「第三十四章」「日菜乃と叶恋とアールさん(7)」
玄関まで戻ってみると、ドアの外に杏樹と露草が立っていた。
日菜乃を見つけた露草が微笑んだ。
「日菜乃ちゃん。お久しぶりだね。」
「ご無沙汰しております。」
日菜乃は深々とお辞儀した。
「とりあえず、カバーを外しましょう。現状が知りたいから。」
杏樹がそう言ってバイクを見た。
「これが必要やろ。」
お婆さんがアラームなどの全てのロックの鍵が束ねられたキーホルダーを差し出した。
それを受け取った杏樹がバイクに近寄って、ロックを外し始める。
杏樹は何度か叶恋と走りに行った経験から、アールさんのロックやアラームの位置は、解っているようで、順序よくロックを外していった。
「よく見て外す順番と、種類を憶えてね。」
そう言おうとした杏樹は、杏樹の行動をメモしてる日菜乃を見て、笑顔で何も言わなかった。
「よし、これでカバーを外しても大丈夫ですわ。」
そう言って日菜乃を見た。
やはりその役目は日菜乃だろうという目をした杏樹が振り返った。
錆びていたらどうしよう・・・・。
サビというものに過剰な恐怖心を持っている日菜乃はドキドキしながら、アールさんのカバーの一部を掴んだ。
すでに3ヶ月の放置である。
どうなっていてもおかしくはない。
ゆっくりと丁寧にカバーをめくった。
だが・・・・カバーの下からはカバーが出てきた。
「あれ・・・・」
「あ~、叶恋はカバーを何枚か重ねてますわ。」
露草も補足した。
「バイク用の完全な防水カバーっていうの無いんだよ。防水スプレーとかで定期的に強化しておかないといけない。雪とか太陽熱、夜露対策も必要なものなんだ。それでもすごい豪雨なんかでは役に立たない時もある。そのために叶恋は、カバーを何枚かかさねて、縛ってあるんだ。雨の後の地面からの水蒸気もバイクを錆びさせる原因だからね。」
日菜乃は真剣な顔でメモをとっていた。
「では、続けます。」
それから、日菜乃は最後のカバーを外した・・・・・・・・・・・・・
三ヶ月前。最後にアールさんが見た景色は、きっと、笑顔でカバーを掛ける最愛の叶恋の笑顔だったろう・・・・・・・・・。
それに匹敵するような世界はもう此処にはない。
なんとか自分がその半分でもアールさんを幸せにできるように頑張るしか無い。
それも可能かどうかわからない。
そんな私が、アールさんにはどのように映るだろうか・・・
そして・・・・・3ヶ月ぶりにアールさんは外の世界へ目を開いた。