第101話『ファーの階級』
「また貴様らか」
そんないやそうな顔をしないでくださいよ南門守備隊長のベテルドさん。今回は街道に大量出現した魔物を討伐したんだから褒めてくれてもいいでしょうに。
新しく仲間になってくれた七人がさっそくやる気を出して、討伐した魔物の素材を残らずかき集めてくれたのだ。ソリへと変形させたキャリーウルフのコンテナには最初に倒したマーダータイガーとコモドバーンやガバドンが山積みになっている。
「報告したいことがあるんだけど」
「プルトニル商会のノミニック会長から聞いている。強大な魔物が出たとな、上から正式な討伐依頼が出るだろうから、魔物を目撃した君たちが冒険者ギルドに詳しい報告をしておいてくれ」
あら、悪魔像の時はまったく信じて貰えなかったのに、街の有力者が先に報告していたからあっさり信じてくれたよ。今回は前もって映写機とか用意していたのに無駄になった。
もっと時間が掛かると思った南門はあっさりと通ることができた。七人もファーが身元を保障すると宣言したので通行税だけで簡単にパスできたのだ。
「まさか、ファーが二ツ星ランクの冒険者だったなんて」
「経験者だって言ってたでしょ、三百年も活動していれば自然とランクも上がるわよ」
確認だけど冒険者ランクは。
・無印
・一本線ライン
・十字線クロスライン
・三角線トライアングル
・一ツ星シングル
・二ツ星ダブル
・三ツ星トリプル
・星座線アストロライン
八段階級。星座線は伝説の階級で百年単位で習得者はいないらしい、実質三ツ星ランクがトップで大国でも数人、小国になると居ないのが普通の到達困難ランクなのだそうだ。その一つ下の二ツ星も英雄クラスの階級で大国であるここサウスフロト王国でも十数人しかいない。その内の一人がファーであったのだ。
そんなファーが身元を保障すれば、細かい審査など不要となる。
「それじゃ、俺は魔物素材を換金に、ファーはギルドにガーキマイラの報告に行ってくれ」
「了解よ」
二ツ星ランクのファーの話ならギルドも素直に話を聞いてくれるだろう。
「シルヴィアは七人分の着替えと、食材も足らないか買出し頼む、お腹空いてそうだから買い食いしてもいいぞ」
「了解しましたマスター」
解体場に倒した魔物素材を運び込むと、シルヴィアは七人を連れて買い物へ、服を買うなら本人がいた方が採寸が楽だしな、運び込んでしまえばもう人手は必要ないし、ケガもシルヴィアの回廊魔法で治しているので後は空腹を満たしてあげれば大丈夫だろう。
珍しく一人になった俺は、ゆっくりと買取査定を待とうとしたんだけど、ベテランの解体職人に捕まった。
「スコーメタルを持ち込んできた小僧だな、今度は群れをまとめて討伐かよ、それも全部70レベル以上じゃないか」
「スコーメタルよりレベル下だろ」
「個体ではな、群れになったら討伐レベルは参考にしかならねぇ!!」
持ち込んだ数にスコーメタルの時よりも解体場を驚かせてしまった。ベテランの解体職人が喉をがならせる。
「最近は冒険者が減ってたんでしょ、久しぶりの大仕事だと喜びましょう」
「こんな高レベルの群れの解体なんて数回しか経験ないぞ、それに高レベルの群れを討伐するのは高ランクの冒険者パーティーが協同討伐するのが常識なんだよ、単体の少人数パーティーが討伐したなんて話、噂ぐらいしか聞かないぞ」
「単体じゃなくてウルフクラウンも一緒に討伐したんだけど、ほら隣で査定してもらってる」
「持ち込んだ数を見てみろ、お前の持ち込んだ数だけで十分群れと呼べるんだよ」
仰る通りです。俺はもう笑って誤魔化すしかなかった。
「素材は全部買取でいいか、欲しい素材があったら言ってくれ」
「魔結晶は売らないから、査定金額から引いておいて」
「これだけの数の魔結晶を全てか」
「そうだよ」
持ち込んだのはマーダータイガーにコモドバーン、ガバドン合わせて三十頭以上、サーチバイザーに討伐した魔物をカウントする機能を入れておいたので、ウルフクラウンも自分たちが討伐した魔物を別々に持ち込んでいる。
あっちは魔結晶もまとめて売っているけど。
「分類は中級魔結晶の中でも上位の結晶だ。ギルドとしては少しでも多く売って欲しいのだがね」
魔結晶は様々な魔道具や魔法儀式に使用でき応用範囲も広いので需要はいつも高い、もっとも簡単に手に入る最下級の魔結晶は捨て値で取り引きされているが。
「わるい、すでに使い道を考えてるんだ、本職は魔道具技師なもんで」
「これだけの腕があって魔道具技師なのかよ」
持ち込んだ数が数なので査定にはだいぶ時間が掛かり、ようやく完了して代金を受け取るためにギルドカウンターへやってくると、先に査定を終わらせていたウルフクラウンがちょうどカウンターで代金を受け取っていた。
「だからそこを頼むよ、今回は人助けまでしたんだぜ」
「申し訳ありませんが、無理です」
代金を受け取ったのにダラスさんが受付嬢のガトラさんに何かを懇願して動かない。
「何してるんですか?」
「ダラスが今回討伐したコモドバーンを昇進ポイントに加算してくれって駄々をこねているのさ」
俺の質問に答えてくれたのは、呆れ顔をしているウルフクラウンの参謀のテルザーさん。
冒険者ギルドが出している討伐依頼は討伐後に持ち込んでも依頼受理をしてくれるケースがある。ゴブリンなどは常駐依頼なので後申告でも問題なく討伐完了と認めてくれるけど、コモドバーンの討伐依頼は三角線クラス以上の冒険者しか受けられない依頼だったので十字線ランクのウルフクラウンでは素材を持ち込んでも討伐完了と認めてもらえなかった。
「お願いだ、三角線まであと少しなんだよ」
「規則ですので無理なモノは不可能です。プルトニル商会会長を救助したことは確認が取れていますので、上役に名前は憶えられたと思います。今後の指名依頼に期待してください」
普通ならランク以上の依頼は受けられないが、指名依頼ならばランクは関係ない。もし高難易度の指名依頼がくるのであれば昇進は早くなる。
「ちくしょう、頑張ったのに」
「いい加減にあきらめろダラス、俺たちが昇進できるならスコーメタルを倒したカズマなんてとっくに三角線以上になってる」
俺のランクは未だに一本線のままだ、俺はあまりランク上げには興味がなかったことと、倒す魔物が悉く昇進査定の対象外だったので十字線ランクに上がるのも当分先のことになる。
「二代目マスター、さっきからうるさいわよ」
「騒いでいたのは俺じゃ無いんだけど」
ガーキマイラの報告に行っていたファーがカウンターにやってきた。
「報告は無事に終わったんだな」
「マスターの用意してくれた映写機のおかげで話はスムーズに進んだわ。明日討伐のための緊急会議を開くそうよ、直接目撃した私たちとウルフクラウンにも参加要請が出ているから忘れないように」
え、明日の会議に出ないといけないの、獣人族の三人との約束まであと三日しかないからアクティブを仕上げるつもりでいたのに。
「よっしゃ、そこで俺たちがどれだけ活躍したか英雄譚を語ってやるぜ、そして討伐隊の先鋒を頂戴しよう」
「やめろよバカダラス、俺たちに求められているのは正確な情報だけだ、討伐隊の先鋒なんてもっと上位ランクの冒険者に振り当てられるに決まってるだろ」
やる気がすごいねウルフクラウンは、俺は早く帰ってアクティブを作りたいよ、でもそれより先に七人の寝泊りできる場所を作らないとな。
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