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「第二十八章」「邂逅」


空は薄曇りで、夏にしては涼しい日になっていた。


杏樹は父親と共に、叶恋の49日の会場に立っていた。

ここのところ食事も口を通らない杏樹は、立っているのも辛いほどだった。



流石にマスコミももうこの話題からは価値がないと判断したのか、疎らなカメラマンが数人周囲をウロウロしていただけになっていて、叶恋の遠い親類や、叶恋の学校の教師や学生達が数人訪れていただけだった。


その女子生徒の中に、確実に他の女子とは異質な雰囲気の女子高生が目についた。

(成瀬・・・・日菜乃・・・・・・)


初めて杏樹は、叶恋の幼い頃からの友人の「成瀬日菜乃」を目にした。

その少女は、遠目で叶恋のお婆様と話をしていた。



叶恋という接点がなければ、杏樹と日菜乃も出会うことのない運命だったであろう。


同じ友人ということで、杏樹は日菜乃に僅かながらの嫉妬にも似た感情を抱いていた。

それはけして悪質なものではなく、ごく普通の友人同士で芽生える程度のものだった。


だが、それらの感情は、日菜乃の顔を見て杏樹の頭から吹き飛んだ。



日菜乃は叶恋の言っていたとおりの外見だった。


だが、そのイメージとはまるで違った。







そこには、人の顔をした人形が居た・・・・



生命力も鼓動も人らしい温度すら感じない、制服姿の女の子の姿をした無機物が立っていた。


これがあの何時も透明な笑顔で叶恋が語っていた、日菜乃なのだろうか。




杏樹はよくわからない感情が背筋を走り抜けるのを感じた。





「そやから処分することにしたわ。」



そのお婆様の声が杏樹の耳に届いた。





「そんな話は聞いていないし、まったくもって許容できないわ。」


無意識に大きい声が杏樹の喉を通り抜ける。


その声とともに杏樹は自分でもよく理解できない感情が溢れ出してきた。



杏樹は立っているのも辛いために、掴んでいた父親の腕から体を離して、一気に人をかき分けて、日菜乃の前まで進み出た。


杏樹は間近で日菜乃の顔を見た。

(貴方はなんて顔をしてるの。もう生命の灯火も残っていないような青白い顔。)



叶恋が元気で、日菜乃に引き合わせてるくれるようなことがあれば、お互い笑顔で出会えた関係だった。

(このままではこの子の心まで死んでしまう。)



「貴方が、成瀬日菜乃さんかしら。」

杏樹は厳しい口調でいった。


少し日菜乃の顔に動揺が走った。

だが、そのことで最低限の生物しての反応を引き出せた気がした。


「叶恋のおばあさま。以前にあのバイクをお譲り頂けませんか、とお伺いしたときに、叶恋の幼いときからの大親友が乗ることになるかも知れないから、譲るならその子に渡す。というお話無しでしたよね。」


叶恋のお婆様は困ったように答えた。

「そのとおりや。」


「その当人が、それを断ったということは、バイクの行き先は未定になった。という理解でよろしいでしょうか。」

「そういうことやな。」


「日菜乃さん。確認いたしますが、貴方は本気でこのバイクに乗る気がないんですか。」

そう言って、杏樹はカバーを被ったアールさんを指さした。



日菜乃はなにも答えなかった。


「わかりましたわ。日菜乃さん。」





さらに大きく厳しい声で、杏樹は残り少ない体力を振り絞って言い放った。

(お願い叶恋。力を貸して。)




「貴方が乗らないと仰るなら、このバイクには私が乗るわ。」







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