第108話『フォーメーション』
「どこにいる」
ベテルドさんがガーキマイラの場所を訪ねてくる。守備隊はレーダーが見れないからね。
「ほぼ正面、十五メートルほどの所にいます」
「すぐそばじゃないか」
ベテルドさんが生唾を飲み込み、誰もが声どころか物音一つ立てなくなった。
前から吹いてくる風が小さな砂を巻き上げる。
「また地下か」
距離が十メートルまで近づいてもまた姿が見えない、空にもいないからさっきと同じ地下しかない。アウルソードを逆手にもったミケが地面に食い込むように深く突き刺した。
「もう同じ手は通用しない」
突き刺したアウルソードは土魔法が使える方。
「出てこい!!」
気合一発、全力で土魔法を発動させると、大地が割れ土柱がせり上がり地中に潜んでいた魔物の巨体を押し出してきた。
「でかいぞ」
叫んだのはベテルドさんだ、確かに大きい、前に遭遇したガーキマイラより一回りはでかいぞ。トラの体に鋭く長い刀のような爪、そして何よりも特徴的なのがトラの頭部にたてがみの様に生えている大量のニドルワーム、さっきの群れはコイツの抜け毛だったんじゃないかと想像してしまった。
今回の討伐目標であるガーキマイラが成長したにしては特徴が違いすぎる。別個体と考えるべきだな。
「ば、化け物め!」
「待て、早まるな!!」
恐怖に巻けた若い守備隊員が勝手にバリスタを発射させてしまった。
極太の矢がガーキマイラに迫るが、命中前に魔力結界によって弾き飛ばされる。
「ひぃー!!」
攻撃されたガーキマイラのたてがみがバリスタ周囲を一斉に睨み付けると、若い守備隊員は腰を抜かせてしまった。
「ファー!」
「わかってる。魔導キャノン『結界破壊弾』発射」
ファーのゴールドキングから対ガーキマイラ用に生成した結界破壊弾が撃ち出される。先程のバリスタの時もそうだった。ガーキマイラは魔力結界に自信があるのだろう。避けるそぶりを一切見せない。その慢心が命取りだ。
結界破壊弾が魔力結界にぶつかった瞬間、薄いガラスが砕け散るようにガーキマイラご自慢の結界は砕け散った。
「せっかくの新登場で申し訳ないけど、即退場してくれ」
俺は白熱した接戦バトルなど望んでいない。これはリアルの出来事だ、安全に命最優先に危ないことなどしないで安全地帯からアクティブの戦いを観戦したい。けど、戦わなければならないなら、圧倒的な火力をもって一方的に蹂躙させてもらう。
スコーメタルの時は急所がハッキリと見えたから一撃で片づけられたけど、ガーキマイラの特徴なのか、サーチには嫌になるほど多くの急所と思われる反応が、体だけでは無くたてがみ一本一本にも出ている。
だからピンポイント攻撃ではなく、制圧攻撃だ。
ちょっと近すぎたので十メートルほど後ろに下がって。
「フルファイア!!」
フルオートにしたMMライフルにPBシールドミサイル全弾、さらに二本のグライダーナイフもセットで発射した。
「六連グライダーナイフ並びにスカイシールド発射」
シルヴィアは得意の六連グライダーナイフに加えてスカイシールドも高速回転させて撃ち出す。
「ターゲットロックオン、フルファイア!!」
ファーも背部の魔導連射キャノンの砲弾を交換し、両手にはそれぞれMMライフルにマジックガンソードを銃モードで持って連射した。
「燃えて飛べアウルソード!!」
「必要なさそうだけど撃っておく」
熱血ミケがアウルソード火を炎上させレーザービームの様に一直線で飛ばし、城壁の上からクロエがスナイプ。
このすべてがガーキマイラに着弾した。
爆発、爆発、爆発、そして巻き上がる爆炎からの砂塵。
「やったのか」
それ、マンガやアニメだったら倒していないフラグですよベテルドさん。今回は大丈夫だけど。
いやーフルファイアを使うには距離が少し近かったな、アクティブを装備していなかったら爆風で吹き飛ばされていた。
「ガーキマイラの討伐を確認、勝利です」
レーダーからガーキマイラの反応が消えた。
砂塵が晴れると、そこには大きなクレーターができており、たてがみを無くした頭部を残すのみでガーキマイラの体は消滅していた。
「さすがにオーバーキルすぎたか」
「仕方がないわよ、データがほとんどない相手だったんだから、手加減して反撃を食らうなんてバカげているわ」
まったくもって同意見です。
ただ、素材も一緒に消滅してしまったのが、少しだけ勿体ないと思ってしまった。
「本当に、あの魔物を倒してしまったのか」
「ご覧の通りです」
「信じられん」
よし、ここがアピールポイントだ。
アクティブのすばらしさを見せ付けた今こそ最大のチャンス。
シルバーファクトリー所属のアクティブに強制命令フォーメーションAポーズコード01。
「え、なに?」
俺のフゥオリジン、シルヴィアのヴィアイギス、そして戸惑いの声をあげているファーのチェイス・ゴールドキングの三機が三角形を描くように隊列を組みポーズコード01を決める。まるでロボットアニメの背景輝くワンシーンのように、このコマンドを使う機会をずっと伺っていたんだ。
「これがシルバーファクトリー自慢のアクティブアーマーの性能です。アクティブアーマーをご希望の場合は我がシルバーファクトリー魔導工房にいらしてください。お待ちしています」
「あ、ああ」
言葉は微妙だけど、前みたいにスルーされることはなかった。後で落ち着いたときにでも思い返してくれれば注文がくるかもしれない。
「ちょっと二代目マスター、今の動きは何?」
「宣伝と見栄えを意識したポーズとフォーメーションだ」
「勝手に私の機体も動いたんだけど」
「フォーメーションを乱さないために機体の動きを連動させたからな」
「そういう問題じゃない、こんな恥ずかしい機能マニュアルには一切書いて無かったわよ」
「そうだっけ、マニュアルを書いたシルヴィアがそんなミスをするかな」
俺は知っているからマニュアルは流し読みしかしていないけど、俺が書くよりも数倍は丁寧にわかりやすくなっていた。魔導人形でもあるシルヴィアが書き忘れなどするのか。
「ポーズはお約束とマスターが言っていましたので、書く必要を感じませんでした」
しれっと真実を告げるシルヴィア、忘れたのではなく故意に書かなかったのか、でもそんなに恥ずかしいかな、せっかくかっこいいアクティブを装備しているんだからポーズの一つでもあった方が良いだろう。
「この悪戯愚妹あんたも共犯か!!」
「愚妹ですので、賢姉の高度な表現が理解できず申し訳ありません」
「この後継機、私よりも高性能なはずでしょ!!」
あいかわらずの仲良し姉妹だ。
「なに、何なのね」
「お、やっとお目覚めか」
集合が朝早かったため、寝坊助のノネが起きるわけがなく俺のコンテナの中で爆睡していた。偵察など頼む場面があれば起こそうと思っていたけど、クローアイが偵察をやってくれたので完全にノネの存在を忘れていた。
コンテナは回復薬を渡すために切り離していたため、爆風で倒れてしまっていた。ノネはじたばたともがきながらコンテナの下から這い出してくる。
「悪い、完全に忘れていた」
「ひどいのね、このシルバーファクトリーのマスコット精霊ノネを忘れるなんて、罰当たり者」
「だったらもっと早起きしろよ」
「それは無理、私は一日二十時間は眠りたいのね」
「少しは働け、あっちにムギが救援に向かったんだ、その様子を見てきてくれ」
「仕方がないのね、わかったのね」
ノネがムギの様子を見に行った直ぐ後、レーダーに再び大きな反応が現れた。城壁の上のクロエが狙撃を始める。
『カズマ、ガーキマイラなのね! ムギが一人で戦ってるのね!!』
ノネからの通信、やはりさっき倒したのは別の固体だったか、俺たちはホバーを全快にムギの助太刀に向かう。
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