第102話『討伐会議と一ツ星』
ガーキマイラと遭遇した翌日、俺、シルヴィア、そしてファーは朝から冒険者ギルドサウスナン南門支部の大会議室に来ていた。
百人が余裕で入れる広さがある会議室にはギルド幹部や高ランク冒険者が集まっていて、俺たちシルバーファクトリーとウルフクラウンは、議題となるガーキマイラの目撃者としての出席だ。
会議にはアクティブを装備してくることはできなかったので、俺たち三人は黒いインナースーツにサーチバイザー、そしてお揃いのパイロットジャケットを着て隅で大人しく会議を傍聴している。
ウルフクラウンの方は代表でリーダーのダラスさんと参謀役のテルザーさん二人の出席だ。ダラスさんは発言できる機会を狙っていて、それをテルザーさんは視線でけん制していた。
「今回の討伐目標はガーキマイラ、過去の遭遇例から推定討伐レベルは80~99レベルと予想している」
ギルド進行役の中年幹部が渋い声で淡々と今回の合同討伐の説明をしている。暇なので説明を聞き流しながら視線コントロールでサーチバイザーにアクティブの新装備のアイディアを箇条書きで入力していた。
「ガーキマイラは個体ごとに特殊能力を持ち、今回の討伐対象の特殊能力は魔物の群れを操ることだ。確認された魔物は大膜蜥蜴コモドバーンと四足鳥ガバドン、共に討伐レベル70代」
群れを操るのは特殊能力だったのか、俺はてっきりバリアの方が特殊能力だと思った。
『マスター、ガーキマイラは個体差はありますが魔法を使いこなす点は共通のようです。過去の戦闘データによると、全ての個体が魔力障壁を使用しています』
聞いてもいないのに適格な情報ありがとう。ガーキマイラについてわかっている情報データがメッセージ付きで送られてきた。本当に心を読まれている気がする。
『マスターがわかりやすいだけです』
ほら、また。心を読んだようなメッセージが。
『お暇でしたら、こちらの情報をご覧になってはどうでしょう』
さらに追加で送られてきた情報は、今回の会議に集まった高ランク冒険者チームの情報であった。こんな情報をどこからって聞くまでもなく冒険者ギルドの使っているギルドシステムからですね。冒険者ギルドはダンジョンから手に入れた魔道具を使ってギルド間ネットワークを構築してる。ロストテクノロジーで製作された魔道具なので情報漏洩は無いと油断してるけど、同じ製作者によって作られたシルヴィアにはロックされていない限り覗き放題だ。
『自重しろよ』
『了解しています』
短文で一応の注意をしてから、せっかくなので貰った情報を読んでみよう。
冒険者チームのランクはリーダーのランクで決定する。個人では二ツ星ランクのファーだけど、所属しているシルバーファクトリーのリーダーは俺なので、チームのランクは一本線となる。
会議に集まっているチームの最高ランクは一ツ星で、そのランクのチームは三つ。
一つ目のチームは『焼肉の宴バーグナゲット』
すごいチーム名の集団、やたら筋肉質で熱い(暑苦しい)男だけで構成された六人チーム。大型魔物を専門に退治するチームで、仕事を終えた後は肉を焼き宴会するのがお約束らしい。全員がバトルアックスなどの大型の武器を使用しており、集まった冒険者チームの中では一番戦闘能力が高いと評価されている。
二つ目のチームは『蒼天』
高額な魔道具で身を固めている男性四人組、上流階級の生まれとの噂もあり全員が整った顔立ちをしている。女性の人気も高いらしいが、低ランクの冒険者や受付スタッフを見下すこともあるそうで、ギルド職員からは人気が低く、力も魔道具で底上げして誤魔化していると、実力が疑問視されることもあるそうだ。魔道具で実力を底上げしてるのは俺も同じだからこのことについてはノーコメントで。
最後、三つ目のチームは『教育団ベルガーズ』
チーム名にもなった冒険者ベルガーが率いるワンマンチーム。通称新人教官のベルガー、駆け出しの冒険者をチームに入れ教育することに生き甲斐を見出し、見どころのある新人を見つけてはスカウトをしている。ある程度成長すると独立する若者が多く、中にはベルガーの階級を追い抜き二ツ星ランクになった冒険者もいるらしい。構成人数は三十人と今回招集されたチームの中では断トツに多い。
「実力のバーグナゲット、成金の蒼天、物量のベルガーズと言ったところね」
とは隣にいるファーの見解である。
ここまでが一ツ星ランクのチーム。他には三角線クラスのチームが五つほど来ており、十字線ランクはウルフクラウンだけ、一本線クラスは俺たちシルバーファクトリーだけとなっている。
一通り集まった冒険者の情報を見たけどやっぱり冒険者は男が多いんだな、この情報だけでアクティブを装備させたいと想える人物は見つからなかった。
『シルヴィア、あの三人の――』
『こちらになります』
俺がメッセージを入力するより先に、頼もうと思った情報が送られてきた。本当に心よめるだろ絶対。
『読めません。マスターがわかりやすいだけです』
そんなにわりやすいか、送られてきたのは獣人族三人娘の情報だ。アクティブを仕上げるに当たって最初はウルフバンカーみたいな量産機にするつもりだったけど、せっかくなので個性に合わせてカスタマイズしたくなったのだ。
チーム名は『ベルノヴァ』十字線クラス。
獣人族は魔法が苦手な種族で三人娘も例にもれず魔法が苦手、リーダーのムギは視野が広く接近戦も弓などの遠距離戦もそつなくこなし、元気なミケは性格通り近接戦特化なのか、反対にクロエは視力がよく集中力もあり弓の腕はかなりのものと。
なるほど、なるほど、バランスの取れたいいチームじゃないか。
「――以上が今回の討伐内容だ。質問がある者はいるか」
おっと、いつの間にか説明が終わっていた。カスタマイズに夢中になって最後の方はまったく聞いていいなかった。
「一ついいかしら」
緊張感ある会議室でファーが手をあげた。
「お嬢ちゃん、ここは遊び場とは違うんだよ、話が難しかったのかもしれないけど大人の話し合いに口を挟むものじゃない」
確か蒼天のリーダーだったよな、資料で名前を見たけど忘れてしまった彼が、ニヒルに笑ってファーを注意してくるが、ファーはそんな蒼天のリーダーをキレイにスルーして質問を口にした。
「私たちが遭遇したガーキマイラの魔力バリアはかなり頑丈だったんだけど、それを破る手だてはあるの」
見た目11歳のファーに無視された蒼天リーダーは整えている眉を釣り上げた。沸点の低そうなヤツだな。
「お嬢ちゃん、何もわかっていないな、低ランクの君たちには鋼鉄のように感じられたかもしれないが、高位冒険者である私たちからすれば、魔物の張る魔法結界など一撃で粉砕できる。わかったらおうちに帰りな」
前の会社にもいたな、自分の主張が絶対だと思い込んでいるヤツは。あの手のタイプは周囲に自分よりも格下を作らないと気が済まないのだろう。
「あなた本当に一ツ星ランクの冒険者なの、ガーキマイラのバリアは硬い、おそらくバーグナゲットの戦斧だって弾き返してしまうわよ。過去の情報を調べなかったの」
「そこのお嬢さんの言う通りだ、単純な物理攻撃ならおそらく通用しないだろう」
「悔しいが同感だ、今回の獲物は策を練らなきゃご馳走にはありつけない」
ベルガーが、バークナゲットのリーダーがそれぞれファーの意見に同意したことで蒼天リーダーは標的を二人に切り替えた。
「これは驚いた、まさか栄光ある一ツ星の冒険者たちがあんなお子様の言うことを信じるなど、実力を疑われますよ」
「もうその辺りにしておけ、ファー殿の疑問はもっともだ」
「これは驚いたギルド幹部までも彼女の味方をするのですか」
「当たり前だ、彼女はこの街に三人しかいない二ツ星ランク。ギルドとして信じるのは当然のこと」
「な、なんですって」
少しおネェ口調になって驚く蒼天リーダーにファーがゆっくりとギルドカードを取り出して見せる。そこには三本の線の間に二つの星のシンボルが刻まれていた。
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