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[特別編]「叶恋物語(2)」



それから一時間ほど高速を走って、叶恋は高速のパーキングエリアに滑り込んだ。

体力はまだまだ残っていたし、いくらでも走り続けることはできたが、集中力をリセットするために、定期的にパーキングには入ることにしていた。


ツーリング日和の連休中ということもあり、かなりのバイクが駐輪場には停車していた。

そのバイクたちを興味津々に、叶恋は眺めて、ニヤニヤした。


ツーリングの人も多いが、こういう場所は多くの道の駅同様に、自分のバイクを自慢したいだけや、人のバイクに文句を言いたいだけの、孤独な中年やお年寄りが屯していたりする。

叶恋はそんな連中とは少し距離をおいて深呼吸と背伸びをした。

本当に良い天気である。


水分補強をしなければと、自動販売機に向かった叶恋は、その周辺に我が物顔でたむろしているバイク乗りたちが、自分の武勇伝とバイク自慢で語り合っているのを無表情で避けて通った。

まばらに居る女子ライダーは、男どもにチヤホヤされて、上機嫌だった。



全く興味なし。叶恋はそういう顔で飲み物を買い、バイクに戻ろうとした。


控えめに言っても、叶恋はすらっと長身で、整った顔立ちをしている。

今どきバイクなどという女性ウケもしない趣味の男どもが、極めて貴重な若い女子ライダーで、しかも美形の叶恋を放って置くわけはない。


声を掛けるにしても、バイク乗りの男たちというのは、かける言葉も、大昔の「お茶しない?」レベルのテンプレばかりである。


「どこいくの?」「今日はツーリング?」「何に乗ってるの」「何処から来たの?」


むしろこのセリフ意外があったら驚きなほど同じであった。


バイクに乗り始めて半年である。

叶恋はこういう連中の相手は何十回もしてきた。


にこやかな笑顔で叶恋は答えた。

「自分のバイクで、ちょっとそこまで。」

そう言い終わると、そのまま振り返りもせずに歩き始めた。


こういうバイク乗りは朝から晩まで、何処へ行くでもなくたむろっている暇な人間だ。

少しでも会話のチャンスを与えたら、若い女子と話すということに、日頃使いもしないエネルギーを存分に使って、何時間でも話そうとするだろう。

時間があれば叶恋もそんな話にも、にこやかに付き合うのも悪くはないとは思っていたが、今日はこれからの移動距離も長い。

時間も体力も、他のことに使いたくはなかった。


バイク屋の店長が話していたが、女性ライダーの中には、休憩所に寄る度にすり寄ってくる若い男や中年男に、後を付いて来られたり連絡先をしつこく聞かれたりして、バイクライフにうんざりしてしまいバイクに乗るのをやめてしまう人も少なくないそうだ。



その気のないときは取り付く島もないレベルで立ち去る。

これが最良の手段だと、叶恋も学んでいた。



買ったペットボトルで水分を取りながら「アールさん」に戻ると、かなり他のバイクとは離して止めたはずなのに、何故かその横には大型バイクが止めてあった。

その乗り手は自分のバイクの横に座って、いろいろ確認していた。


バイクに乗るには相応しくない洒落っ気のある服装。

頭は金髪。耳には目立つピアス。俺、そこそこイケメンだよね。という感じで顔にも少し化粧している雰囲気がある。近寄ると香水の匂いがした。


叶恋はこのバイクに見覚えがあった。


途中で集団で叶恋を抜いていった、大型集団の一人だ。

後からここに停めました。のように振る舞っているが、とうの昔にこのパーキングにいて、叶恋が停めたのをみて、ここまでバイクを回して来たのだろう。


おそらく、抜く時に叶恋が相当若くて美形なことに気がついていたのだろう。


これは一番めんどくさいタイプだ。

叶恋はそう思った。


早々に飲みのものをシートバックに入れて、出発準備を始めた。


「これヤマハだよね。排気量いくら。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



さあ、くだらない時間の始まりだ。叶恋は覚悟した。


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