文章を書こうよ! ~俺が小説家を目指し始めたのは、あの子の言葉~
こういう青春を送りたかった……。
「おお、確か柿崎終咲だったな。私の名前は河本光だ。お近づきの印にコレをお貸ししよう!」
高校二年生の新学期、俺の後ろの席になった男から、三冊の本を渡された。
「なんだ、コレ?」
渡された本は、可愛い女の子の描かれた表紙の小説――いわゆるラノベと呼ばれるものだった。
「ハハハ! せっかく席が近くなったのだぞ? 私が同志を増やそうと考えるのも当然のことだろう!」
いや、知らんし……。
光は何故か立ち上がり、掌で顔を覆い隠してポーズをとっている。
「同志って……俺こういうの興味ないんだよ」
俺が本を突き返そうとすると、光は掌を突き出してくる。
「フフフ……いまどきラノベだからといってバカにしていると痛い目を見るぞ?」
ふざけた口調をしているが、目は真剣だ。
思わず気圧されてしまう。
「……まあ、騙されたと思って一巻だけ見てみると良い。それで気に入らなければもう二度と勧めはしない」
「分かったよ……約束は守れよ?」
仕方ない、一冊だけだ。
それで諦めてもらえるなら安いものだ。
「フフフ……お前は今、悪魔との契約を交わしたものだぞ? もう戻れはしない……。予言してやろう……お前は明日、それを全て読み終わり、明日俺に頭を下げるのだ。続きを貸して下さい……とな」
バカバカしい。
悪いが、俺は文章を読むのが苦手だ。
本を見てると頭が痛くなってくる。
残念だがお前に勝ち目はないんだよ!
「はいはい、言ってろ……」
俺は話を打ち切り、授業が始まるのを待つのだった。
「つ、続きを貸して下さい……!」
俺は屈辱に震えながら光に頭を下げる。
「ふは……ふふ……フハハハハ!」
勝ち誇った光の笑い声が、更に俺の屈辱を増加させていく。
「終咲よ……言ったであろう、悪魔の契約だと! お前が私の前の席に座った時点で、もうこの運命を迎えることが決まっていたのだ!」
掌で顔を覆い、厨二ポーズ(小説に描いてあった)を決める光。
「だ、だがな、俺はただでは負けん!」
俺は顔をあげて光を見る。
「負け惜しみを……!」
光は俺の言葉を信じていない。
だけど、お前は一つ重大なミスを犯している!
「いや、お前は『全てを読み終わって貸してくれと言う』と言っていた……。だがな、俺は全部を見てはいないんだ! 最後のエピローグ、これをわざと見ないことによってお前の予言を打ち破ったんだ!」
俺は自信満々に厨二ポーズをやり返してやる。
「そ、それは私が貸した『竜の女王伝説 ~世界征服を果たした邪悪な竜は可愛い女の子だった~』の第二巻で、光の勇者の作戦を見事に打ち破った竜軍師メイの策略と同じ……!」
「流石だな……」
巻数やキャラの名前、何より長ったらしいタイトル名を言えるとは……本当に恐ろしい男だ。
「フフ……完敗だ。だが終咲、これで分かったぞ。お前は私の同志たるに相応しいと!」
光は鞄から五冊の本を取り出す。
「あれ? 竜女って確か七巻までしか出ていないんじゃ?」
「ふふ、知っていたか」
当たり前だ、昨日の内に調べていたわ!
略し方や裏設定、他にもいろんな情報はとうの昔に網羅しているのさ。
「これは、竜女の作者が以前書いていた小説だ。竜女が終われば、次の蔵書が必要だろう?」
「河本! 俺はお前の前の席になって良かった!」
「終咲よ、『同志というのは名前で呼び合うものだ』」
「それは竜女一巻の山場、軍師メイと女王リューディーナの掛け合い……『ふふふ、そうですね光!』」
「同志終咲! 『今後ともよろしく頼むぞ!』」
俺達はガッチリと握手を交わし、互いに微笑み合った。
「ひ、光……次、次の小説をくれぇ……!」
俺はまるでゾンビのように光に縋りつく。
「……悪いが、他のはまだ貸し出し中でな」
「『そ、そんな……お前は……お前も俺を裏切るのか!』」
「そこで清廉伝説のロイターの台詞をチョイスするとはな……終咲も大分、分かってきたな」
ちなみに清廉伝説は竜女の作者が書いていた小説だ。
「そんな……俺は今、活字中毒なんだぞ!」
一週間前の俺からはイメージできない言葉だ。
「まあ落ち着け……きちんと策はある」
「策?」
「ああ、終咲。スマホを出せ」
俺は言われるがままにスマホを制服のポケットから取り出す。
「検索サイトで『書こうよ』と検索してみろ」
言われて俺は『書こうよ』とググってみた。
「そこに『文章を書こうよ』というサイトがあるだろう? そこからお前好みの小説を探すのだ」
「策って……これか?」
「ああ、そうだ」
小説投稿サイト。
そういうのがあるのは知っていた。
「まあ、終咲の言いたいことも分かる。そのサイトの作品群は、確かに書籍化した作品も多いが、それ以外の作品もかなり多い」
そういえば、竜女を調べていたとき、変な言葉が出てきたな。
「下降小説……」
「ああ、その蔑称を知っていたか……。確かにそのサイトの作品を揶揄するときにはそう言われることも多い」
書籍化する作品は多岐にわたるが、同じような題材があまりにも多く、小説の人気や質自体が落ちてしまうことがある。
そこから生まれたのが『下降小説』という蔑称だった。
「だがな終咲。決してそれが真実というわけじゃないんだ。その蔑称は『書こうよ』を見てない人間が付けたモノだ。確かに同じような内容のモノは数多くある。だがそれはそれがウケるからだ。異世界転生モノなんて、現代人が『自分以外の何者かになりたい』という願望を満たすのにうってつけだからこそ人気が出るのだよ」
光は真剣な目で語っている。
「かく言う私もこのサイトに小説を投稿している者の一人でな……まあ今はそのことはいい……」
知らなかった……こいつはラノベに関しては、本当に真剣で本気なんだな……。
「『現状を打破したいと思うこと……まさに今のお前と一緒だ』活字中毒を癒す為に、『お前は物語を欲している。ならばそれはお前の手で掴みとるべきだ』」
その台詞は清廉伝説の中に出てきた……。
「『なるほどな、確かにそれはそうかも知れない……ならばお前の口車に一つ乗ってやるとするか……!』」
俺は自身の記憶を元に、最善と思われる答えを返すのであった。
それからまた一週間ほど経ったとき、俺はほとほと困り果てていた。
「光、お前何かおススメの小説ないか?」
「終咲よ、昨日『転生したと思ったらすぐに死んで、またすぐに転生したのでチートが二倍!』が面白いと言っていたではないか」
「それは最初だけだったんだよ……!」
最初だけ目新しく、後は他作品の三番煎じくらいの内容だった。
もちろん途中で切った
俺はこれまで、人気上位で気になった作品や、俺の好きな成り上がりモノはあらかたチェックした。
だが、俺はある時期から『これだ!』と言える作品に出会えていなかった。
むしろ、見れば見るほどコレジャナイ感が増していくのだ。
「……そうだな、終咲よ。それなら、自分で描いて見てはどうだ?」
何を言ってるんだ?
「自分で書くって……またどうして?」
俺は見たいのであって書きたいわけではない。
光の考えが分からない。
「私の知ってる小説のキャラクターが言っていたのさ。自分の求めるモノがなかったから自分で創るんだってな」
なるほどな……確かに自分で書いて見たら、求める小説が見えてくるかもしれないしな……。
「そうか……今度その小説貸してくれよ? ……よし、俺も試しに少しだけやってみるかな!」
こうして俺は小説を書き始めたのだ。
「よし……これでとりあえず十日分の投稿はできるな」
俺は目の下にクマをこさえてパソコンを閉じる。
「いやー、筆って意外と進むもんだな」
あれから三日でプロットを組んで、文章を書き始め、今し方推敲を終えたところだった。
「とりあえずすぐに投稿して……と」
マウスとキーボードを操作しながら重大なことを忘れていたことを思い出す。
「あーあらすじとかも書かなきゃいけないんだよな」
この三日間、俺は色々と大変だったがとても充実していた。
まだまだ文章は拙いが、今俺ができることを全力でやりきったのだ。
まだ小説は見ていないが、光が言った小説のキャラの台詞が、少しだけ理解できた気がした。
「あー色々と反響があると良いけどなー……」
そんなことを考えながら俺は投稿ボタンを押した。
「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……!」
「どうした、同志よ? どうしようもない強敵にぶち当たったような顔して?」
俺はのっそりと顔を上げる。
「き、聞いてくれ……! 全然評価ポイントが上がらないんだ……」
あれから五日たったが、俺の小説を評価してくれたのは、光のお情けポイントだけ……それがまた逆にみじめに感じてしまう。
「まあ、最初辺りはそんなモノだ。気にするな」
「そうなのか……?」
「ああ、やはり小説というものは、ある程度話が進まなければ評価しづらいモノだからな。まあ序盤で切られることも多いから、最初が面白くないと結局は見てもらえんが……」
「でも、光も同じ時期に新作を投稿したのに、もう大分差がついているんだが……?」
「私と終咲、一年以上も投稿期間に差があるのだぞ? それで評価に差がなければ私の方がへこんでしまう」
まあそりゃそうか……。
「まあ、私の同志たちの反応は中々悪くないぞ」
「同志って……俺以外の同志なんているのか?」
「もちろんいるとも!」
光がチラリと視線を動かす。
その視線を辿ると――
「確か……相田さんだったか?」
光は一瞬だけであったが、確かに彼女を見ていた。
『ポニーテールがトレードマークの明るい女子』というイメージの彼女は、密かに俺の作品ヒロインのモデルになっていたりする。
本当は名前も知っているが、興味ないように装っておこう。
バレると恥ずいし。
「いや、別に彼女は関係ない。ただ同志のヒロイン像とぴったり一致する相田嬢のことを見ていただけだが?」
「ちょ、おま!」
大声でそういうこと言うなよ!
っていうかバレてたし!
「なになに? 私の話?」
噂をすればなんとやら……相田さんがこちらにやってきた。
「い、いや、何でもないんだよ」
「ああ、私達は理想のヒロイン像を互いに語っていただけだ」
「そ、そうなんだ……」
相田さんがチラリとこちらを見る。
何故だか少し気まずそうな表情を向けてくる。
多分、相田さんはアニメとかラノベとかを偏見で見る人種ってことだろう。
まあ、俺も少し前までは同じだったけどな。
もう俺は悪魔との契約で、今の道から後戻りはできないんだ。
したいとも思わないが。
「相田嬢? どうした顔が赤いが?」
「べ、別に赤くないよ!」
「そうか、ならいいが、私はてっきり……」
「ああ! そうそう、私用事があるんだった。それじゃあまたね!」
相田さんは俺達から逃げるように去っていった。
そこまで俺達に近付きたくなかったのか?
「お前たち……まだまだ若いな」
「同い年だろ、俺達」
変なことを言いだした光にとりあえずツッコミをいれておいた。
「光! やった、やったぞ!」
「どうした終咲よ? 罪を犯したなら警察に自首することをおススメするが……」
「いや、聞いてくれよ! 昨日の今日であれだが、初めてお前以外から感想が書かれてたんだよ!」
「……私のボケを無視とは……『意外と冷たいんだな、お前?』」
「悪い悪い、だから竜女の七巻のその台詞は使わないでくれ。続きが読みたくなる、まだ出版してないのに……」
「そうか、ときに同志終咲? その感想を書いた者の名は?」
お前、そんなの嬉し過ぎて覚えちまったよ。
「「“歩く植物さん”」か?」
え? 何でお前その名を知って……?
「昨日言っただろう? 同志がいると……。反応が悪くなかったから感想を書くように頼んでおいたのだ」
「な、なんだ……そうだったのか……」
ちょっと残念だな……。
「でも、それでもやっぱ嬉しいモンだな。感想を貰えるってのは……」
「ああ、一度軌道に乗ると、もうやみつきだ。その内に、速く書いて投稿したくてウズウズしてくるぞ」
なるほど、この気持ち……これが原動力か……!
「でも、その感想のほとんどが、ヒロインのプラナへの賛辞だったのはちょっと引いたな」
「そ、そうか。それは私も後で見てみることにしよう……!」
光は何故か笑いをこらえて震えている。
そんなにヒロイン持ち上げの話が面白かったか?
「聞いてくれよ、光!」
俺は珍しく少しだけ憤慨していた。
「どうした? また俺に面白いネタでも提供しに来てくれたのか?」
「どういう意味だよ?」
「気にするな、それでどうしたのだ?」
「それがさ、お前の同志の歩く植物さんが、酷いことを感想に書いたんだよ」
「そ、そうか……それは困ったものだな」
光はそう言って、チラリとどこかを見た。
その先にはまた相田さんがいる。
しかし、今日は少し元気がないように見える。
「それで『歩く植物さん』がどうしたんだ?」
「いや、それがさ。ヒロインのプラナが最新話で、主人公以外の男に色目を使うっていうことをやったんだけどさ……。『プラナはこんなことしない! プラナは一途なんです! 作者は間違ってます!』って書いてきてさ……」
「な、なるほど……それは確かに困ったものだな……!」
「だろ?! 俺も貴重な感想だから尊重したいとは思うよ? だけどこれは先の展開の為にも必要なことなんだ。俺だってプラナは一途だと思ってる。だけどさ、これは『目的の為なら体を張る』っていうプラナの強さが現れた良いシーンになるはずなんだよ」
「……だ、そうだぞ。『歩く植物さん』?」
光の視線は俺ではなく、俺の後ろに向けられている。
俺は彼の視線を辿り、後ろを振り返る。
「ごめんなさい!」
そこには俺に向かって頭を下げる相田さんがいた。
「え、あ、え? ど、どういうこと?」
「察しの悪い奴だな。分からないか? 相田進芽……彼女が『歩く植物さん』の正体だ」
「あ、え、あ? ええええええぇぇぇ!」
思わず叫び声をあげてしまう。
クラス中の視線が俺に集まった。
しかし、俺の頭はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに働かない。
だ、だって、相田さんは相田さんで……でも『動く植物さん』で……。
「と、とりあえず頭をあげてくれるか?」
相田さんはゆっくりと頭をあげる。
しかし、顔は俯いたままで表情は見えない。
「その、どうして謝られたのかが、さっぱり分からないんだけど……」
「終咲よ、お前感想に対して怒っていたんじゃないのか?」
「あ、ああ、そのことか……。まあ、怒っていたけど謝られるほどってわけじゃないしな……」
俺はどちらかというと、光からアドバイスをもらえればいいと思って、相談したようなものだ。
実際に話を変更する気はなかったが、どういう風に感想の要望に応えれば良いかが判断できなかったのだ。
「そんなことないよ……!」
俺の言葉に反応したのは、光ではなく俯いた顔をあげた相田さんだった。
「私は、同じ『小説を描く者』として、やってはいけないことをしたんだよ?」
「やってはいけないこと?」
どういう意味だ?
っていうか、相田さんも小説書いてたのか……って『歩く植物さん』なんだから当たり前か……。
『歩く植物さん』はかなり人気の作家だからな。
現実世界の恋愛モノばっかり書いてたから全く見てなかったけど。
「うん……作品において、作者というのは絶対的な存在。作者は想像神であり、その中に生きる万物は、全て作者の思い通りでなければならないの。だから、プラナがあんなことをしたのも、作者が考えたのならそれは当然のことなの……。それに作品には流れがある。そんな当たり前のことを失念していたよ……」
相田さんは本当に申し訳なさそうに語る。
彼女はそれ程までに小説に対して本気で向き合ってるってことだよな……。
「いや、やっぱりいいんだ」
「でも……」
「相田さんは、それだけ俺の作品に感情移入してくれたってことだよな? 作者としてこれほど嬉しいことはないよ」
読み手の感想というのは、やはり財産なのだ。
俺も彼女の感想で、ヒロインにああいう扱いをすると不快に感じる人がいるのだなと、再認識させられた。
「え、あ、そうだね……私は気付かない内に、柿崎君の世界に引き込まれていたんだね……」
相田さんは楽しそうに微笑む。
「誤字は多いし、文法おかしいし、効果音多いし、エクスクラメーション使い過ぎだし、伏線が伏線じゃなくなってるし、勢いで乗り切ろうとするし、チートで全て解決し過ぎだし、他にも色々と欠点ばかり……」
「やめてくれ、もうやめてくれ……」
それ以上言うと俺の心が壊れるぞ……部屋の片隅で三角座りするぞ……!
「だけど、題材がすごく面白いし、キャラクターも魅力的だよ。これからも楽しみな作品だよね」
「だよな! そうだよな! 相田さんは目の付けどころが違うな!」
さっきまでのダメだしは、俺の心の片隅に追いやることにした。
俺は聞きたいことしか聞かねぇ!
まあ、指摘はこれから直していけばいいだけだからな……。
「そうか、相田嬢に認められたか……。やはり終咲は同志に相応しかった……! 私の目に狂いはなかったということだ!」
「うん……部長たちにはもう話を通してあるから、今日から私達は同志だね!」
厨二ポーズの光と、嬉しそうに微笑みかけてくる相田さん……。
「あのな、話が見えないんだが……」
「まだ言ってなかったが……お前は認められたんだよ。『文章を書き、様々な角度から考察し合い、自身のモノとし、それを元に新たな文章を書き連ねる部』通称『物書き部』の入部をな」
「物書き部……?」
聞いたことがない。
「この部はな、本気で小説家を目指す人間にしか入れないんだ。学校にも噂ぐらいは流れているが、その実在を知る者は少ない……」
「でも、それなら新入部員なんてこないじゃないか」
「それは大丈夫だ。入部条件に、部員二名からの推薦という狭き門はあるが、それさえクリアすれば後は簡単なモノだ」
「つまり部員二名っていうのが……?」
「そうだ、私と相田嬢ということだな。言っただろう? 同志の反応は悪くないと」
そうか……光の同志っていうのは、物書き部の人間だったってことか……。
「でも、俺は別に入りたいとは言ってないんだが?」
正直寝耳に水な話だ。
確かに俺は文章を書くことに魅力を感じている。
でも、そんなこといきなり言われても――
「いや、同志終咲。お前は断れない……! 俺はそう確信しているが?」
「どうしてだよ……?」
「お前はさっきの相田嬢の言葉を聞いたのだからな。『読者の楽しみという声……『その言葉を聞いたら、お前はもう逃げられない……! 知っているか? 読者の声からは逃げられないんだってことを……!』」
ここでその台詞を使うか……!
「『ならば俺は戦おう! もう策略など必要ない! 俺はお前に立ち向かう……! 例え、絶対に敵わないとしてもだ!』」
竜女第七巻のラストで勇者と竜女王が行った掛け合い……。
だから第七巻の台詞は使うなと言ったのに……!
「それでこそ同志! それでこそ終咲だ! お前の席の後ろになって本当によかったぞ!」
「ああ、俺もそう思うぜ……! 相田さんもこれからよろしくな?」
「柿崎君、大事なことを忘れてるよ?」
「何かあったか?」
身に覚えがないんだが……?
「同志っていうのは、名前で呼び合うものなんだよ? 終咲君?」
「え……? でも光は相田さんのことを相田嬢って……」
「ふ、鈍い男だな……。相田嬢はお前のことを名前で呼びたく思い、また名前で呼んでもらいたいと思っているってことだ」
「そ、そうだね。その、私、終咲君の作品のファン第一号だからね!」
「ふぁ、ファン!」
何て心地いい響きだ……。
「そ、そうか……! それなら仕方ないな! いやーファンだなんて参っちまうなー!」
あまりの嬉しさに今なら空も飛べる気がする。
「相田嬢……終咲は落差が激しいタイプだ。いやなことがあったときは激しく落ち込むが、嬉しいことが起こると途端に調子づく。これからの為にも覚えていた方が良いぞ」
「そ、そうみたいだね……」
二人のあきれ顔に気付くことなく、俺はただひたすらに喜びに震えるのだった。
この後、入部の為の試験や、それをパスした後の懇親会とか、色々あった。
しかし、それはまた別の機会に語ることにしよう。
今の俺は希望に満ち溢れていた。
例え小説家になれなくても良い……俺は自分の世界を皆に伝えたい。
ただそれだけが俺の筆を進ませるのだ。
俺はこうして小説家を志すようになったのだ――
先生……! 続きが描きたいです……!
反応良ければ連載しますね。
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