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「第三十一章」「運命の一日(2)」



「今までの私は、バイクだけではなくて何事にも、たいして興味も無かった。それが普通で当たり前だと思っていたし、必死になるほど好きなものなんて無いほうが楽だもの。好きなら頑張らないといけないし、負けると悔しいし。平々凡々とTVや雑誌や、適当な恋愛の話でもしてたほうが、よほど過ごしやすかった。後は勉強さえそこそこやっていれば、誰も私に文句は言わないもの。」


次第に日菜乃はまっすぐに両親を見つめた。


「でも叶恋を見ている度に、そうじゃないって感じてた。適当な上辺の「これが好きとかあれが好き」なんて、本物の「好き」とは別物なんだって解った。本物の「好き」を知っているあの子が羨ましかった。私もそうなりたいと思った。辛くて、大変で、嫌になる時があっても、本当に大切なものが欲しかった。でも私はそれを見つけられなかった。夢とか希望とか考えたこともなかったから。平穏な生活が勝手に流れていけばいいと思っていたから。」


日菜乃は、はじめて本音を口にして両親に向かい合っていた。


「叶恋が亡くなってバイクだけが残されて。私はあの子の大切にしたバイクを大切にしたいと、初めて本心から思えたの。義務でも同情でもないの。やっと本気で命をかけて大切にしたいものが見つかったの。これを手放したら私は本当に駄目な人間になってしまう気がするの。私には何もない。成瀬日菜乃は何にもない18年だった。ただ馬鹿みたいに日和見生活をしてきた子供だった。そんな風になりたくないの。叶恋にはなれないけど、私も何者かになりたいの。」






同じだ。




杏樹は驚いた。


このか弱いどこにでも居るような、同じ年の女子は、叶恋を見て、自分と全く同じことを感じていたのだ。







この日菜乃の言葉は、杏樹の心に響いてきた。


だが、おそらく両親には響かないだろう。

「絶対に乗らせる訳にはいかない。」

そういう結論ありきで彼らはここに座っている。


ごくごく一般的な家庭だ。

もし日菜乃が被害者になっても加害者になっても、とても責任は背負えない。

そういう不安もあるのだろう。


私はどうしたらいいの。


(叶恋・・・・・・)






「よう言うた!!!」








「え?」

「なんだ?」



居間の襖の向こうから、凛とした大きな声が響いた。


「ちょっと入らしてもらうで。」

パシンと、襖を開けて突然入ってきた凛とした年配の和服の女性。


杏樹には誰なのか解らなかった。




「え?おばあちゃん。」

「お母様。」


「母さん。なんでここに・・・」


(え?日菜乃のおばあさん?)


「話は悪いけど聞かせてもらったわ。」

ちゃきちゃきと日菜乃の横に座り込んだ女性が話し始めた。


「お母様。なんでこちらに・・・・」

母親は驚いてオロオロしていた。

父親も動揺は隠せていない。


「じつは久しぶりに、同級生の日下部のとこの凛ちゃんから連絡があってな。久しぶりで長く話しましたわ。」

「え?私のお婆様??」


「あんたが杏樹さんか。あの子に似てべっぴんさんどすな。アンタとこの凛ちゃんと私は女学校での大親友だったんですわ。私が京都の小料理屋に嫁いだんで、なかなか会われへんでしたけどな。それでもご縁ですな。代を跨いで、あんたらがまた友達とは。ほんまに嬉しいわ。」


厳しい顔立ちだったが、それでも優しく二人を見比べた。



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