「第三十九章」「嵐の前触れ(2)」
「いやいや、当校の自由な風紀は、当校足らしめている重要な要素です。バイクに関しても、何十年と問題にはしてきませんでした。あの暴走族の全盛期においてすらですよ。それを当校生徒が死亡事故を起こした加害者でもないのに、バイクに関して問題にするのはおかしいでしょう。」
中堅の三年生の学年主任が、反論した。
「バイクなんていう不良の乗り物を見過ごしている自体、当校のイメージダウンですことよっ!あんなにもテレビでバイク通学の可能な高校と報道されて、当校は生徒のレベルが低いと全国の方に思われております。なんという恥でしょう。当校に子どもたちの未来を預けている親御さんたちも、あの報道で学校のレベルが低く見られて、進学や就職に悪影響になるのではと心配されていますわ。」
女教師は引く気は全く無い。
日菜乃の担任教師も反論した。
「バイク通学している生徒が、素行が悪いなどということはありません。現に西奈にしても、問題のない生徒でした。」
「嘘おっしゃい。成績は中の下。サボりや無断欠席も多く、授業も身の入っている態度ではなかったわ。それ以外にもバイク通学生が近隣で危険運転を起こしてクレームの電話があるのは事実でしょう。」
流石に、それは事実であるために、誰も反論は出来なかった。
全てのバイク通学者が、叶恋のような人間ではない。
半ヘルで爆音気味の汚い原付きスクーターを乗り回し、すり抜けや割り込みを繰り返す生徒も何人かは居た。
同時にそれに関するクレームの電話や、生徒、及び父兄からの苦情。
もっと悪い場合は警察からの呼び出しも無いわけではなかった。
「いいんじゃないですか~。別にバイク禁止で。今どきバイクなんて流行りませんよ。いっそ禁止にしたほうが問題なくて良いでしょう。」
教師三年目の、いかにも公務員という情熱のない若い教師が、こんな話題すら面倒くさいといった態度で、そう発言した。
「わたくしはPTA役員の方々とも連絡を取って議題に致したのです。私は生徒並びに父兄の代表の意見の代弁者ですわ。」
「しかし、バイク通学や乗車に関しては、それを加味して当校を選んだ生徒だって居ます。今更そんな急なことを言われても・・・・」
汗を拭きながら教頭が言った。
「わたくしは、最低でも今学期より、バイク通学者、及び、バイクに乗る生徒を禁止する方向で、これ以上増やさないように、校則を定めるように要望いたしますわっ!」
ツバを飛ばしながら、湿度で不快極まりない職員室で、女教師は叫んだ。