「第三十五章」「日菜乃と杏樹とアールさん(1)」
「うわ・・・・」
最初に声を上げたのは杏樹だった。
「全然きれい・・・・」
日菜乃が続けた。
「ちゃんとフォークなどのにオイルやグリスなどを塗布してあったんだろうね。」
露草はしゃがみこんで各部をチェックした。
そして何度か頷く。
「これは全然問題ないね・・・・・・。さすが叶恋ちゃんだ・・・・・。」
やはりカバーを掛けていても汚れは着いているのでピカピカとまでは行かなかったが、変わらないアールさんだった。
日菜乃は、ほっと胸をなでおろした。
「日頃の手入れをどれだけしているかは、大切なことだね。」
その露草の言葉に、二人は大きく頷いた。
「これなら、私の来た意味はないかな。」
苦笑しながらがら、あらゆる局面に対応できるように、工具満載の移動する修理工場のハイエースを指さした。
「まあ、各部の点検とネジの増し締めくらいはやっておくから、二人は洗車の準備を。」
「解りました。」
「はい。」
「洗車道具もこちらも持ってきたけどどうするかね。」
「いえ、叶恋が使っていたやつを使いたいと思います。」
日菜乃はそこだけははっきりと答えて、その言葉に露草はうなずいた。
「ならそれでいこう。」
日菜乃は前回の洗車で、外置きの大型のコンテナボックスに洗車用具が入れてあるのを知っていたので、そちらへと向かった。
露草は、工具をとりに車へと向かった。
杏樹は・・・そこに立ってアールさんをジッとみたいた。
「いよいよ、あの子がこの子に乗るわよ。叶恋。」
それは叶恋が望んでいたことかどうかは解らない。
それでもこのアールさんが、街を駆け抜けるのをもう一度見たかった。
これからもこのアールさんの後ろを走りたかった。
みんなのエゴを乗せて日菜乃は走らないといけないのかも知れない。
「ワガママだって判ってる。取り返しの付かないことになるかも知れないのも判ってる。もし、日菜乃にこんな危ないことをさせたくなかったとしたら、ごめんなさい。でも私は、あの子と走りたいの。」
(貴方と走った道を。貴方と走るはずだった場所を走りたいの。)
それは祈りに近い杏樹の願いだった。




