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「第二十二章」「バイク用品店(1)」


車は夕暮れの高速道路を駆け抜けていた。

杏樹の父親の白い高級セダンであった。


父親は上機嫌で、いつもの癖で鼻歌交じりであった。


「バイク用品を買いに行きたいわ。」


その言葉に、リビングで書類を見ていた父親は、一瞬で硬直し、持っていた書類をすべて地面に落としてしまった。


バイクが趣味。


その流れで利益になるかどうかもわからない教習所を独断で買収し、多大な費用をかけてリニューアルまで行ってしまい、家族や親類縁者の前では「バイク」という言葉はけして言ってはいけない禁句で、その話題になろうものなら、父親は愚かな道楽者として本当に居場所なく責められる立場だった。


その家庭内で、愛しい末娘から「バイク」の話題で話しかけられ、用品店に連れて行ってくれなどと言われる時が来ようとは・・・・。


(なんと嬉しい)


(なんと素晴らしい)


(ここは天国ですか)


という程の感激の状態だった。



父親のアドレナリンは一瞬でMAX状態に到達した。あまりのことに指先がプルプルと痙攣していた。

(何秒で用意すればいいですか。何処の国まで何店舗巡ればいいですか。地獄へでも天国へでも連れて行きます。)


そんな真っ赤な顔で、父親は大切な仕事の書類を踏みつけて立ち上がった。

「すぐに用意する。」

そんなおかしなテンションの父親に、杏樹は少し引いたが、もう一言付け加えた。

「え~と、友人を迎えに行って、一緒に行きたいんだけど・・・・」


杏樹にも休日訪れる友達は何人もいた。


クラスメイトだからお邪魔した。

お金持ちだから家や杏樹の部屋に興味があった。

親類や、家の繋がりの比較的裕福な同年代の知り合い。


ただ、杏樹が自分から、父親に声をかけてまで誘いたいという友人は初めてであった。


「バイク」での親子の会話に加えて、バイクに興味のある友人の紹介、という娘しかいない自分の人生には、けして訪れることが無いだろうと思っていた幸福が、一気に降ってきたのだ。


「40秒で支度する。」


テンションの上がりすぎた父親は好きだったアニメのパクリのようなセリフを、無意識に呟いて、脱兎のごとく走り去った。



最終の試験場の試験が受かった訳ではないが、杏樹はバイク用品。特にバイクのプロテクターやジャケットなどを早急に買い直したかった。

レース用のツナギという、おおよそ教習所には相応しくない格好を、一度とは言えさせられたのだ。

それ以降は私服に教習所のプロテクターをつけて実技教習を終わらせたが、二度とツナギなどを街乗りで着たいとは思わないし、もう教習所のプロテクターを借りることは出来ない。


叶恋が持っているような、ジャケット兼用のプロテクターを手に入れなければならない。


ただ、もう父親と店長の言うことを聞く気にはなれないし「バイクの装備を買うんだけど付き合ってくれない?」というのは、叶恋をはじめて誘うという大舞台に相応しかった。



上機嫌の父親に車を走らせて、叶恋と言い合わせた公園で、彼女を回収した。



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