「第六章」「バイク通学と叶恋のポリシー(2)」
「問題なんは、そんなすり抜けや爆音だしたり、大勢で集団で走ることが、本人たちは悪いどころかなんとも思ってないことや。」
叶恋は食べ終わったカツサンドの包装袋を握りつぶした。
「道路でグネグネ車線変更して車の間すり抜けたり、峠でアホみたいにバイクを寝かせて曲がったり、集団ツーリングで列が切れないように、集団で無理な抜き方したり。どいつもこいつも「このくらい別にいいよね。」みたいな顔でやってるからな。救われようもないわ。若い人間だけやなくていい歳こいたおっさん連中も頭おかしいの山程おるで。」
なんとなく日菜乃は、何度か見かけたことのある、真っ黒いテカテカの革のジャンバーを着て、真っ黒いでっかい五月蝿いバイクにふんぞり返って乗った、中身がおじさんの集団を思い出した。
本人たちはドヤ顔で、ぼんぼん音立てて、俺たち注目されてる、というような顔をしていたが、一般市民からしたら、いい歳をした珍走団としか見えない。
現実は、バイク乗りが思っている以上に厳しい。
この年令の女の子からすれば、バイクがかっこいいなどという夢物語は生まれない。
唯一違うとすれば・・・・イケメン限定アイテムなのである。
長身で、足が長く、引き締まった体で、頭も良くて若くてイケメン。
そういう人間が乗っていてこそバイクがカッコいいアイテムして成立するのだ。
そして、バイク乗りの殆どがその厳しい現実を理解もしていない。
唯一、日菜乃が叶恋以外のバイク乗りで気に入っているのは、ピカピカに手入れされた少し古めそうに見えるバイクで、小奇麗な格好でトコトコ走っている近所の品の良いおじさんだ。
いつもニコニコしていて、下校時には「おかえり~」と走り抜けながら声をかけてくれる。
なんとなく素敵感の漂うバイクライフを送っていそうな、そのおじさんは、日菜乃の中でも、おそらく近所でも、別扱いになっているだろう。
「ほんまムカつくわ~。」
思い出してイライラするのか、叶恋はまだ続けていた。
ああ、きっとこの話は昼休中続くんだろうな~。と日菜乃は、昼食場所に選んだ中庭から、天気の良い青空を見上げた。
叶恋がこの手の話で怒り始めると、なかなか収まらない。
(叶恋は本当にバイクのことが大好きなんだ。)
この一言で全て納得がいった。
この一年間、何度も登下校で走っている叶恋を見かけたが、上下綺麗なライダージャケットにライダーパンツ。長めのブーツにグローブをつけて、いつ見てもガチガチのバイク乗りの格好をしていた。
身長165センチある叶恋が、その姿でバイクを操るをの見ると、友人としての色眼鏡を除いても、イケていた。
常に安全運転で、すり抜けや無理な追い越しや停止線オーバーなどをしているのを見たこともない。
横断歩道では積極的に歩行者を優先し、曲がる車には先行を促し、まるで・・・・・
走る優良ライダーそのものだった。
(自分が大好きなバイクを良く見られたい。)という気持ちが本気であるのだろう。
(俺はバイクが好きだから。)などという自己満足的なライダーでは、市民権を勝ち取ることは出来もしない世の中なのだ。
「こんだけバイクの少ない世界やから、バイクに乗ってるだけで目立ってしまう。だからこそ、そこでえーとこ見せておかんと、嫌われっぱなしや。バイク乗りっていうのはな、バイクに乗った瞬間から、全国のライダー代表なんや。かっこわるい真似なんてうちにはできへん。」
(うわ~。すごい決め台詞きた。)
叶恋が男子生徒で、日菜乃がバイク乗りに憧れる女子生徒なら、ここは「惚れてしまうでしょ。」というシュチュエイションなのだろうが、ここにいるのは連日バイクの話ばかりされて、心にバイク防壁が完成しているバイク無関心女子である。
(その話、聞き飽きました。)
という顔しか出来ない。
それでも、叶恋がこの時言った言葉には、少しだけ心がざわついた。
「バイクはな、もっと皆に好かれたいんや!」




