「第四章」「雨の日もバイクで走りたい??(1)」
季節は5月半ば。
寒い冬が開け、ようやく日差しも暖かくなり、そろそろ俺たちのシーズンだと土の中から這い出てたライダーたちを、容赦のないモグラ叩きのように叩き伏せる梅雨の到来である。
今日も早朝からどんよりの空模様で、先程からかなりの豪雨になっていた。
登校時からパラパラし始めた雨は勢いを増し、風に煽られて今はバシバシと教室のガラスを叩いていた。
「ほんま最悪やわ~」
教室にずぶ濡れのライダージャケットとヘルメットを被ったまま入ってきた叶恋に、日菜乃は驚いた。
「ちょっと、どこまでそんな格好で入ってきてるのよ。」
「ひ~な~の~。タオルかして~。」
体からはボタボタと水が滴り落ちていた。
「あ~~もう。」
水の染み込んだライダージャケットは、膨張し、腕を曲げるのも重そうだった。
体育の授業の汗用に置いてあったタオルで、水を滴らせてロボットのように立ち尽くす叶恋の体の周りをくるくる回りながら、表面に残った水分程度は拭き取ろうと頑張った。
「うわ、叶恋ちゃん、どうしたの。大変!」
「おいおい、濡れすぎだろ。」
教室の後ろを水浸しにしていた、この哀れなライダーロボットの存在に気のついたクラスメイトたちが、タオルを手に集まり、バシバシと叶恋を叩いて水分を拭き取る作業を総出で行った。
「みんあ~。ありゃと~。えろうすんまへん~。」
大量のタオルの投入があったせいか、15分後には滴る水分は殆ど無くなった。
「うわ、これ、中までずぶ濡れじゃん。」
拭いていた女子が言った。
「そうなんや~。バイクで走るとな、スピードですごい雨の勢いになるさかい、服にかなりの耐水圧ないと簡単に染み込んでしまうねん。」
日菜乃が驚いたように言った。
「なんでカッパ着てないのよ。」
「レインウエアーな~。今日は途中から急に降ってきたやろ~。切る暇もあらへんわな~。」
「まったくもう!」
日菜乃はバシバシと服の水分を取るために、叶恋ごと服を強く叩いた。
「ちょ、痛い、痛いゆうねん。」
タオルを出してくれたクラスメイトのタオルを殆どビショビショにして、なんとかまともな体重に戻った叶恋は、ようやく動き始めた。
「この感じならなんとか脱げそうやさかい、更衣室で着替えてくるわ~。みんなパワフルサンキュウな~~。」
「いってらっしゃい・・・・。」
みんなは疲れ果てた目で、叶恋を見送った。