「第三十五章」「日菜乃と杏樹とアールさん(3)」
露草や杏樹のアドバイスを受けて、なぜそこはそう洗うのか。
洗い終わった後に何故そのコーテイングやワックスを使うのか。
チェーンの清掃と注油の仕方、等を山程教わった。
そんなことをしている間に、お婆さんが昼食を用意してくれて、四人で食べることとなった。
そんな時だった。
最近バイクの動画や、ブログを頻繁にチェックするようになった日菜乃は、この前に気になったことを聞いた。
「叶恋は、アールさんをカスタムとかしていたのでしょうか。」
カスタム・・・・・・・
おおよそ多くの女子高生の口からは出ない、メカニカルな単語だった。
そんな単語を意識したこともない、少し前の日菜乃からすれば、ありえない質問で、露草はその違和感から少し固まった。
「殆ど何もしてないですわ。殆どノーマルじゃないかしら。」
代わりに杏樹が即答した。
それに露草も続けた。
「私の知る限りだと、転倒時にバイクと自分を守るバンパーをつけているのと、後はスプロケットとチェーンくらいではなかったかな。あとは自分に合わせて調節するためにブレーキとクラッチレバーを調整できるやつに変えたくらいか。」
「少しハンドル周りにスマホホルダーとデコレーションパーツは付けてるくらいですわね。あ~そういえば、バックステッププレートはつけてたわ。それといちばん大事なタイヤは良いものを使ってたわね。」
その言葉をいそいでメモしながら、あとでどれのことか教えてくださいと二人に発言し、了承を得た。
タイヤの話は懐かしかった。
ふと、学校でタイヤの話を叶恋としたのが懐かしかった。
「良いタイヤなのに長持ちしない」という理由もまた二人に聞かなくてはならない。
日菜乃はそう思ってメモに書き足した。
その中で日菜乃は新たに生まれた疑問を、二人に尋ねることにした。
「マフラーとか、ライトとか、グリップとか変えてないんですか?」
それは、動画などで誰でもが交換しているメジャーなアイテムだった。
「変えてないですわ。変える意味が無いですし。」
「意味がない?変えると性能が良くなるんじゃないの?」
素朴な疑問だった。
どのパーツもけして安くない。それだけの投資をするのだから、当然その価値はあるのだろうと、当たり前に日菜乃は思っていた。
「日菜乃さん。これは叶恋の言葉だけど、名言だと思うので伝えておきます。」
「う・・・うん。」
「ノーマルも乗りこなせないのに、見た目だけのためにカスタムなんかしてどうするの。」
それは叶恋らしい言葉だと日菜乃は感じた。