「第三十七章」「そして日菜乃と叶恋(3)」
「私は・・・才能も、運動神経も、技術もない・・・・それでも・・・・アールさんを誰にも渡したくない。あれは叶恋の半分だもの・・・・・」
叶恋は少し天を仰いで、それから答えた。
「ほな、あんじょう頼むわ。そやけど、そんな顔して乗ってもアールさんは喜ばへんで。」
「え・・・・。」
「日菜乃が乗りたいように乗ればええ。日菜乃が行きたいところへ行けばええ。あんたが笑顔でないとアールさんも楽しくあらへん。無理してまで乗らんでええ。乗れる時に楽しく乗ってやってや。それが一番や。えらく思いつめてるみたいやけどなにを慌ててんねん。」
「でも・・・急がないと夏休みが終わっちゃう。」
「夏休みが何やねん。アールさんは何時まででも待てるし、日菜乃はウチとちごうて、これから長い人生あるんやろ。そやから・・・・」
ゆっくりと、叶恋の姿が薄くなっていく。
「叶恋!」
「ゆっくりいきや・・・・それでええんや。」
最後に叶恋はキラキラと笑った。
それは・・・・ゆっくり行きや、なのか、それとも、ゆっくり生きや、だったのだろうか。
それを考えている間にも、世界は薄らいで真っ白になった。
(待って・・・・もっといっぱい、貴方と話したいの・・・・・叶恋・・・・・)
消えていく叶恋に伸ばした日菜乃の手も、散り散りの光の粒子のように消え去っていった。
「アールさんに乗るのに必要なもんなんか、たった一つやで・・・・・なぁ日菜乃・・・・・・。」




