「第三十八章」「日菜乃は歩き始めた(1)」
翌日から、杏樹は日菜乃の為に動き出した。
田村や露草の意見を聞きつつ、日菜乃の予定表を作成した。
つめつめだった教習所の予定は夏休み最終日までに、普通二輪免許を取れる予定に変更した。
大型二輪免許は、夏休みが開けて、最初の試験期間が終わった後に予定を入れた。
「どうかしら。」
少し得意げに、杏樹は日菜乃の部屋までわざわざ来て、その予定表を見せた。
「ありがとう。」
その得意げな顔が子供みたいで、日菜乃は少し笑ってしまった。
「それともう一つ。」
「なに?」
「夏休みの課題、全然終わっていないんでしょう。」
「半分はやっているわ。」
自分も努力していたことを主張したくて日菜乃はそう言った。
「私も結構今回の件で課題は進んでいないの。一緒にやりませんか?」
「え?学校が違うのに?」
「一人で黙々とやるのが好きなら、無理にお誘いはしませんけど。」
一緒に課題をやろうなんて言い出したのは、叶恋以来で日菜乃は戸惑った。
最も、叶恋の場合は写させて欲しくて来ていただけであるが。
「いいけど、どこで?」
そうですわね~という顔で、杏樹は人差し指を頬に当てて考えた。
図書館は最適だが、夏休みのこの時期はどこも学生で一杯だろう。
かといって、ファミレスは五月蝿いし、喫茶店は長居すると申し訳ない。
静かで、勉強できる環境があって、誰にも文句を言われなくて、二人の距離が同じくらいのところ・・・・。
暫くの沈黙の後、杏樹はパンと手を叩いた。
「教習所よ!」
日菜乃は目を丸くした。
その様子にも構わず、杏樹は続けた。
「貴方も私も、送迎バスを使えばたいして歩かなくても行ける場所だし、お金もかからない。おまけに、空いている教室は一つはあるはずよ。冷暖房完備で、自販機やパンの販売機もあって、勉強してる人が多いから自習室も静かだし、休憩室もレディースルームもあるわ。ウチの教習所は託児所もあるのよ。ま~でも日菜乃は子供は居ないわよね。」
「い、居るわけ無いでしょ!」
「これで確定ね。」
杏樹は自分のアイデアに大満足のようで、何度も頷いていた。
「教習外のことで送迎バスや、教室使っていいの?」
「そこはほら、こう見えてもオーナーの娘なんだから、話を通すのは簡単よ。」
杏樹は胸を叩いた。
「そか・・・・うん・・・・。そうする。」
最初は驚いた提案だったが、改めて考えると助かる話だった。
自宅で一人で勉強などしても、おそらく、色んなことが思い出されて頭になど入らないだろう。
むしろ外へ出て、誰かとやったほうが勉強には集中できる気がしてきた。
(私が家に籠もるのをあまり良いことと思わなくて、杏樹は気を利かせてくれたのかも知れない。)
日菜乃は、そうも思った。
「それに休憩中に他の人の走りを見るのは、きっと勉強になるわ!」
次の瞬間、嬉しそうに手を叩いて杏樹は言った。
日菜乃は少し額を手で覆って考えを改めた。
(この子もただのバイク馬鹿でした・・・・。)




