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「第二章」「バイクの健康診断」



「う~~ん。う~~~~~~~ん。」

日菜乃と叶恋が二年生になって、間もないある日、叶恋が後ろの席で机につっぷして、ウンウン唸っていた。

「ちょっと叶恋。うるさすぎて授業に集中できないんだけど。」

「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。」


「どうせまたバイクの事でしょ。なんかあったの?」


ピクッと叶恋の唸りが停止した。

「なんでバイクのことってわかるねん。」

日菜乃は深い溜め息をついた。

「貴方が他のことで悩んでいるのを見たことが無いんだけど。」

「そんなことあるかい。乙女にはいろんな悩みがあるんや。」

「ほ~う。例えば?」

ニヤニヤしながら日菜乃は聞いた。

「そ・・・それはやな・・・来シーズンのバイクジャケットとか・・・」

「ほう。」

「また洗車しないといけないな~とか。」

「ほう。」

「高校選ぶときもバイク通学可能な学校にするのにえろう悩んだわ。」

「ほう。で?今日はどんなバイクの悩みなの?」


「い、今言うたんは、ファッションと掃除と進学の話や。バイクちゃうやん。」

「ほう。で?今日はどんなバイクの悩みなの?」


「うぐぐぐ・・・・もうええわ。構わんとってくれ。」

叶恋は再び机に両手を枕に突っ伏してしまった。

「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。」

「もー!うるさい。」

本当にこの生き物はなんて面白いんだろう。

日菜乃はニヤニヤしていた。



「な~日菜乃。」

「ん?なに?」

「今、財布になんぼ入ってる?」

「え?!」


日菜乃はちょっと驚いた。

叶恋がお金の話など日菜乃と話したりするのは、10年の付き合いで初めてだったからだ。


叶恋は小さい頃に両親を無くしていて、父方のおばあさんに引き取られてこちらに来たのだ。

当然ではあるが生活は裕福ではない。お金に困ることも多かっただろう。

だからこそ、それを見せないために、長年の友人の日菜乃にもお金の話などは一度もしたことがなかった。


バイクに関しても、免許もバイクも保険も全て自分のバイトで賄っていた。

だからこその驚きだった。


日菜乃は財布を取り出して中身を見た。

「さ・・・3000円くらいかな・・・・。」


グバッと叶恋は顔を上げて、日菜乃の両腕を掴んだ。

「すまん日菜乃!女を見込んで言うけど、その金貸してくれっ!!」


「きゃっ」

あまりの叶恋の動きの速さに、日菜乃は1テンポ遅れて顔をビクッと引いた。

「ちょっと、突然どうしたのっ。」



叶恋はチラチラと日菜乃の顔を見ながら申し訳なさそうに話し始めた。

「実はな~~~~。長い話やけどええか?」

「もう話す気満々なんだから話しなさいよ・・・・・・・・」


「バイクを一年点検にバイク屋に出したんやけどな・・・・」


日菜乃は少し目を見開いた。

「え?一年?アールさん買ってからもうそんなに経ったっけ。」

「何言うてんねん。うちは誕生日の4月の16日ジャストにバイクに乗れるように、前もって教習所も終えて試験を誕生日当日に受けて、初乗りしたんや。覚えてないんかい。」


日菜乃は、少し眉をひそめた。

(あ~~。なんだか少し覚えてる。この子が16歳の誕生日過ぎて一日でもバイク乗るの待てるわけないと思ったら、その日に学校サボって試験受けてバイクをバイク屋に取りに行ったんだった・・・)

(確かに今日は4月の20日だよね。一年か・・・・なんだか嘘みたいに早いね。それにしてももう車検なのかな・・・)


「バイクって一年で車検みたいなのがあるの?あれって凄く高んじゃないの?」

「あ~いや。そういうのとはちゃうねん。なんていうか、そう!健康診断みたいなもんや。バイクは常に健康な状態で乗ってやらな可愛そうやろ。そのためのもんや。」


「健康な状態って。叶恋、アナタが、どんな高熱でも病院も行かななければ、日頃の健康診断もサボるくせに何ってるのよ。」


「うごっ・・・・・・・そ、それはやな・・・・。そや、人間は勝手に治るけどバイクは勝手には治らんからや!どや、ええこと言ったやろ!」

日菜乃は軽い絶望感と共に頭を抱えた。

「人間も、勝手に治らない病気もあるんだよ・・・」

「そうなんか。そんな病気になったことあらへんからな~。って、そんな話はどうでもええんや。」


(どうでもよくないよ。)

無表情になりかけた日菜乃を無視して叶恋は話し続けた。

「今日がバイクの引取日やから迎えに行きたいんやけど、バイトの給料日勘違いしててな・・・明日にならんと金が入ってけーへんねん。」

「あらら・・・・」

「一日とはいえ、うちの側を離れてアールさんは、きっとごっつう寂しいはずなんや。なんとかして今日迎えに行ってやるのが親心ってもんやろ。」


「なんか・・・・色々おかしいこと言ってるけど・・・・・そこはもう良いよ・・・」

日菜乃はため息をついた。


「3000円で足りるわけ?」

「足りへんのは1800円なんや~~。」


自分のメンツやポリシーよりもアールさんが大事なんだ。

叶恋の情けない顔に日菜乃は少しクスクス笑ってしまった。


「しょうがないな~。親友のたのみだし。」

そう言ってお財布から2000円を差し出した。


叶恋も人にお金を借りるなんていうことが初めての様子で、プルプルとした手でお金をうけとった。

「友情が壊れるのは金のこと。とかに絶対にならへんように、明日必ず返すから!」

「うむ。待っておるぞ。」

日菜乃は小さく胸を張った。

「ありがたき幸せ~~~~~~。」

へへ~と叶恋は大げさに机に平伏した。


「それにしても春休みの間のバイトで結構稼いだとか言ってたのに、あのお金どうしたのよ。」

「あ~~あれか~~。あれはな~。タイヤに変身してしもうたんや。」


「タイヤ??え?バイクのタイヤって一年も持たないの?パパの車とかもう5年位変えてないよ。」

「それがな~、タイヤによるっていうか・・・のり方によるっていうか・・・」

「いままでそんな悪いタイヤつけてたの?」


「いや・・・良いタイヤだから逆に早く駄目になるというか、なんというか・・・・・」

「????」


日菜乃にとってバイクの事はよくわからない事だらけだ。



それでもバイクの話を、キラキラ話す叶恋を見ていると、それで良いのだろうと今までも思ってきたし、おそらくこれからもそうなのだろう。




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