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「第十六章」「杏樹の決意」




教習所からの帰りの車の中で、かすかな路面の振動を感じながら杏樹は様々事を考えていた。



(15歳・・・・私と同じ年齢じゃないの・・・・・・・。)

それであんなに上手くバイクを乗りこなしてるだなんて。


乗ったのが二回目で。



しかもそれだけではない。


彼女は社交的で、教官の田村さんとも色々話したらしい。

彼女はバイクの購入も決まっており、その費用も、今回の教習所の費用も、全部自分が中学生の時からバイトで稼いだお金だというのだ。


家も貧しく、両親は居らず、自分のことは自分でやってきたそうだ。



それで変にスレていたり僻んだりしてるような感じは全く無い。

全て正面から受け入れて、夢のために真っ直ぐ自分の足で歩いてる強さの笑顔だった。




なんて私は世間も知らず、何も出来ず、何処へも行けないのだろう。



間もなく彼女はバイクに乗って自分の意志と責任で、何処まででも行くのだろう。



自分はどうなのだ。

家の車で送り迎えばかりで、一人で電車にのることも殆ど無い。

一人では何処も行こうとも思ったこともない。


生活も学校も、親の財力と家の名声があってこそ成り立っている状態だ。



私一人で何ができるというのだろう。


私一人で何処へ行けるというのだろう。



勉強もスポーツも、それなりに熟して、同級生に歴然と負けたとは感じたことはなかったが、それは同じレベルの温室のお嬢様友達の中ではだ。

まさに井の中の蛙。



同じ15歳として、西奈叶恋には完全に負けている。


たった10秒程度のすれ違いだけで確信してしまった。

私のような、無力なお嬢様と彼女では、人間としての格が違う。

彼女の歩いてきた厳しい人生からすれば、私の多少の人生の文句など、有ってないようなものだ。


杏樹は生まれて初めて、完全な敗北感を感じていた。



あんな子は目指す世界も、住む世界の違う子だから、気にする必要もない。

そんなフォローを周囲はしてくるだろうが、そんな裸の王様になるほどバカではない。


あの子はあの強さで、あの笑顔のままで、私の知らない世界を何処まで行くのだろう。

私が自宅と学校を往復するだけの生活を送っている間に。



「お父様。お願いがあります。」

いつもとは少し違う声の調子で杏樹が呟いた。




「ん~なんだい。杏樹。まだ買いたい物があるのかい?」

田村さんと2時間もバイク談義のできた父親は上機嫌で、軽く答えた。







「明日から、私はあの教習所に、免許を取りに行きたいと思います。」

杏樹は、絶対に譲らない表情でそう言った。


「えええっ。」

父親の運転する車は、僅かではあるが左右にグラグラと蛇行した。




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