「第六十七章」「成瀬日菜乃(12)」
翌日、楓は露草ライダーズの前にバイクを止めた。
このバイク店は正直変わっている。
店外に置いてあるバイクには殆どカバーが掛かっていた。
タイヤを見る限り、修理済みのバイクか、これから作業するべきバイクだろう。
多くのバイク店は周囲にむき出しのバイクを停車させて、バイク店があることをアピールしているものだが、それよりもホコリや太陽熱でバイクそのものが劣化するのを気にしているのだろう。
店内にも比較的多めにブラインドがかけられ、外から見えるバイクは一部だった。
紫外線に弱い塗装も多いバイクには優しい行為だが、宣伝効果としてはかなり落ちる。
外から見る限り、新車のバイクも店内にはかなり置いてあるようで、商品の売れない店とは思えない。
競技や業務用の扱いが多いとのことだが、よくこんな商売で店が保つものだ。
よほど常連から信頼が厚く、紹介や、増車などで販売があるのだろう。
少なからず、一般人がこの辺りでバイクを購入する候補の店には、ほとんど名前の上がらない店だ。
もしかすると、女子高生の娘が、ネット販売などで広報をしているのかもしれないとも思った。
こういう店だと、初見の客は本当に入りにくい。
とは言え、既に店先にバイクを停めて降りてしまった以上、このまま走り出すわけにも行かない。
楓はここまで来といて少し戸惑った。
このような店に、あれだけ悪評のあるチームのリーダーの自分が入っていいものだろうか。
もし店主が自分たちの噂を知っていたら、オイル交換どころか、門前払いを食らうかもしれない。
最初はバレなくても、バイクを見ればディアマンテのステッカーですぐに気づかれるだろう。
(ここまで来て迷ってどうする。)
楓は自分を奮い立たせた。
(なるようになれ。)
楓は自動ドアをくぐり店内に入った。
クーラーの効いた店内で、作業をしていた男が立ち上がった。
「いらっしゃい。」
無骨で頑固そうな如何にも職人といった感じの大人だった。