表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/362

「第三十二章」「スタートライン(8)」


そんな休憩時間のみの地獄のタンデム走行が4回めになった時に、田村が言った。

「そろそろ握力無いでしょう。」


怖すぎて田村の肩を強引に握りしめていた、日菜乃のての握力は殆どなくて、何時振り落とされてもおかしくないぐらいだった。

「もう・・・・限界が近いです・・・・。」

そう言った日菜乃に、田村はニコニコして言った。


「私と同じように少しだけ傾いた方に身体を傾けたら、そんなに掴んでなくても大丈夫だよ~~。」

「そんな恐ろしいこと・・・・・」

それがいい終わる前に田村は発進した。

「ひいっ。」


人間は、全身が地面に対して傾くという感覚には「恐怖」を感じる生き物だ。


今まで身につけてきたバランス感覚にしてみれば、倒れる寸前の異常事態だから。

たとえ10度傾くだけで、違和感と、物凄く傾いている錯覚を感じる。


本人は精一杯バンクしているつもりでも、はたから見ればバイクは全然傾いていないなどはよくある話だ。それほど、人間は傾きに対しては敏感だ。


自覚は無くとも、僅かでも傾いた家で生活をすると体調がおかしくなるほどに。




恐怖心を取り除くためには、この態度の傾きは大丈夫なんだ。と、身体と脳に教えるしか無い。



もう握力のない日菜乃は、田村の言ったように身体を傾けないと、確実に振り落とされそうだった。

恐怖の限界で、日菜乃は田村と同じ方向に少しずつ身体を傾け始めた。


すると、今まで日菜乃を振り回していた荷重が、シートの上のお尻の部分に、身体をどっしりと押し付けてくるようになった。


安定感と安心感が生まれた。


「コースを先読みして傾けないと、身体を切り返せないよ~~。」

(そんなの無理です。)

コースを駆け抜けながらの言葉にそんなことを言う余裕もなかった。


S字もクランクもそれで抜けた。

タイミングが合わずに、日菜乃はなんども、振り落とされたかと思った。


そのまま2周をして、バイクは止まった。

「はい、お疲れ~~。」


日菜乃は返事もせずにベンチに倒れ込んだ。

緊張と恐怖から、心臓の激しい鼓動と、肺を抜ける荒い息しか出なかった。

(私・・・ここで殺されるかも・・・・・・)

日菜乃は真面目にそう思った。



それを覗き込んで田村はニコニコしたままで言った。

「はい。今日はここまで。おつかれさん~~~。」


ハアハア息をしながら、その笑顔に日菜乃は、田村のこの穏やかな顔の下は、恐ろしい悪魔ではないのかと思い始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ