「第六十八章」「猛暑(6)」
裕福で、礼儀正しくて、ピアノやバレーを習っていて、成績優秀。有名私立の桜女子の生徒会長。
スタイルも容姿も、TVで見かける多人数のアイドルグループの、一番人気のセンターの女子と比べても、全く見劣りしないほどだった。
町中で彼女を見かけた人は、一瞬、動いてる美しい人形ような存在に、違和感を感じるかもしれない。
同じ女子としては、不愉快なほど美少女だった。
欠点を見つけるほうが難しい。
強いて言うなら、あの強引になんとでもしてしまう性格であろうが、それも後数年すれば、仕事の出来る美人として高い評価を得るのだろう。
それに黙っていれば性格は目に見えない。
最近は暇さえあれば「バイク、バイク、バイク」で、母親に相当怒られているそうなので、今日はついに逃げれなくなっのかもしれない。
彼女の頭の中は、青空の下でバイクの練習をする私のことを想像して、ストレスで激しい曲を弾いているかもしれない。
その姿が少し思い浮かんで、日菜乃は苦笑した。
「そういえば、来週教習所の卒業生を対象にツーリングがあるよ~。もうすぐ締切だけどどうする~。」
田村が言った。
「あ、行きます。」
そんな情報を知らなかった日菜乃は即答した。
近場の練習ばかりで、集団のツーリングには参加したことがなかった。
動画などを見て、一度は集団のツーリングというものに参加してみたいと思っていたので、とても良いタイミングだった。
「わかったよ~~ん。それと~知ってるとは思うけど一応は、杏樹ちゃんにも声をかけておいて~。」
「わかりました。」
日菜乃にとってツーリングというのは、田村や露草と内輪だけで行ったキャンプツーリングが最初で最後だ。
初対面の人達が参加するツーリングというのも、良かれ悪しかれ一度は体験してみたかった。
何かトラブルがあっても田村教官達、教習所のメンバーがいればとても安心だ。
それにしてもこんな話を杏樹はどうしてしてこないのだろう。
教習所のオーナーの娘なのだら、あまり考えれないが、ひょっとすると本当にツーリングの話を知らないもかもしれなかった。