第97話『キャリーウルフとテスト』
評価やブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
またまたやってきましたナナン樹海。
今回の目的は魔導銃のテストに加え、ファー専用機チェイス・ゴールドキングの起動テストも兼ねている。メンバーも前回と同じ俺、シルヴィアにノネ、そして黄金に輝くファーだ。南門を通る時、思いっきり注目を集めファーにぐちぐち文句を言われたけど。
「今回は運搬手段もできたから素材を大量ゲットできるな」
「帰りも目立つこと確定ですねマスター」
「仕える主を間違えた」
「悪かったって、帰ったら輝きをオフにする機能を追加するから」
「よろしく頼むわ」
太陽があるうちにゴールドキングが外を歩くと光が反射していろいろとすごいことになった、角度によっては車のハイビームのような光が襲ってきて目に悪い。ちょっとゴールドカラーにこだわって頑張りすぎた。
「カズマ、気になってたんだけど、このオオカミたちはなんなのね?」
ノネは不思議そうに俺たちの後ろを付いてくる三匹のメタルカラーの狼たちを指す。これはファーにゴールドキングを渡したあとに組み上げた俺製作のアクティブな狼だ。
「シルヴィアやファーは見てたけど、ノネは寝てたから知らないか」
「見てはいたけど、これが何かは私も知らないわよ、大量の腕で積み木を積むみたいに組み立てていったから」
積み木ではなくプラモ感覚で作ったんだけど、プラモを知らなければわからないか。
SOネットで見つけたゴーレムを俺流にアレンジして製作してみた。アクティブアーマーをサポートする存在として、その名も――。
「アクティブビーストのキャリーウルフだ、細かい命令とかは実行できないけど、付いてこいとか、荷物を運べとか、この場で護衛しろなんて単純な命令なら実行できる」
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■製造番号AB-100・機体名『キャリーウルフ』
◇軽中量級狼型 ◇カラー「メタルカラー」
◇素材 メゾフォルテ合金
◇機体構成
「コア」中級魔結晶
「タイプ」ウルフ
◇武装
・メインウェポン
:テイルソード
・サブウェポン
:クローアンカー
・オプション
:中型コンテナ
◇補足
カズマがアクティブアーマーをサポートするために製作したアクティブビースト1号機。外見は大型犬サイズの狼で荷物の運搬が主目的である。カズマがSOネットで見つけたゴーレム核を参考に作った思考コアが埋め込まれており自立行動が可能、単純な命令なら実行できる。
運搬が主目的なため、尻尾のテイルソードが唯一の武器、前足に装備されているクローアンカーは移動や運搬の補助用である。
製造番号はアクティブアーマーと区別しやすいように100番から始まっている。
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「まさか、考えていた運搬手段が獣型ゴーレムだったとは、私はてっきり車でも作るのかと思っていたわ」
「あれファーは車を知ってるのか」
「創造主が作ってたのよSOネットにも情報載ってるわ、ほらこのページとか。このサーチバイザーって便利ね」
ヘッドギアに内蔵されているサーチバイザーの利便性はシルヴィアのお墨付きをもらっている。その性能にファーも関心してくれた。SOネットから引っ張ったショウ・オオクラの製作した車のデータを転送してくれる。
車の情報まであったとは、SOネットは便利だけど調べたいと思った情報しか調べられないので目的をもって探さないと情報は出てこない、ここはファンタジーな異世界だったので車を検索しようなんて発想は一切出てこなかった。
「どれどれ、オフロードバギーにトラック、おっキャンピングカーまであるのか」
いいよなキャンピングカー、インドア派の俺でもキャンピングカーには憧れた。他には――。
「――うわ装甲車に戦車まで、これ本当にこの世界で作ったの」
「ええ作ってたわよ、管理はプロトナンバーがしていたから、どこかのダンジョンに眠っていると思うわ。発見されれば騒ぎになるはずだからまだ未踏のダンジョンでしょうね」
「それは大変いいことを聞きました。マスターこれはぜひダンジョンの攻略をおこない新しいプロトナンバーと各種車両を手に入れましょう」
確かにキャンピングカーなどは一度は欲しいと思った車だけど。
「戦車とか、やり過ぎじゃないか」
「何言ってるのよ、このアクティブだって戦車に引けはとらないでしょ」
「ごもっともです」
「はい、そこどいて」
ファーはおもむろにMMライフルを構え茂みの中へと打ち込んだ。そこには強い魔力反応を持つ魔物が待ち構えているとレーダーで知っていたから驚きはない。魔物は銃声に反応して飛び出してくる。
「外したのか」
「命中させたわよ、魔導銃店勤務歴三百年を舐めないで、ただ相手が魔力弾を弾いただけ」
使用したのは魔力弾か、MMライフルの三種類の弾丸の中で魔力弾はコストが一番低い代わりに威力も一番低いけどブラックボアなら一撃で倒せるくらいの威力はあった。
「魔力パターンデータ検索。該当あり赤目の棘虎マーダタイガー討伐レベル70です」
いつものようにシルヴィアが魔物のデータを読み上げてくれる。討伐レベル70か、ブラックボアより大物だった。表示された詳細には赤い眼で火属性の魔法を放ち、肩から伸びる剣のような棘で接近する相手を切り裂くと、遠近両方で戦闘ができるのか、魔力弾はきっと肩の棘に弾かれたんだな。
「待ち伏せなんてしてるから、もっと格下かと思った」
「高レベルになると頭も使ってくる魔物はそれなりにいるわよ、ゴールドキングのテストには丁度いい相手じゃない、マスター手出しは無用よ」
そう宣言するとフォバーブーツを起動させて突進していく。
「その機体、砲戦型なんだけど」
この世界の人は突撃好きだな。
「効かないわよそんな魔法!!」
マーダタイガーから放たれる火魔法をゴールドミラーシールドで受けその魔力を吸収、そのまま懐に飛び込んでシールドアタックで吹き飛ばし体勢を崩すと、今度は魔力内包弾を二発発射、一発目で体を守っていた棘を砕き、二発目で急所を撃ち抜いた。
「連射って便利ね」
「お見事」
思わず拍手してしまった。無駄の一切ない見事な銃を使った格闘戦だった。接近戦なんてやりたいとは絶対に思わないけど、自分がするのが嫌なだけで観戦するのは嫌いじゃない。
「キャノンを試す前に終わちゃった」
「それは次の相手にってことで、使い勝手はどう?」
「そうね、動きも早くて頑丈なのに使い勝手が良い、動作に関しては文句はないわ」
チェイスは元々子供用に設計しているから動かしやすさに関して意識して製作している。
「ただ、接近戦用の武器が欲しいわね」
「それは砲戦用って説明しただろ、でも一応接近戦用の武器も装備してるぞ」
「そうなの?」
「背面の腰に付いてるマジックガンソード、それが接近戦もできる俺が新開発した魔導銃だ」
マジックガンソード。未来型SFマンガに登場しそうな銃身の長いハンドガン。銃弾は魔力弾でエネルギーは魔力バッテリーから供給されている。そしてこのマジックガンソード一番の特徴は魔力弾だけでなく、グリップをスライドさせると魔力でできた刃や延び、魔力剣としても使用できることだ。イメージはもちろんビームソード。
「もう叫ばないわよ、魔力剣なら存在は知ってたし、SOネットを参考にしたのはわかっているのよ!」
別に推理マンガの主人公みたいに指差さなくてもいいから。
もしかして思いSOネットでマンガと検索したらマンガ配信もされていた。これはショウ・オオクラの自作マンガなのか、タイトルからしてすごい二次創作っぽいけど、夜にでも読んでみよう。
「ちょっとセカンドマスター、私の話聞いてた」
「あ、ごめん、どうしたの」
「まったく聞いてなかったの」
マンガの中身が気になって、ついついあらすじを読んでしまいファーの話をまったく聞いていなかった。
「もう一度言うわよ、このマジックガンソードをMMライフルの先端に付けられない」
「先端に付ける?」
「銃と盾を持って両手がふさがっているでしょ、さっきみたいな接近戦だと持ち替える時に隙になってしまうわ、これは伸び縮みする刃なんだから銃の先に付けても危なくないでしょ」
それはあれか、マジックガンソードを銃剣のように使いたいと、それは面白い発想だ。
取り付けだけならスキル『変形』で簡単にできる。銃が重くなってしまうけど、アクティブのパワーなら問題ない。
さっそく取り付けてみた。
「いいわねこれ、これならもっと戦闘の幅が広げられるわ」
ライフルの先から伸びる魔力剣はまるで槍のようだ。ファーは軽く演舞をするように振り回す。見事な動きだ、素人とは思えない、店には魔導銃しか無かったのにどこで槍の使い方を覚えたんだろう。
「ファーって本当に魔導銃店に勤務してたの」
「してたわよ、勘違いしているようだから教えてあげるけど、魔導銃はあなたが作るの以外は単発でしか撃てなかったし弾も高額なのよ、このナナン樹海で魔物と遭遇した時は、ほとんどが剣や槍を使った接近戦で対処してきたわ」
なるほど確かにすごい勘違いをしていた、勉強になります。
「マスター、レーダーに魔物に追われている人らしき集団を捉えました」
あれデジャブかな、前回もこんなことがあったような。




