再会
-2030年1月8日-《五字葵》
ゆらゆら揺れる電車の中。昨日より電車の中の人数は少なく、私は無事に席に座ることが出来ていた。
なんで昨日はあんなに人が多かったんだろ。
私の家の最寄り駅から学校のある駅まで5駅。車両は昨日と同じだけど、あのイケメンサラリーマン、千日さんがどの駅から乗ってくるのか知らない。
そわそわしている間に次の駅に電車は止まった。乗ってくる客をじっと見つめてみる。
隣の男子校の男子学生3人。その男子学生をちょっと意識しているうちの学校の生徒が2人。その他おじさんサラリーマン多数。あの人は…いない、みたい。
次の駅かな。次の駅まで単語帳開いても頭に入んないなぁ。
「おはようございます。」
「え?」
さっきまでほんの少し空いていた私の目の前から急に誰かが私に声をかけてきた。顔を上げると、そこにいたのは千日さんだった。
「あっ!昨日の、おはようございます。」
「おはようございます。五字葵ちゃんだっけ?あれから大丈夫?」
名前覚えてくれてる!そして痴漢された私への心の気遣い!満点!満点過ぎます!
「はい。名前、覚えてくれてたんですね。嬉しいです。千日さん?であってますよね?」
「いやいや当然だよ。あってるよ。」
そう言ってニコッと微笑む千日さん。
キューーン!!!これはもう落ちました。いや、落ち着け私。この程度で人を好きになってしまっていたら、私は将来とんでもない浮気者だ。
「葵ちゃんは今何年生なの?」
「こ、高2です。」
「ってことは17歳!?若いね〜(笑)」
「そうですかね(笑)千日さんはおいくつなんですか?」
「23だよ。まだまだ学生気分なんだけど、葵ちゃんからしたらもうおじさんかな?(笑)」
「そんなことないです!全然お若いですよ!!」
「そう?まぁ、見た目はむしろ高校生に間違われることが多いしねぇ〜。」
確かに千日さんは大人の雰囲気は少ない。どちらかと言うと、本当に学生のような雰囲気をまとっている。
「いいじゃないですか。私なんか制服着てるといいですけど、私服だと高校生に見られたことないですからね…」
自分で言って凹むが、事実である。この前の休日だって駅前で美萌沙を待っていたら、二十代後半か三十代前半のちょいイケおじさんに声をかけられた。軽く話を聞いているとどうやらおじさんは私を25ぐらいだと思っていたらしい。本当の年齢を言うと『それなら十分コンビニでお酒買えるよ。』と言ってそそくさとどこかへ行ったが。
「確かに葵ちゃん大人っぽい雰囲気してるもんね。羨ましいよ。」
「年取って見られるの羨ましいですか?私は若くみられたいです…」
「俺はそうかなー。」
「…無いものねだりですね。」
「そうだね。」
そう言って笑う千日さんの目の色は眼鏡の縁でよく見えない。なにか年齢について深い悩みでもあるのかな?
「あ、次俺降りなきゃだわ。」
「えっ、もうですか!実は私も同じ駅で降りるんです。」
「そうなんだ!そういえば葵ちゃん花園学校の制服着てるもんね。」
花園学校とはうちの学校の名前だ。この辺では女子校は花園ぐらいしかないし、制服が可愛いから特徴的だ。
「あれ?でも昨日次で降りてなかったよね?」
ギクッ!!!
「いや、ちょっと人波に押されて降り損ねたっていうか…」
「そうなんだ!(笑)確かに昨日は人が多かったもんね。」
「そうなんですよ、あははは….」
あなたに見とれて降り損ねました、なんて到底言えるわけもない。
てゆうか!もうすぐ駅に着いちゃう。人の多いホームでは渡しずらいだろうし、今渡さなきゃ。
チラリと自分が手に持っている紙袋の中を見る。クッキーの缶と、小さなメッセージカード。恥ずかしいが、美萌沙の言うとうりメアドを書いてみたのだ。
後は勇気をだすだけ、頑張れ私…!
「…えっと、その、それで……」
「ん?どしたの?」
「あの、これ駅の地下で売ってるクッキーなんですけど、昨日のお礼に受け取ってください!」
「わざわざそんな!いいの?貰っちゃって?」
「どうぞどうぞ!!本当につまらないものなんですけど…」
「いやいや、そんな事ないよ!俺ここのクッキーすっごい好きで俺が学生の頃から買ってるんだもん!!」
「そうなんですか!?」
「懐かしーなあ。まだ潰れてなかったんだ。最近は仕事が忙しくて買いに行けてなかったから、ホントに嬉しいよ。ありがとう。」
…顔近い。そんなに嬉しそうな顔近づけられたら…
「あ、着いたね。降りよっか。」
「は、はい!」
千日さんの笑顔がむけられる度にドキドキさて葵の言ったことを思い出した。
『私、この人の事好きかも。』
単純で、なんにも知らないくせに恋心は敏感だ。