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めまぐるしい物語

作者: セルロイド

 ドアを開けるとくすんだミラーボールが目に入った。

 ここは廃墟なのだ。冷たいドアノブが私に覆しようのない事実を突きつける。

 あの頃の熱狂はもはや無い。ホコリにまみれたこの廃墟は、時代に置き去りにされたものどもの墓場と化している。

 現実と思い出のあまりに巨大すぎる乖離に打ちのめされ、私は屋上から落下した。



 パラシュートが開く。

 ごうごうと音を立てて私と戯れていた風たちが一気に背中へと集まり、ぐぐっと体を引き上げる。

 爽快な眺めだ。360度に広がる空色の海が地平線の果てまで広がっている。

 まさに、パノラマ。先ほどまで激しくぶつかり合っていた風たちは微風となり、私の汗ばんだ肌に触れては離れていく。

 空中を旅する私の次なる友人は鳥たちだ。彼らは白い体をはためかせ、緩やかに降下する私を後ろから追い越していった。



 それが私の心に火をつけた。

 負けたくない。

 残り僅かの体力をかき集め、地を蹴る足に力を込めていく。

 考えるのはもうやめだ。全力を出してやる。

 遠ざかっていく背中に狙いを定め、私だけのラスト・スパートを切った。



 既に限界だというのは、誰よりも自分自身が一番良く分かっていた。

 でも、だから、何だというのだ?

 私の仕事を終わらせられるのは、結局のところ、私しかいないのだ。

 ペンを握る手が震えている。もう、何徹したかも分からない。

 ぐしゃぐしゃになった原稿用紙が扇風機に煽られて転がり、私のことをあざ笑った。



 その、侮蔑がたっぷりこもった笑いが、私の心をグサグサ突き刺してくる。

 顔を上げられない。

 部活に入って、みんなと県大会を目指すのが、そんなに悪いことなの?

 拳をぎゅっと握って感情をこらえる。

 ああ。泣いてしまいそう。



 喉がつっかえてしまって声が出せない。

 たくさんの声援が、あの黄色いステージライトが、私を待ってくれているというのに。もう、こんなところでポンコツなんだから。

 本当に、本当に、ここまで来たんだ。

 それも、一人じゃない。こんなにもたくさんの人たちと一緒に。

 私は今、私が夢見た景色の中にいる。



 ………鮮烈な体験だった。

 私の首元から共感覚デバイスが外される。それに伴って視神経がネットワークから切断され、網膜被覆型カメラに再接続された。

 感度良好。バッチが動作し、制御IFが筐体用のものから人体用に切り替わる。


「いかがでしたでしょうか」


 セールスマンが私に尋ねた。


「素晴らしいですね。まるで夢を見ているみたいでした」

「おひとついかがですか? 今ならお安くしておきますよ」

「そうですね。では、購入いたしましょう」

「ありがとうございます」

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