「第三十章」「日菜乃はバイクで・・・(2)」
杏樹はダイニングの大きな鏡の前で制服姿のリボンをキュッと締め直した。
今日は、日菜乃と一緒に、彼女の両親を説得する相談をする日だ。
どうやっても両親を説得する材料が見つからない。
そういう相談を受けて、杏樹はそれを全力でサポートすることにした。
一週間でやれるだけのことはやったし、いくつかの材料も見つけ出した。
今日は絶対勝たなければいけない戦争の日だ。
杏樹の目は鋭かった。
「これから、日菜乃ちゃんのご両親と話すのかい?」
杏樹の為にミルクティーを入れてきた父親が立っていた。
「お父様。ええ。そうです。」
「顔が緊張してるね。」
杏樹にティーカップを渡しながら、父親はそばのソファーに座った。
「今日は絶対に負けられない戦いをする日ですもの。緊張くらいはしてますわ。」
少し笑って、父親は優しく言った。
「ここのところ、杏樹がいろんな人を使ったり、自分の足で走り回って、頑張っていたのはよく知ってるよ。だけどね杏樹。勘違いをしてはいけないよ。」
「何をですか?」
「戦争をしてはいけない。それで今日は勝てても、それは勝ちとは言えないよ。杏樹。」
「え?」
杏樹は意味がわからないという顔をした。
「年頃で将来の有る女子高生が、バイクに乗ることを両親に認めさせるなんて言うのは、常識で考えると確かに、不可能に近いミッションだと思う。」
父親は優しい口調で続けた。
「それできっと杏樹は考えるだろう、この際、手段は選ばない。どうあっても日菜乃ちゃんの両親を言い負かせて、日菜乃ちゃんがバイクに乗れるようにしてみせると。でも、それは、正しいやり方ではない。」
「なぜですか!」
図星を突かれた杏樹は強い口調で返答した。
「日菜乃ちゃんの御両親を言い負かせて、それで日菜乃ちゃんがバイクに乗れても、それで彼女の家庭がギクシャクしたら意味がないとは思わないかい杏樹。」
杏樹はその言葉に、ドキッとした。
「日菜乃ちゃんがバイクに乗ることを向こうのご両親に強引に納得させても、そんな家庭の環境で、日菜乃ちゃんはバイクに乗って楽しい思いができると思うかい?」
そうだった・・・・・
両親に首を立てに振らせて、日菜乃をバイクに乗せることばかりしか考えていなかった。
形振りなど構ってはいられない。手段など選んでいる場合ではない。
そんなことをしていては勝ち目はない。
と・・・・・・・
だが、あの真面目な日菜乃が、日々両親に嫌な顔をされながらバイクに乗り続けられる訳がなかった。
それは結果的に負けと同じだ。
ではどうすれば良いのだろう。
普通に話し合っても、こちらは所詮高校生だ。
子供のワガママのように扱われてしまっては、まともに話すら聞いてくれないかもしれない。
「でも正攻法で、私のような子供が普通に何を言っても説得はできないと思います。」
「杏樹の調べてきたことは十分に効果があるとは思う。ただ、それを杏樹が言っては駄目だろうね。でもそれは「誰が」言うかで、随分変わってくると思うんだ。」
杏樹はわからないという顔をした。
「余計なお世話かもしれないけれど、叶恋ちゃんは私のにとっても大事な娘の親友であり、バイク仲間でもあった。だから、今回だけは私にも手助けはさせてもらうつもりだよ。」
そう言って父親は軽くウインクした。




