「第三十九章」「嵐の前触れ(1)」
間もなく夏休みも終わり、新学期が始まる直前の職員室。
エコと経費削減の名のもとに大して効いていないエアコンで、室内が蒸し蒸ししている最中で、今後の学園方針を決める職員会議が行われていた。
「大体の議題は消化しましたが、一番の問題である議題に移りたいと思います。」
汗を拭きながら痩せた教頭が話し始めた。
「議題は当校におけるバイク通学の禁止、及び生徒のバイク乗車の禁止についてです。」
その言葉に、少し職員室がざわついた。
「今回の議題にそれは記載されていませんが。」
ある教員が発言した。
「え~それは・・・教員の方より、たっての希望で議題に取り上げることにしました。数ヶ月前の西奈叶恋のこともありますし・・・。」
「ちょっと待ってください。」
それは日菜乃と叶恋の担任教師だった。
「西奈は確かにバイクには乗っていましたし、バイク事故で亡くなりました。ですが、西奈がバイクに乗っていたこととは事故は全くの無関係です。どうしてこの件が、当校のバイクに関する議題になるのか、解りかねます。」
「そもそも学生がバイクなんて言う不良の乗り物を乗り回している事自体、学校のイメージに悪いのよ。」
その発言をしたのは、一般の女性の3倍の体重はあろうかという、古株のお局様だった。
その瞬間に、すべての職員が、この議題を言い出した人物が誰かがわかった。
50代、未婚、神経質な性格と、我の強さ、センスのない服装と、それに反比例するようなキツイ香水の匂いから、生徒たちからもまるで好かれていない数学教師の大谷敦子教員だった。
性格的にもかなり問題が多く、ヒステリックで自分の意見が正義だと思った勘違いが多く、事ある度に自己満足な意見を連発してゴリ押しをしてくるので、問題の多い人物だ。
自分に甘く、他人に厳しい。というのを体格からして体現していた。
教員にもおかしな人物は多い。
公務員であるから、問題を起こさない限りはクビにも出来ない。
そういう人間が年月だけを経て名ばかりの古株になると、手がつけられなくなるという良い例だった。
校長もこの女教師とはもめたくないというのが本音だ。
「今回の事故でのテレビの報道を見ても、バイクというのがどれだけ世間一般から好かれていないのかよく解りました。バイク通学の生徒の中にも、交通マナーや素行や言動が悪い人間が多く、PTAや周辺住民の方から何度かクレームが来ていたではないですか。」
弱い冷房の中、滝のように汗を流しながら、その巨漢の女性は続けた。
「本校校則でも、バイク通学やバイク乗車について、禁止という一文が無いだけで、それを許可しているわけではありません。そもそもここが勘違いの元なのです。この斉ですし、しっかりと校則にバイク全面禁止を記載して、生徒達の勝手な勘違いによる判断を粛清してはどうですかねっ。」
その発言に職員室はさらにざわついた。