第107話『反撃と引き締め』
ロックオンができれば倒すのは難しくない。
急所をねらい引き金を引くだけ、ムギやクロエは射撃で確実に数を減らしていき、ミケは大きな音を出してニドルワームを自分の元へ引き付け倒している。だが問題は守備隊に絡みついている個体だ。
「いけるかシルヴィア」
「救助します。援護願います」
「ファー!」
「任せなさい、援護に入るわ」
スカイシールドから飛び降りてシルヴィアに返した俺は、ファーと一緒にシルヴィア周囲のニドルワームを一掃する。レーダーのおかげで地下からの奇襲も無いことを確認するとシルヴィアは集中を始めた。
「六連グライダーナイフ射出」
襲われている守備隊へグライダーナイフを飛ばす。
相手の位置が正確に捕らえられるようになったので、守備隊員を傷つけることなくニドルワームのみを斬り裂いていく、ここまで精密なコントロールは人間にはできない、魔導人形であるシルヴィアだからこそできる芸当だ。
しかし、それをやるために全神経をコントロールに回しているシルヴィアは無防備になっている。ファーと護衛をしているのはそのためだ。
「弾が切れた、交換する」
「了解、前へ出るわ」
救出が終わるまで動くことはできない。
ファーに背中に隠れて空になったマガジンを引き抜き、素早く交換する。
「カズマの兄さん、私もこっちを守るぜ」
「助かる。交換終了」
先頭で戦っていたミケが、ここにニドルワームが集まってきていると察して駆けつけてくれた。二本のアウルソードを振り回し、両太ももに固定されているマジックガンソードを、そのまま射撃モードで撃っている。
マジックガンソードは、手に持たなくても固定したまま撃てるようにしていたのだ。マニュアルには書いていたけど、口では説明していなかった機能、おそらくマニュアルを三回読んだクロエが教えたんだろう。
俺の足元の土が盛り上がる。
奇襲を仕掛けたつもりだろうが、レーダーにはばっちり映ってますよ。飛び出してきたニドルワームをホバーの風圧で吹き飛ばし、グライダーナイフを一本射出して縦に斬り裂く。
「シルヴィア、調子は?」
新たに出現した個体をファーは魔力剣で切り捨て尋ねる。
「これで最後です姉さん」
絡みつかれ痛みで暴れまわる守備隊員をケガさせないように操作したグライダーナイフが見事に救出、本当に完璧なコントロールだよ、あの人が最後か、全員助け出したけど負傷者が多い、隊長のベテルドさんも腕をおさえて膝付いていた。肘から下が赤く染まっている。
彼らを守るように位置取りフルオートにして乱射、トドメを刺すよりも守備隊から遠ざけることを優先。
「この中のを使ってください回復薬です」
背中のコンテナを外してベテルドさんの前に置く。
いざという時のために用意していたけど、最近ケガをしなくなったので、使う場面がなかった代物だ。
「すまない、助かる。代金は後で請求してくれ」
ベテルドさんは十本以上の回復薬を動く片腕で抱え込み部下たちへ配りに走った。緊急時だからあげるつもりだったんだけど、いいのかな代金を払うって、入っていたの全部、錬金術で作った上級回復薬だから、市場の相場に換算すると結構な金額になるぞ。
「まあ気が付かなかったら、下級回復薬の代金を請求すればいいか」
シルヴィアのグライダーナイフも残ったニドルワームの殲滅に加わったことで処理はスムーズに終了した。
「思いかけず苦戦を強いられたな、アクティブも増えて心のどこかで油断していたのかも、気を引き締めないと」
「そうね、それもあるけど、アクティブを装備している私たちと、装備していない守備隊では連携が難しかったわ、被害がここまで差が出るなんて思ってもいなかった」
ファーの指摘も頷ける。俺たちは無傷で守備隊は重傷者多数、そのうえ用意していた回復薬の代金まで貰ったら、狙ったわけじゃないけど罪悪感がわいてくる。
「やっぱり代金は断るか、寄付ってことにしよう」
「マスター、別の班もニドルワームの襲撃を受けています」
レーダーを拡大すると、五百メートルほど離れた地点で防衛に当たっている冒険者の班が二ドルワームの襲撃を受けていた。数は十以下の小さな群れだけど、十字線クラスだと撃退は難しい。
「私が向かいます」
ムギが救援に名乗りを上げてくれた。ムギのレオライラック・ウォーリアとニドルワームの群れとの戦闘力を比較、通常に戦えれば勝てる戦闘力はあるが今回は救助者がいる。足を引っ張られた場合どうなるか。
「視界良好、ここからでもムギを援護できる」
五百メートルなら射程内、城壁の上にいるクロエが援護できるのか、戦力はこれ以上分散したくないけど仕方がない。
「ムギに任せる。クロエはこことムギ両方を援護してくれ」
「わかりました」
「援護了解」
ムギが全速で救援場所へ飛び、クロエは援護の狙撃を開始した。
最初は十二機もあったアクティブだけど、俺、シルヴィア、ファーにミケの四機と援護のクロエを入れても五機にまで減ってしまった。
別に撃墜されたわけではないけど、これだけの戦力で隠れている本命に対応しなければならない。
全員で救援に行けない理由、それはレーダーに映る巨大な魔力反応が地下にあるからだ。
「魔力パターンデータ検索、該当ありません」
「結界破壊弾セット完了」
ファーのチェイス・ゴールドキングの魔導連射キャノンに弾丸製造ユニットで作られた結界破壊弾が装填された。
はっきりと魔力パターンが検知できるのに検索にヒットしない。そんな存在で、この街の近くにいる魔物などガーキマイラ以外にいないだろう。
一つ気になるのは、前回遭遇したガーキマイラの魔力パターンは記録に残っているのに、一致しなかったことだ。あれから更に成長して魔力パターンも変化したのか。
ニドルワームを殲滅したからか、大きな魔力反応はゆっくりとこちらに近づいてきていた。
「ベテルドさん、負傷者を退避させてください。多分ガーキマイラです」
回復薬を飲んで、その効き目に驚愕していた警備隊の人たちの顔が真っ青になった。せっかく回復薬で顔色が良くなっていたのに申し訳ないけど、早く非難して欲しい。
たった一匹なのに、ニドルワームの群れよりも魔力反応が強い。
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