「第六十七章」「成瀬日菜乃(10)」
「あれだろ!!」
「あれだわ!!春菜、なんでもっと早く言わないの!!」
「え~~~。」
春菜はいきなり怒られて言い返した。
「だって私、実物見たこと無いもん!解るわけないもん!!言って違ったら怒られるもん!」
そう言った後に泣きそうな顔になった。
「バカ涼子、春菜を泣かすなよ!」
慌てて楓が言った。
「そ、そんなつもりは無いわよ。」
珍しく冷静な涼子が焦った様子でオロオロした。
「って、そんな場合じゃないだろ。」
急いで楓は立ち上がったが、既にR3はライダーが跨り、走り出そうとしていた。
そのライダーは体格的にも、ライダージャケット的にも間違いはなかった。
あれは「成瀬日菜乃」だ。
既にR3は道路に出ようとしていた。
(これは間に合わない。)
楓はそのまま店の外に出ようとして、キュッと足を止めた。
追いかけるならヘルメットが要る。
「涼子!ヘルメット!」
そう言われて、涼子は一瞬、ヘルメットを楓に投げようとしたが、その手を止めた。
「おい!」
鋭く楓が言い放った。
「無理よ楓。もう道路に出たわ。」
涼子が言った。
「追いつくさ!」
「駄目よ。すり抜けや追い抜きを繰り返せば、貴方の腕なら追いつくと思うけど、そんな乗り方で追いついたバイクのライダーと、あの子がまともに話をするとは思えないわ。」
「くっ!」