狂気の少女の仲間入り
ほのぼの日常回。的な
・・・まあ若干二名がほのぼのしていません
「・・・ねぇ、いつまでこうしてるの?」
「・・・」
「・・・いい加減にしてよ」
「・・・」
「・・・下ろしてよ!?」
「嫌ですね」
「んな、殺生な・・・」
デルア君が私たちに残してくれたモノをラルーから受け取ったあと、
私たちは協力してなんとかラルーを拘束。
二階から一階にラルーを宙吊りに出来ました。
デルア君はどちらにせよ消滅する運命だったとはいえ
ラルーはデルア君をそれより先に殺害した事に変わりはありません。
私、案外こういう事に関しては・・・厳しいんですよ・・・?
「で、コイツどうする?」
「・・・分からない・・・」
「・・・とりあえず、殴るか」
「ソノカ、決断が早いよ」
既にラルーの頭を鷲掴みにしているソノカを必死に止める。
ソノカが全力で殴ったら、さすがにシャレにならない・・・!
「・・・ねぇねぇ!
ららみさん、もしソノカが本気で私を殴ったら
私は一体どうなるの? 気になるー!」
「・・・頭が割れますよ・・・?」
「・・・吹き飛ぶんじゃなくて、割れるの・・・?」
「・・・はい、そうです」
「・・・地味に痛いの、嫌だなぁ・・・」
「かなりエグいので私も嫌ですよ・・・」
「え、見た事あるの?」
「もう、数えきれません・・・」
「・・・ソノカ、本当は私と気が合うんじゃないのー?」
とんとん拍子で会話が進んだ末
ラルーは問題発言をした。
・・・完全に墓穴を掘りましたね・・・
「・・・ほう・・・気が合うんだな・・・?
じゃ、こっちに来な同士」
「・・・!?
え、ちょ・・・待って待って!
・・・な、何をするーッ!?」
ソノカはラルーを宙吊りにしていた縄を強引に斬ると
重力に従ってラルーは地面に落ちる。
十分、痛そうな音と共にラルーは地面にうずくまっていたが
それでもソノカはラルーを肩に担ぐと
玄関ホールの奥の部屋へと消えた・・・。
「・・・アイキキ、止めるべきだったのかな・・・?」
「止める必要はございません
完全にラルー様の自業自得です」
「・・・そうだね
私には多分、ラルーに釣り合いの取れた制裁を
加える事が出来ないだろうし・・・・
この際、ソノカに任せたほうが良いんだろうね?」
「はい、仰る通りにございます」
アイキキは静かに私に相槌を打ちつつ
ラルーを縛っていた縄を片付け始めていた。
・・・アイキキはアンドロイド・・・
これは、私達の間では公然の秘密で・・・。
アイキキがどんなに感情的な言葉遣いをしたところで、
それはあくまでも演劇の真似事でしかなくて・・・。
美しい容姿で、どこからどう見ても人間そのもの。
何も知らない人ならアイキキを人間じゃないと疑う余地さえ与えないほどだ。
それを、ラルーは一目で見抜き
アイキキの弱点も簡単に特定してみせた。
そのラルーは人間かどうか、まだよく分からないけれど
この世界の存在ではない事を本人が認めた。
ラルーとは一体、何者なのか?
・・・論理的に思考するアイキキなら、ラルーをどう推測するのだろうか?
私はふと、そんな疑問に突き動かされて
アイキキの肩を叩いた。
「はい、なんでしょうか?」
「あの・・・ラルーは何者だと思う?」
「・・・確信出来る証拠がございませんが・・・」
「推測だけなら、ラルーが何者か分かる?」
「・・・恐らくですが・・・」
アイキキは神妙な表情を浮かべ
ゆっくりとその口を開いた。
そのただならぬアイキキの様子に
私は何故か緊張して生唾を飲む。
そして遂に、それは言葉になった。
「・・・ラルー様は恐らく、“世界の放浪者”だと思われます」
「・・・へ? 放浪者?」
「はい」
アイキキはキリッとした様子で
そう、確信的に言い放った。
・・・論理的な思考を持つ、アンドロイド・・・だよね?
「え、えーと・・・
なんでラルーを放浪者だと思うのかな・・・?」
一応、もしかしたら
ちゃんとした確率論で言っているのかも知れないので
“ラルー=放浪者?説”の根拠を聞いた。
「ラルー様はワタクシ達も考え付かなった
“宇宙”なる“世界の外”の存在を確信して語りました
そしてその存在の有無は“遊戯の魔法”によって証明されてしまいました
到底、信じられる事ではありませんが
ラルー様が語った“宇宙”の情景や、その物理的な法則は
非常に理にかなっているのでございます
なので、十分“宇宙”の存在は仮説としては有力です
故に、その高い知識は確かですし
遥かにワタクシ達よりラルー様は高い技術すらも有しているのは確か
しかし、世界を行き来する技術など、どうして必要でしょうか?
それを持って実際にこの世界に姿を現したラルー様
考えられるとすれば、自分の世界から逃れようとしているとしか・・・
よって・・・ラルー様が“世界を彷徨う放浪者”だというのなら
納得出来てしまうワケでございます」
・・・うん、思い知りました。
ラルーはもはやそんな突飛な可能性すら有り得てしまうほど
私たちのこの世界にとってはイレギュラーなのです。
もし、ラルーがその“あらゆる世界”を彷徨う旅人ならば全てが万事解決。
というワケですよね・・・?
「・・・宇宙・・・かぁ・・・
どんな世界なんだろうね・・・?
星空の世界、って簡潔に説明してもらったけれど・・・
私たちが普段から見ている星空とは明らかに違うものなんだろうし・・・
・・・凄く・・・見てみたい・・・!」
今日は色々な事が分かって混乱しそうになるけれど・・・。
それでも考えずにはいられなかった。
・・・宇宙。
全くの、私たちには未知の世界。
そんな世界に対する好奇心が、どうしても抑えられなかった。
「ららみ様の知恵と技術なら不可能ではないのでは?
宇宙空間に留まる事は難しくとも、見るだけなら方法は何通りか
考えられるでしょう」
「そう・・・かな・・・?
私に、出来るかな・・・?」
「ららみ様はワタクシの主でございます
主が望む事なら、ワタクシは協力を惜しみません」
アイキキはしゃがみ込んだまま、
私を下から見上げ
優しく嬉しい言葉を伝えてくれた。
・・・アイキキはアンドロイド。
でも、アイキキは私の大切な仲間でもある。
だから・・・
「ありがとう・・・!
でも、無茶はしないでね・・・?
アイキキは自分がアンドロイドだからって無茶な事をする癖があるから・・・」
「ありがたき言葉です
以後、気を付けるよう心掛けます」
私はそう、アイキキに釘を刺した。
これまでも危険な場面で私を守るために
囮を買って出たり・・・
自分が壊れてしまう危険性も顧みず私をかばってくれたり・・・。
無謀な事を繰り返してきた。
私は、アイキキを失いたくはない・・・。
そんな行動はして欲しくはない・・・。
だって・・・私は人間だから、怪我をしても自然に治る。
でも、それに対してアイキキは未来のアンドロイド。
一度でも完全に故障でもしてみたら・・・私に修理出来るか分からない。
「ららみちゃん・・・」
「!?
ら、ラルー・・・!?」
いつの間にか背後に立っていた
白髪赤眼の女、ラルーはどういうワケか真っ赤だった。
真っ赤な液体を頭から被ったようですが・・・。
・・・まさか・・・血・・・?
「血なワケないじゃん・・・
匂いで分かるでしょう・・・?」
「あ、そうですか」
となると・・・この赤い液体は一体・・・?
私はそう思い、ラルーが被った液体を見てみた。
・・・ヌメリとしていて、肌に絡みつくような液体
しかも、甘酸っぱい良い香りがする・・・?
「・・・それ・・・ジャム、ですよね?」
「ん・・・それっぽいね・・・
でも舐めてみたところ、食べたことの無い新感覚だったのだよー」
「それはこの世界のジャムだからじゃないですか・・・?」
「うん、だから・・・ららみちゃんに判断して欲しい・・・」
「・・・確かに、得体の知れない液体は怖いですもんね・・・」
私はラルーの切実な思いを理解し、
ジャムと思わしき液体を舐める事にしました。
・・・でも、この赤い色合いと匂いから
多分・・・“クリス・メア”の果実のジャムである可能性が高いですけど。
ラルーに手を差し出すように指示をして
私はラルーの手に付着した液体をスプーンですくい
少しだけ口に含んだ。
「・・・やっぱり、これ“クリス・メア”のジャムですよ」
「く、クリス・メア・・・?
何ソレ、美味いのー?」
「とっても美味しんですよ
甘酸っぱくて・・・絶妙な苦味と深い味わいで、
栄養素もバランス良く取れていて・・・」
「・・・ちょっと、私も食してみよ・・・」
私がクリス・メアのジャムについて解説をしていると
ラルーは自分の手の甲を猫のように器用に舐めると
「ん・・・やっぱ、分かんないか・・・」
イマイチそうに、顔をしかめた。
・・・そういえば・・・
なんでラルーは“クリス・メア”のジャムを被っているの・・・?
「あの・・・シャワー・・・浴びてきますか・・・?」
さすがにジャムにまみれているラルーの姿にいたたまれなくなり
私は彼女にシャワーを勧める。
「その必要はねーぞ」
だが、私の言葉を遮るようにソノカが私とラルーの間に割って入って来た。
・・・まぁ、犯人はソノカしかいないけど・・・。
なんとなく分かっていたので、まだ許容範囲ですね。
「ソノカ・・・いくらなんでも、これはちょっと・・・
度が過ぎてるよね・・・?」
「当然の報いの一言で片付く問題だ
で、次の項目に移りたいんだが・・・」
「次の項目って何ッ!?」
「次の項目が気になるのか?
そんなの、煮えたぎる風呂にじっくり時間をかけてだな・・・?
コイツを・・・」
「ラルーをお風呂で煮てどうする気!?」
「え? そんなの、生き地獄を味わせるに決まってんじゃん」
まるで“当たり前じゃないか、ららみ?”とでも言いたげに
ソノカは私を見つめている・・・。
いやいや、鬼の基準としては当たり前なのかもしれないけれど・・・。
え、鬼なら良いの? ダメでしょう!
混乱してきました。
「・・・えと・・・じゃ・・・ラルーをジャムまみれにしたワケは?」
「コイツ、味っ気無さすぎるじゃん?
だから・・・」
「ジャムで味付けしたって事!?
え、お風呂で煮た後、ラルーを食す気!?」
「いや・・・食う以外に選択肢、あるの?」
「あるある!!
あるから止めて、そんなエグい事!!
主として、友人として、仲間として、同居人として
見過ごすワケには行かないよ!?」
「ず、随分、必死に止めるな・・・ららみ」
「止めるよ!? 普通!」
私は必死にソノカを止めた。
・・・当然・・・だよね・・・?
「私基準で言わせてもらうけど・・・」
「ラルーは黙ってろ!!」
「黙らないのが私なんですよねー!
私、肉が無くて皮と骨しかないから、食すのには向いてないよー
前に魔女のおばあちゃんが私の腕のパイを食べたけど、
あんまり美味しくなかったみたいだったし・・・」
「既に食され済みかよ!?」
「悲しき性・・・っていうヤツですかねー?」
「絶対、違うと確信出来るぞ・・・ソレ」
おかしな世界観のソノカと狂った世界観のラルー
両者の唯一の共通点は人間には無慈悲である事のみ。
なんでよりにもよってこの二人が出会ってしまったんだろう・・・?
でも、絶対にこの二人が争うといい事が無いので
この不可思議な勝負、私が決着を着けたいと思います!
「私、もうラルーの事は許したから・・・
ソノカがラルーに何かをするとしたら・・・それはもう、
制裁じゃないよ・・・?」
「!?」
ソノカは驚愕のあまり
口を開いたまま、石のようにピクリとも動かない・・・。
そんなに衝撃的だったの・・・?
私はそんなソノカのリアクションにビックリしつつ
ラルーをお湯で湿らせたタオルで拭く。
ソノカがラルーをお風呂で煮る気だったのなら
今頃、お風呂は煮えたぎっているんでしょうね・・・。
そんなお風呂はしばらく、使えないから仕方がない
「ららみちゃん、慈悲深いねー?
ありがたやー、ありがたやー」
「でも、償いはしてもらいますよ・・・?」
「どんな償いをして欲しいのかな・・・? この私に」
「・・・償いは・・・私の、仲間になってください
しかし私には余程の理由が無い限りは逆らわないでくださいね?」
「・・・ふぁお!?
・・・んー・・・承りましたわ・・・?
我が主殿よ・・・クスッ・・・!」
相変わらず、お調子者のような口調で
つかみどころのない言葉遣いをするラルー
・・・良かったよ・・・!
このままラルーを野放しにするワケには行かなかったから!
「んじゃ、まずは私、どうしたら良いのかねー?
とりあえず、着替えて来ようかー?」
ジャムを拭ききれていないのに、
ラルーはすっかりやる気になっている。
そのラルーを憎たらしいと言わんばかりにソノカが睨んでいる。
・・・何ですか、この戦慄の状況は・・・
「ラルー様、その出で立ちではとても目立ってららみ様の邪魔になるので
真面目な格好に着替えて下さい」
「容赦ない言葉にびっくりしたー!
まぁ、その意見はどこまでも正しいので着替えてきますー」
アイキキとラルーはちょっと話しただけで意見がまとまったもよう。
意見がまとまるの、早すぎる・・・!
ラルーはそのまま私が与えた部屋に入っていく。
・・・そういえば、どういう服に着替えるつもりなのだろうか・・・?
「ららみよぉ・・・
あ~んなヤツを受け入れる器は褒められるモンだが・・・
流石にヤツはマズイだろぉ・・・!?」
「ソノカ・・・怒り過ぎ・・・・」
ソノカはギリギリと歯を噛み締めて
木のテーブルにナイフを乱暴に突き刺しては引き抜き、
また突き刺すを繰り返している。
・・・未だかつてない怒りっぷりです。とても怖いのです。
「ららみ様の賢明なご判断に、ソノカ様は不服なのですか?
まぁ、なんとマヌケ極まりないのでしょうかー
少しは巧みな知略でワタクシ達にたった一人で
渡り合ったラルー様を見習った方が宜しいのでは?」
「おい、ラルーのモノマネか?
てか後半、棒読みになってたし」
「はい、ラルー様のモノマネを致しました
ラルー様の口調で罵倒すればソノカ様も考え直すと思っての事でございます」
「絶対、違うだろ!?
単純に私に嫌がらせをしたいだけだろ!?」
「はい、そうですが何か?」
「開き直んなっ!」
アイキキとソノカは相変わらず、
仲が悪いのか良いのか分からないやり取りをする。
・・・とてもではないが鬼とアンドロイドのこの会話はシュールに感じます。
「ラルー様という絶大な戦力を取り込むなんて、
さすがはららみ様
ワタクシはこんな素晴らしいマスターに従えて誇りに思います」
「・・・え、そこまで・・・!?」
「はい、狂気を孕んでいると言えど
この絶大なる能力保持者を従えるとは、ららみ様の器に感銘を受けました」
「・・・そんなに・・・持ち上げないでくれる・・・?
そこまで言われるとラルーを抑えきる自信が無くなる・・・」
狂気を孕んだ女と呪いの鬼と機械人形。
・・・この屋敷に揃っている仲間達は皆、揃って度肝を抜くメンツです。
その中でただ一人、記憶喪失しているとはいえ普通の人間の私は
どういうワケかこのメンツをまとめるボス的存在のよう。
・・・上手く出来る自信が一切、無い。
皆・・・暴走しないでね・・・?
「確かにー、ららみちゃんの大きな器には私も驚いたよ~!
だって、大抵の人間はマトモに取り合ってくれさえしてくれないんだもの」
「・・・ラルー、更に変な格好になってますけど!?」
不意に背後からラルーの耳に絡むような声が聞こえ
私はびっくりして、振り向いた。
そこに立っていたラルーの姿にまず驚愕した。
深い黒のような紺色のドレスにアイキキが着けているような
長い紺のアームカバーを着けている。
その雰囲気は非常に落ち着いたモノだったが、
格好は古い時代のメイド服なのだから当然。
なんで、そんな服を持っているのか
とても気になるがそれを上回る問題がある。
黄金の糸の刺繍がされた真っ黒な包帯で目を覆うように巻いていて、
とても特徴的な髪型をしている。
一房だけダイヤモンドの石が連なった鎖と一緒に三つ編みにしていて
その三つ編みを巻き込むように頭の両サイドをねじって
首の後ろでおだんごにしている。
とても上品な髪型で、ダイヤが時々キラキラと虹色の輝きを見せる。
「ラルー・・・?
ちゃんと・・・前が見えるの・・・?」
「ちゃんと前が見えるから、目を隠しているのよ?」
「目を隠す理由が分からない・・・」
「顔をあまり見られたくない事と、
どの世界でもどういうわけか“紅い瞳”に意味があったりするから」
「なるほど・・・分かりました・・・」
・・・アイキキの“ラルー=世界の放浪者説”が濃厚になりました。
まぁ、ラルーのこの見た目もとても神秘的で綺麗だから嫌いではない。
別にいいかな・・・?
「じゃあ・・・改めて本当の自己紹介をしましょう」
「へ?」
「嘘の自己紹介なら済ませましたが、
今後はしばらく協力し合わなくてはならないでしょう?
だというのに、信頼関係はヒビが入りまくっている
なら本当の自己紹介が必要ですよね?」
「・・・そうだね、
じゃ、ららみ達も本当の自己紹介をして頂戴な?」
「分かりました」
嘘の自己紹介で生じる可能性のある誤解は今のうちに解くために
本当に自己紹介が必要。
ですよね・・・!?
私はナイフを片手にラルーを威嚇しているソノカに目を向け
まずはソノカが自己紹介をするように促す。
だが、彼女は首を横に振り拒絶。
・・・私は次にアイキキを見る。
すると、アイキキは簡単に頷いた。
・・・なんだろう、この差は
「ワタクシはアイキキと申します
アンドロイドでございます
主に計算と未来推測でららみ様をサポートしており、
戦闘ではフォースフィールドの展開による防御と
レーザー光線での攻撃を行います」
「れ、レーザー光線!? 弾幕的な!?」
「はい、特殊な液体を用いていつでも発射可能です」
「・・・怖ッ」
「確かに、何でも両断する事が可能なので脅威的でしょう」
「・・・」
ラルーはアイキキをジッと見ている。
それでもアイキキは相変わらず堂々と
ラルーを思いっきり見下している。
・・・アイキキはラルーが怖くないのかな?
アイキキを不思議に思いながら
私は一歩前に進み、自己紹介を始める。
「そして私はららみ
色んな魔法を研究していて
攻撃魔法から守護魔法、補助魔法に封印魔法に・・・
まぁ、広く浅くがモットーで戦います」
「魔法の才能はとても高いんじゃないのー?」
「・・・自慢、というワケじゃないですが・・・
世界三大魔女に選ばれています」
「それって凄くない!?
自慢じゃないの、それ」
「ええ、ラルーに勝った実績もありますし」
「ああ、そうだった・・・私はららみに負けたんだった・・・」
「忘れていたんですか!?」
忘れっぽいのだろうか? ラルーは
って・・・いつの間にか私はラルーの言動に振り回されている・・・!
私はため息をついた。
そしていじけているソノカをジッと見た。
「・・・自己紹介、しよっか?」
「ヤダ」
「どうして?」
「こんなヤツ!
信用ならないって最初っから言ってるだろ!?」
「信用するために自己紹介をするんだよ?」
「・・・分かったよ・・・」
結構、簡単にソノカは折れました。
このまま拗ねたままだと、大変ですね・・・。
あとで機嫌を直してあげなきゃ
「私はソノカ
シャブルス村の村長候補者にして“死の呪い”の鬼だ
戦闘では私の愛刀“呪い剣”での致死攻撃が主だ
防御面ではららみやアイキキほどは無いけど
怪我をしても鬼の能力で再生出来るから、
攻撃とかは私に任せて欲しい」
「ん? シャブルス村・・・?
ああ、そういえば生き残りの数は
小さな村を形成するほどはあるんだっけ・・・
てことはー? 鬼の村かい?」
「勝手に自己解決してんじゃんか
その推測通り、シャブルス村は私ら生き残りの鬼で作った
幻の村だよ」
「・・・何それ、格好良い・・・」
「な、なんだよ・・・!
いきなり褒めるな!」
裏のない素直な褒め言葉にソノカは慌てる。
ソノカって純粋な言葉には不器用なんだよね
・・・まぁ、そこが可愛いのだけど。
「これで、裏も表も無くなったー!
今日から私は皆の仲間かー」
「ラルー、気が抜けすぎだよ・・・?」
「気の抜けたセリフに定評がある
“蛇の怪物”とは、私の事だー!」
「何なんですか! わざとなんですか!?
というか、蛇の怪物って!?」
「わお、ららみちゃん
ツッコミが止まらないねぇ」
「ツッコミをさせるラルーが悪いんですよ!?」
ニヤニヤと笑うラルーはさぞかし楽しそうだ。
・・・私、ラルーに弄ばれているよね・・・・?
結局、勝負の時もラルーがわざと負けたワケですし
単純にラルーは私を弄びたいだけなのかもしれない・・・。
「アイキキは人形、ソノカは鬼
ららみは白鳥で私は蛇
クスクス・・・。面白い組み合わせだこと・・・!
さぁ、この4人でこの度の事件を解決出来るでしょうか?」
ふと、ラルーは変な独り言を漏らした。
私はその不可解な言葉の意味を聞こうとした時。
ギルドの扉がドンドンと、乱暴に叩かれた。
それにアイキキが黙って扉を開いた。
そこに立っていたのは“現魔力王国”の軍隊長だった。
「・・・!!
一体、何事ですかっ・・・!?」
私はその大物の登場に戸惑いを隠せなかった。
“現魔力王国”はこの世界を実質、支配している王国で
その王国軍をまとめあげる軍隊長は
最大級のカリスマと巧みな戦術、そして高い戦闘能力が求められる。
つまりは完璧超人でなければ軍隊長にはなれないのだ。
その高すぎる山を乗り越えた軍隊長が、
意味もなくこんな小さなギルドを尋ねる理由は無い。
よって、国規模の大問題が起きたとしか考えられない・・・!
「ギルドマスター、ららみ
そしてその仲間達よ、王がお呼びです
至急、王宮に案内します」
簡潔に軍隊長はそう言い放った。
「・・・事情はイマイチ把握出来ないですが・・・
分かりました、今少しお待ちください」
私は軍隊長にそう伝えると
軍隊長も頷いた。
「皆! 支度をして!」
私はソノカとラルーに振り向いて
そう叫んだ。
これはただ事ではないのだ、全力の準備をしなくては
私の声にソノカはすぐに自室へと飛び込む。
「んー、ソノカは元気だねぇ」
「ラルーは支度をしないの?」
「支度をするも何も、持ち物は全部持っているのだもの」
「・・・」
ラルーは明らかに手ぶらなのだが、
おそらく何か特殊な方法で持ち物を持ち歩いているのだろう。
「よし! 出来たぞ!」
ソノカの威勢の良い言葉を聞き、
私達は軍隊長の案内の下、王宮へと向かったのでした・・・。
・・・明らかにラルーはこうなる事を知っていた。
けれどもあえて私はそれを聞きませんでした。
ラルーの言葉でこの“問題”を聞きたくはなかったのです。
事情は全て、あの王女様から聞いた方が納得出来るからなのでしょう・・・。
しかし、まさかその問題が私に関わっていたとは
その事すらラルーは知っていたのでした。
「・・・あー、ところでー
その耳飾り、良く似合っているねー?」
「!!
・・・そう、ですかっ・・・?」
「何、照れてるのー
可愛いねぇー? ららみちゃん~」
ラルーは私をからかっているだけなのだろう。
でも、その一言は少し私の心を抉るような一言だった。
扉のすぐ横にある窓ガラスに薄らと私の姿が映る。
長い桃色の髪で紅い瞳の私。
その耳にはあの灰色の宝石の耳飾りが光った気がした。
・・・今日も頑張って戦います。
―――デルア君。
ららみさんは良い子。
ソノカもアイキキも良い子。
ただラルーは狂い過ぎて悪い子。