「第二十五章」「そして訪れる日々」
杏樹は学校から帰宅して、ツーリングの荷造りを始めていた。
杏樹も免許を取得して一年が過ぎた。
あれから叶恋とは何度も連絡をとっていたし、女子高生の立場から泊りがけのツーリングまではできなかったが、プチツーリングや、近場でのバイクでお出かけなどは何度もしていた。
今回はお互いのバイク一年記念に、日帰りではあるものの、少し遠くへ行こうという話が持ち上がり、今週の週末には出かける予定で、準備を始めていた。
ここのところ母親が海外旅行に出かけているのもあり、リビングに堂々とアイテムを広げて、大きめのシートバックに荷物を詰め込んでいた。
今日は比較的早く帰宅した父親が、隣でTVを見ながらソファーで遅めの夕食をとっていた。
「ツーリングか~。いいな~。お父さんも行きたいな~。」
「お父様は駄目よ。二人でデートなんだから。」
「お父さんもハーレーでついていきたいな~。」
「やめてよあんな五月蝿いバイク。」
その言葉に、父親はしょんぼりした。
「ところで今回は何処に行くんだい?」
「ん~今の所確定はしてませんけど、片道100km圏内くらいになると思いますわ。」
「叶恋ちゃんと一緒なら心配はあまりしてないけど、無茶な車も多いから気をつけるんだよ。」
うんうん頷きながら、杏樹は荷物を詰め込んだ。
同じバイクが趣味の一つになってくれたかわいい末娘の姿に、心配ながらも父親は嬉しい思いであった。
「一息つきなよ。ミルクティーでも入れてあげるよ。」
「ありがとうお父様。」
杏樹はずっとカーペットの上にぺったん座りで、固まっていた腰を背伸びをして伸ばした。
父親は茶葉を選び、低温殺菌のミルクを温め始めた。
今日はウェッジウッドのダージリンにしよう。
そう決めて、ポットを温め始めた。
少し掛かって入れ終わった、ミルクティーと自分のストレートの紅茶を少し味見して、なかなかいい具合に入った。と、少しテンションを上げつつ、キッチンから、ダイニングにカップを両手に戻って行った。
「おーい。杏樹。今日はいい感じに入ったよ。」
そう言ってテーブルにカップを置いた父親は、その言葉に反応せず、バックに入れる服を片手に持って背中を向けたままの立っている杏樹に、もう一度言った。
「杏樹。ミルクティーが入ったよ。」
それでも杏樹は振り返らない。
「おい杏樹?」
そういった父親は、杏樹が何故、固まっているかを悟った。
後ろの大型のTVは、夜のニュースの時間帯に入っていた。
そこには、叶恋の顔写真が映っていた。
(あれ。叶恋ちゃん。なんでTVに。)
父親がそう思った瞬間に、事故の内容が語られ始めた。
長い長い沈黙が流れた。
二人は、その事故の長めニュースが終わるまで、時間が硬直したかのように指先一本すら動かせなかった。




