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タバコ吸いの私

作者: 藤野 楸

前回投稿した『煙草の匂いが残る部屋』の加筆、修正版です。

よろしくお願いします。

賑やかな店の中。隣の青年が絶え間なく話しかけてくる。

「りっちゃんは彼氏とか居ないの?」

「、、いませんよー」

いつのまにか【りっちゃん】呼びになっていることに若干の嫌悪感を持ちつつ、隣に座る柑橘系の香水の匂いを漂わせた青年に返答した。


無論、嫌悪感は悟られないように。


飲み会が終わり二次会には参加せず、早々にサークル仲間達と別れた。


昼間とは違う夜の静かな公園を通り過ぎ、自宅へと向かう。


「ただいま、、、。」

静まり返った部屋に自分の声が響いた。髪をほどき部屋着に着替えてソファに横たわると、疲れが一気に押し寄せてきた。

飲み会の雰囲気は相変わらず慣れない。


窓を開け、机に置いてあった煙草を一本取り、火を着ける。

煙はゆらゆらと天井へと昇り、消えていく。


(半年前はあんなにむせてたのに)


† † †


今日、3年間付き合っていた恋人が家を出ていった。

切っ掛けは小さなケンカから。

思い返せば本当に些細なものだった。


彼は自分の物を殆んど持って帰ってしまったけれど、彼と二人で撮った写真や、彼がよく飲んでいたコーヒー、彼の好きな銘柄の煙草はそのまま置いてある。


私は気晴らしに彼が置いていった煙草を取り、一本吸ってみた。

「、、、っ!!」

焦げのような苦い味が口いっぱいに広がってから煙が肺に届く前に咳き込み目の前が一瞬真っ白になった。

当たり前だ。いままでずっと吸っているのを見ていただけで、自分で吸ったことは一度もないのだから。


ふと、自分が涙を流していることに気が付いた。

涙はどんどん溢れてきて、むせて泣いているのか淋しさで泣いているのか自分でもわからなかった。


いまさら後悔したって何の意味も無いのに、煙草の匂いが彼との思い出を次々と甦らせて涙が止まらない。

私はその日、ひたすら泣き続けた。


† † †


あれから私は、立派な喫煙者になっていた。

自棄で吸っていた煙草は常習化して、今では毎日1日の終わりに一本吸うのが習慣になってしまっている。

(いまだにこの味は慣れないけど、、、)


マッチ売りの少女もといタバコ吸いの私は火の灯りではなく揺れる煙を見つめながら、もう戻れない想い出に縋りついている。


† † †


雨の日はよく、二人で家の中で過ごした。

彼はギターでお気に入りの曲を弾きながら。私は読みかけだった小説を読み、雨の音をBGMに過ごす。


「ちょっと休憩っと」

そう言って煙草を取って吸い始めた彼に、私は決まって「おいしい?」と聞く。

彼もまた決まって「まずいよ」と返す。

そんな、一見どうでもいいようなやり取りが、私はたまらなく好きだった。


† † †


気づけば煙草はもう、吸えないほどに短くなっていた。

灰皿に押し付け火を消す。煙は途絶え跡形もなく空中に霧散していった。

あっけなく消えた煙に少しばかりの寂しさを感じながら、ソファに寝転がる。

窓からは心地いい風が入り、優しく肌を撫でた。


私はまた明日も、彼のいない日常を繰り返すのだろう。

そんなことを思いながら意識がだんだんと手放されていく。


煙草の匂いは、まだ消えない。


この話での書きたい後書きは前回すべて書ききったので、ここでは短めに。


まずは、お読み頂きありがとうございます。

好きだった人を『過去の人』と割り切れるようになる期間は人それぞれです。

彼女の場合は、もう少し時間がかかるかもしれません。

それでも彼女が進む限り、前を向ける時が必ず来ると信じています。

僕も、前を向けるように進み続けます。

いつまでも、どこまでも。


それではまた次回の後書きでお会いしましょう。



『進め』

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