「第三十章」「日菜乃はバイクで・・・(1)」
「なんでバイクなんて危ないものに乗りたいの?」
「ウチはな、バイクに乗ってないと生きていけない生物やねん。」
ゆっくりと日菜乃は重い瞼を開いた。
目覚ましがけたたましい音をたてる前。
まだ朝の5時半くらいだった。
最近、日菜乃はよく叶恋の夢を見た。
それは、杏樹に会ってから以後のことだった。
叶恋が亡くなった直後に連続して見ていた辛い夢の類とは少し違う、穏やかな夢が多かった。
今の日菜乃は、どうやって両親を説得するのか。
そもそも説得が可能なのかをずっと考えていた。
行動力や体力や運動神経。
叶恋はバイクに乗るにふさわしい人間だった。
それに比べて自分には何もない。
一般の文系女子高生の貧弱な体力と、磨いたことのない反射神経。
漠然と学生という日々を波風無く生きてきた、闘争心と決意のなさ。
格別好きなものも無ければ、得意なこともなく、自慢できるようなものもない。
何か一つでも運動面で叶恋に勝るものがあれば、叶恋に乗れてたのだから、私だって大丈夫。
と言えただろうに、何一つ無い。
とてもではないが、説得材料が見当たらなかった。
なんと私にはナニモナイのだろう。
考える度に、心が痛くなる。
「貴方は叶恋の為に親とも戦え無いのですか?」
その杏樹の言葉。
負けられない。
自分を何度も支えてくれた叶恋の為の戦いに、負けることなどあれば、日菜乃はもう自分の価値を見いだせなくなってしまいそうだった。
(アールさんを誰にも渡したくない。)
その決意は固まっていた。
ただ、どこから話を初めて、何を材料に進めていけば、自分が「アール」さんに乗る。
という着地点に到達できるのかわからなかった。
免許と維持費や保険に関しては杏樹が保証してくれるらしい。
「そんな甘えたバイクの所有の仕方があるものか。」
そう言われるのは解っている。
ただ、叶恋の財力では、どれだけ急いでもそんな金額は卒業までに出てこない。
だが、人の金でバイクを所有するなんて話だけでも、両親には理解されそうもない。
(どうすればいいかな・・・叶恋・・・・・・・・・・・)
日菜乃はもう一度目を閉じながら、そう呟いた。




