいので、時間が合えばシルヴィアの作る昼食や夕食を一緒に食べていた。


「今日は朝から工房が騒がしかったから、面白いことでもあったのかなって」


 いつもはお昼過ぎにくるエルさんが早朝にきた建前の理由を述べる。彼女には合同討伐の事は伝えていたので本当はファーが心配で様子を見に来たんだろう。無事なファーの姿にホッとしている。


「エルさん、知恵を貸してくれませんか、五日で金貨八百枚稼ぎたいんですけど」

「それは大金ね、普通なら無理なはなしだけど、そうね」


 レモンゴールドの髪を指でくるくるする仕草がとても絵になる。今度エルさんにも専用のアクティブ作ってあげようかな、きっと似合うぞ。


「カズマくんは錬金術もできたわよね」

「はい、できますよ」

「今のサウスナンは慢性的に回復薬が不足気味だったのよ、それが今回の合同討伐で使用してさらに少なくなったから、まとめて魔導ギルドに持っていけば、けっこうな金額で買い取ってくれると思うわ。魔導ギルドに売るには会員登録が必要だけど、私が登録してるから一緒に行けば大丈夫」


 おお、気軽に尋ねたら、思いがけないことが聞けてしまった。


「ぜひお願いします。回復薬は材料を揃えればすぐに作れるから」


 材料を至急用意しなければ、俺は応接室を飛び出しダラスさんを探す。さっきまでここにいたからまだ工房内にいるはず。


 マルセルさんに二階の食堂に向かったと聞き移動すると、食堂にはウルフクラウンのメンバーが揃ってくつろいでいた。


「ダラスさん、お願いがあるんですけど」

「お、おお、なんだ?」

「今回のウルフバンカー全機の修理代金、そして次回のウルフバンカー強化代金、全部タダにします!」

「な、なんだって!!」


 おっと、しゃべる順番を間違えた。


「急ぎで回復薬の素材が必要になったんです。冒険者ギルドを通して依頼するので回復薬の素材を取ってきて欲しいんですよ!」

「ちょっと落ち着こうぜカズマ、素材を取りに行くのはいいが、詳しく説明してくれ」

「そうですね、テンションが上がっていました」


 うん、自分でもわかるほど興奮しているな、ここはゆっくりと深呼吸して依頼を伝えないと。二回、三回と大きく息を吸って吐いて、よし、落ち着いた。少しだけだけど。

 そして俺は、できるだけわかりやすく、依頼の内容を伝えた。


「つまり、オークションに参加するための資金集めに回復薬を作りたいから、俺たちに材料を取ってきて欲しいと」

「そうです」

「その依頼代金が、今回の修理と次回の強化」

「その通りです」


 流石はテルザーさん、俺の説明を完璧に理解してくれた。


「修理代はいいが、強化に関しては一切聞いていないんだがダラス」


 ダラスさんらしいな、テルザーさんにまったく話してなかったのか、鋭い眼光でダラスさんを睨みつけてる。


「いいじゃないか、強くなるなら」

「足りないなら追加で依頼料も払いますよ」

「いや、追加料金はいらない、その条件で受けさせてもらおう」


 交渉がいつの間にかダラスさんからテルザーさんに変わっているけど、これはいつものことなのでもう慣れた。指名依頼にしておけば昇進を急ぐウルフクラウンにとっても悪い条件じゃないはず。


「よろしくお願いします。指名依頼でお昼までに出しておきます。機体の修理もそれに合わせて終わらせますので」


 ダラスさんたちが効率よく素材をゲットするにはサポート機能を拡充した方がいいよな、探したい素材は決まっているんだから、シンプルに探すだけの機能強化したキャリーウルフをお供に付けよう。


「おいおい、お昼までに終わるのか、さっき修理は難しいって言っていたじゃないか」

「時間が掛かるって言っただけですよ、今回は強化ではなく修理だけのなで、三時間以内に終わらせます」

「坊主がいつになく燃えている」


 そりゅあ燃えますとも、最大の目的であるリンデ専用機の開発の目途がついたんだから。

 俺は工作型アクティブ『アシュラ・スミス』を纏い、全力でウルフバンカーの修理に取り掛かる。


 六本の腕に俺の情熱が伝わったのか、以前よりも精密にコントロールできるようになっていた。これなら修理は三時間もかからない。

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[良い点] いつも楽しく読ませてもらっています。 [気になる点] 使命依頼でお昼までに出しておきます ↓ 指名依頼
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