第99話『混沌の魔獣』
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ウルフクラウン六人の参戦で戦局が好転した。
「食らいやがれバンカー!!」
「突っ込みすぎるなダラス、魔導ボーガンでけん制だ、あいつを孤立させるな」
相も変わらずリーダーのダラスさんじゃなくテルザーさんが指揮を取っている。それにしても戦いに魔導ボーガンを取り入れてるのか、遠距離攻撃の素晴らしさが少しずつ浸透しているのかも。
俺は前衛ができたので有難く後ろから射撃に専念させてもらう。
木々が障害物となり、まとめて殲滅できないが手数が増えたので一頭一頭確実に倒していく。空の方は障害物が無かったのでシルヴィアの遠隔攻撃に対処できるはずもなく全滅させていた。
「お待たせしましたマスター、ウルフクラウンの皆さんは間に合いましたね」
「シルヴィアが呼んだのか」
「レーダーの端に反応がありましたので、救援要請をしておきました」
「ナイス判断」
「恐れ入ります」
普段から真面目にしていけくれれば従者として完璧なんだけどな。
「それではつまらないじゃないですか」
「心読まないでくれる」
「姉さんの方は終わったようですね、こちらが落ち着き次第合流するそうです」
俺の苦言は完全スルーされた。
「バンカー、そんでもってバンカー! オラオラかかってこいや、昇進ポイントども!!」
ウルフクラウンは数日でウルフバンカーの慣熟が相当進んだみたいだ。ダラスさん以外の前衛メンバーも生き生きと前で暴れている。だけど俺たちと連携訓練などしていないので銃撃がしにくい、移動速度が早いからフレンドリーファイアがとても怖い。
遠距離攻撃が弓と魔法が主流のこの世界では銃との連携なんて想定していないから、帰ったら対策を考えないと。
まあダラスさんたちのおかげで余裕ができたことは素直に感謝、俺は後方で離れている魔物を中心に狙撃をする。
「マスター、魔物が動きを変えました」
シルヴィアの報告の通り、近くの魔物がウルフクラウンによって倒しつくされ、残っていた魔物は接近をやめていた。
「なんだよ不気味だな、遠巻きにこっちを見やがって」
「ダラスうかつに突っ込むなよ」
「わかってるよテルザー」
「マスター、新たな魔物の反応を捉えました。西の方角です」
レーダーに現れたのはスコーメタル以上に強い魔力反応、距離はまだあるのに肌にまで直接威圧感が伝わってきた。
「なんだあいつは」
ウルフクラウンの一人がつぶやく。
西の方角にある木々よりも頭一つ高くなっている岩山の上、そこにそいつがいた。
その姿は一言で表すなら異様、赤い眼に虎の頭部と体に蝙蝠の翼、そして本来なら尻尾があるはずの部分にヤギのような顔が生えていた。
異様な魔物の周囲には付き従うように数頭のガバドンが飛んでいる。説明されるまでもなく理解した。本来、連携などめったにしない種類の違う魔物が協力して奴隷商を襲ったのはあいつが指揮をしていたからだと。
「魔力パターンデータ検索、該当なし、幅を持たせ再度のデータ検索、該当なし」
「マジですか」
悪魔像ですらデータを載せていたSOネットにも載っていない魔物って、それだけでかなり恐怖を感じるんですけど。
「外見的特徴からの予測検索………………候補が一つヒットしました」
いつもの数倍の時間をかけてシルヴィアが魔力パターンではなく、見た目で近い魔物を探して見つけてくれた。流石ですシルヴィアさん。
「混沌の魔獣ガーキマイラ。魔物を取りこみ成長する魔物、取りこんだ魔物により外見や能力を変えるため過去に目撃されたガーキマイラはすべて形が違ったようです」
それで魔力検索にヒットしなかったのか、個体ごとに特徴が変わるならわかるわけないよな。
「ガーキマイラかよ、伝説級の魔物だぜ」
「それでどうするリーダー。意図せず睨み合いになっちまったが」
「こんな時だけリーダー呼びかよ、バンカーを撃ち込める距離じゃないから対策はない」
ダラスさんたちも威圧され動けなくなっている。
距離は五十メートルほど、バンカーは届かなくても魔導銃なら射程範囲内、俺は切り札として用意していた『必中』の弾丸を込めている魔導リボルバーに手をかける。これはMMライフルを主装備にした時、万が一があった場合を想定して用意していた物。弾丸一発に上級魔結晶を使うのでめったなことでは使うつもりはなかったが、今がその時だろ。
高価な装備を惜しんでケガをしたら元も子もない。
すぐにでも撃つべきなのはわかっている。込められた弾丸は『必中』と付加した絶対に命中する弾丸、そのはずなのにガーキマイラには届かない。そんなイメージを抱かされ躊躇してしまった。
長い硬直、先に動いたのはガーキマイラだった。
ヤギの顔がこちらを向き、赤い眼を輝かせると灼熱の魔法を発射した。
「爆裂魔法!!」
強力な破壊力を持つ上位魔法。
アクティブですら損傷は免れない威力だ、檻の中にいる生身の人たちは食らえば蒸発してしまう。
「スカイシールド!」
珍しく緊迫した声でシルヴィアがスカイシールドを飛ばし空中で爆裂魔法とぶつかった。
熱波が襲ってくる。
檻の中から悲鳴が聞こえ周囲の気温が10度は上昇した。
スカイシールドが半分熔解するほどの威力かよ、直撃していたらあぶなかった。面積が半分になり黒焦げたスカイシールドが落下する。
もう一度、爆裂魔法を使わせるわけにはいかない。
迷うな、これは必中の弾丸だぞ、俺は魔導リボルバーを引き抜きスコーメタルをも一撃で倒した『必中』の弾丸を撃つ。
弾丸は一直線にガーキマイラの急所へ飛ぶ。
だがガーキマイラは飛んでいたガバドンに噛みつくと、飛翔する銃弾目掛け投げつけた。
「――うそだろ」
上級魔結晶で作った弾丸だガバドンの体を貫通、軌道修正してガーキマイラの急所へ迫ったが、見えない壁にぶつかり、それも何とか貫通したけど、威力が大幅に弱まり最終的にガーキマイラの体に傷をつけて砕けてしまった。
ガーキマイラは痛みのよる唸り声をあげる。弾丸は急所へは届かなかった。
「ガーキマイラの周囲に不可視の障壁を確認、ガバドンと障壁の二重阻害が必中の効果を上回った模様」
まいったな、上級魔結晶は貴重だから弾丸は一発しか用意していない。まだ上位魔結晶はいくつか魔法の袋に入っているからすぐに作れるが、無いとわかると襲ってきそう。どこかで作る隙があればいいけど。
「すごい形相で坊主のこと睨んでるな」
わかってますとも、今にも襲ってきそうだ。かかってこないのは必中の弾丸を警戒してるんだろう。空のリボルバーを構えたままだから。
再びガバドンを口にくわえて盾にする気満々じゃん。
ガーキマイラはガバドンをくわえたまま、ゆっくりと後ずさりをして視界から消えていった。レーダーを確認すると配下の魔物を引き連れ高速で離れていき、すぐにレーダーの範囲からもいなくなった。
「助かった」
腹にたまった空気をまとめて吐き出す。
ここまで緊迫した戦いは、はじめてゴブリンと戦闘した時以来かもしれない。
「街道にあんな魔物がでるなんてな」
「急いでギルドに報告して、討伐隊の編成をしてもらわないと」
ウルフクラウンの会話を聞き流しながら俺はその場に座り込んで、とりあえず必中の弾丸を三発ほど作ってリボルバーに装填した。
「ここで六発作らないのが、趣味を優先するマスターらしさですね」
「うるさい」
三発あれば倒せただろ、きっと、上級魔結晶はアクティブを製作するのに必要なんだから無駄遣いできないよ。