狂気の少女の到来
悲しい哀しい孤独な女神の御話をしましょう・・・。
その女神は一つの世界を創造するだけの力を持ち生まれました。
膨大な力でした、その力を用いて女神は一つの世界を創造し
静かに世界を見守りながら女神は休息を取りました。
美しい女神は自ら創造した世界に住む人々と、とてもよく似た御姿に変わりました。
熱く燃え上がる炎の色、流れい出る水の色、壮大に生きる大地の色、
女神の力により産み落とされた力の色を受けた女神の髪はなんと神々しい事か!
麗しい女神の瞳は静かな青の月と強い赤の太陽の色、
その色は母の月の女神と父の太陽の神から受け継いだ色。
そんな瞳で優しい眼差しと微笑みを浮かべる女神は最高神にふさわしい!
しかし、ある時の事でした
邪悪な神が女神の元に現れると女神の母 月の女神の心臓を抉り出し、
月の女神を救おうとする太陽神の腕を引き千切り、
美しい世界の女神から大切な両親を奪い去ったのです。
女神は怒りに満ち溢れ、その膨大な力で邪悪な神に挑みました。
その荒ぶる力は全てを滅するほど、けれども邪悪な神には及ばず
女神は地に落ちたのでした・・・。
美しい美しい世界の女神は一人、地を彷徨うだけ
後に邪悪な神はどうなったのか誰も知りません
結局、女神は救われず報われなかったのです。
女神の深い悲しみは決して癒える事はありません
何故なら、両親を失ったその日は・・・女神の誕生日だったからです。
女神は誕生日を迎える度に、母の抉り出された心臓と父のもぎ取られた腕を思い出すしかないのでした。
・・・・
下準備は終わった。
私は鍵を宙に放り捨てた。
放り捨てられた鍵は現れた“闇”に飲み込まれて消える。
さて、どうすれば良いのやら・・・。
私はいささか困ってきた。
もう諦めてしまおうか・・・?
否。
そんな馬鹿な考えは忘れてしまおう。
もう、私に“立ち止まる”という選択肢はない。
―――私はなんて、悪い子なのかしら?
きっと、私のしている事を知れば“御主人様”は怒るわ。
それも尋常ではなく、それこそ世界を滅ぼしかねない勢いで。
でも、仕方がないの。
私しかいないのだから。
英雄にも悪者にも、なるつもりはないわ?
それだけマシだと思って頂戴・・・?
「今度こそ、私の“青い薔薇”
貴女を救い出して見せるわ、待っていて・・・
いざ、出陣よ」
・・・・
「・・・誰も来ないね」
「・・・誰も来ないな」
「・・・人一人いないですね」
私はたった二人だけ残った仲間に問いかける。
私はららみ
この冒険者ギルドの設立者です。
しかし・・・私達のギルドは早速・・・
存続の危機を迎えています・・・!
何故なら、ギルドメンバーが私を含めても
4人しかいないのです・・・!
ギルドとは個人から町や国の依頼を受け、所属者がそれを解決するもの。
だから私は当初、4人の少数ギルドでも依頼さえ来れば
生きていけると思いました。
しかし、私は甘かった。
全くの無名ギルドに依頼をする人なんていない!
私はそれはマズイと思い、今度は4人全員でドラゴン討伐をしました。
結果、成功。
けれど、今度は有名になりすぎて依頼がいっぱい・・・!
これではまるで需要と供給が取れていないのです・・・!
なので急遽ギルドメンバー募集の張り紙をしました。
今はその志願者を待っている所ですが・・・。
誰も来ない・・・!
「それもそうだよな・・・
ギルドに所属するからには
魔法が使えるか余程、強くなけりゃならないからな」
「え・・・?
ソノカ、魔法なら誰でも出来るんじゃ・・・?」
「・・・そんな事はないぞ・・・? ららみ」
「!? え、どういう事!?」
仲間の一人、ソノカに私はどう言う事か聞く。
真っ黒な瞳だが全てを見通す様な深みを帯びる瞳
肩ほどの長さで内側に丸くカーブを打つ艶やかな絹のような黒髪、
その髪の上にチョコンと黒薔薇の髪飾りが飾られている。
黒いノースリーブから覗くのは華奢な白い腕、
紺のブーツカットのジーンズ、
漆黒色に染まるマントは少女のふくらはぎ位の長さ。
鎖骨の上辺りに黒いゴルフボール程のサイズの石が、
ノースリーブに付いており少し光った気がした。
ソノカは可愛らしい見た目とは裏腹に豪快で男口調で話す。
でも、とても優しくて、いつも私を心配してくれる優しい女の子です。
「魔法を操る力を持つ人間は限られているのです
ららみ様」
「えええぇ・・・!!? そうなの!?
それは先に言って・・・!」
「申し訳ありませんでした
この程度の常識なら知っていると思っていました」
「!!」
私に答えてくれたのはもう一人の仲間 アイキキ。
身長が高くスラリとしたとても綺麗な麗人。
青のロングブーツを履いていて
鎧のような青い服はスカート部分が脚を境目に左右に分かれている。
上胴体部分はきっちりピッタリと彼女の上胴体に合わせてあり、
綺麗なくびれのラインと彼女のふくよかな胸を強調している。
肩を覆う形で肩に楕円形の袖が付いている。
袖から覗く腕には、日除けの目的なのか
青色の長いアームカバーを付けている。
整った顔立ちの彼女の瞳は空のような綺麗な青い瞳。
長い水色の髪は青い水晶を髪留めに、後ろに束ねている。
そして、鎖骨の上辺り
青いゴルフボール程のサイズの石がソノカ同様に服に取り付けられている。
何故か必ず他人を様付けに呼び、礼儀正しく敬語で話し
どんな時でも無表情を貫く、計算が凄く得意な優しい人です。
「私・・・世間知らず・・・?」
「ああ、めっちゃ世間知らずだ」
「私・・・魔法が使えるから異常・・・?」
「そんな事は御座いません
誇れる能力でございます」
ソノカとアイキキが順番に答えてくれる。
本当に二人共、優しい・・・のかな・・・?
「あの、いい・・・かしら?」
「!? ひ、人が来た!!」
突然、聞きなれない声が聞こえ私は咄嗟に叫ぶ。
「ららみ! 落ち着け、来て当然だろ!!
だってギルドメンバー募集の張り紙をしたんだから!」
「そうだった!!」
ソノカが冷静に私をなだめる。
私に話しかけた人はポカンとしている。
「あ、し、失礼しました!
どうぞ、そちらの席に・・・えと・・・」
「御着席ください」
私が言葉を詰まらせるとアイキキがフォローを入れてくれる。
女の人は席についた。
私は向かいの席につき、女の人を見た。
真っ黒なボロボロなマントに身を包み、
フードを深く被っていて顔が見えない。
それでも整った真っ白な顔は見えた。
フードの下の顔に好奇心が掻き立てられる。
黒いお洒落なドレスを着て細い足には不似合いな大きなブーツを履いている。
とても不思議な雰囲気の人・・・。
「えーと・・・
ギルドメンバーを募集しているギルドって・・・ここでいいのかしら?」
「あ、はい!
ここでいいです!
これからちょっとした面接をしますが、いいですか?」
「えぇ、いいわ」
上品な言葉遣いで受け答えする女の人
対して、私は変な敬語。
そもそも見ず知らずの人と会話するのは得意じゃない・・・。
「私はラルーという名前で
職業は・・・無職ね
戦闘に関してはそんじょそこらの人間よりは強いはずだわ
魔法も使えるし」
「初めまして、私はららみと言います!
このギルドの創設者です
私も魔法が使えるんですお揃いですね・・・!」
「ええ、奇遇ね」
おしとやかに微笑む女性・・・ラルーさんは
さりげなくテーブルのホコリを払った。
あ、掃除を忘れていた・・・! なんて失態・・・!
「ふーん・・・
魔法が使えるのか、じゃ聞くが
お前がいた学園はどこだ?」
ソノカは冷たく言い放った。
「ソノカ・・・!
これから仲間になる人にその態度はダメだよ・・・!」
私はソノカの耳元に最低のボリュームで言う
「これから仲間になるなんてまだ決まっちゃいないだろ?
あのな! そこのラルーとやらよ!
この仕事は命懸けなんだ、チームワークってのが大切な訳だ
だから、お前みたいなワケのわからんヤツをホイホイ簡単に
仲間に迎える訳には行かないんだ!
少しは素性を明かしたらどうなんだ!?」
ソノカは立ち上がり、ラルーさんに挑発する。
きゃあああああああ 何をしてんの、ソノカあああぁぁ!?
「ソノカ! 止めなさい・・・!」
私は急いでソノカを押さえ込む。
何故かソノカは私以外の人に対しては必要以上に警戒して、
挑発して常に喧嘩腰・・・。
なんでだろう・・・?
「別にいいわ、ららみさん?
私は学園には行っていないの、
両親と離れ離れになると思って逃げてたから・・・
でも、一年前、私と両親の住む家が火事になって、
両親は死んだわ、そして私の顔も・・・」
ラルーさんは淡々と過去を話すと、
深く被ったフードを少しだけ持ち上げる。
「!!?」
私は驚愕した。
ラルーさんは・・・・。
頬から上がひどいヤケドを負っていた・・・。
絶妙に目は見えないが、凄惨な火事を物語らせるには十分だった。
「ご、ごめんなさい・・・!」
「だから別にいいわ、気に病まないで頂戴?
私は皆さんを驚かせたくないからこういう格好をしてきたけど、
逆効果だったみたいね・・・」
そう言ってラルーさんは持ち上げたフードを下ろす。
「嫌なことを思い出させてごめんなさい・・・!」
私は立ち上がり頭を下げた。
だって、ラルーさんは可哀想な人だ・・・。
「・・・なんで火事で大ヤケドを負った人間が
こんな少数ギルドに入る?
尚更、お前、胡散臭いんだよなぁ・・・?」
だが、ソノカは未だにラルーさんを疑っていた。
「ソノカ・・・!
まだそんな事を言うの・・・!?」
私はソノカに耳打ちをした。
「ららみ様の言う通りです
ソノカ様は過剰に人を疑い過ぎです
猜疑心が強すぎます」
「はッ!
言ってろよ!
アタシは仲間を迎える事は反対してないが、
こんなワケのわからん、嫌な奴は仲間に迎えたくないんだ!」
アイキキもソノカのあまりもの疑いようを指摘する。
それにソノカは相変わらずの態度で返す。
「・・・そんなに私って胡散臭いのかしら・・・?」
ラルーさん、頭を抱えて言う。
「そんな事はありませんからね!?
服装の問題だと思う・・・!」
「ちょいちょい、それ慰めになってないー・・・」
ラルーさんは私の言葉に面白おかしく返答を返す。
「お前、アタシと勝負しろ・・・!」
ソノカ、有り得ない提案をする。
「えええ!!?
ソノカ、ラルーさんを殺す気!!?」
「え、私、殺されるの?」
私の反応にラルーさんは自身を指差して首をかしげた。
ラルーさん・・・その反応は・・・おかしいですよ・・・?
「ソノカ様
しゃしゃり出て来んな、で御座います」
「ああ!!?
アイキキ、またやんのかゴルァ!!?」
「ソノカ! アイキキ!
どうしていつもこうなるの!!?」
アイキキは丁寧な言葉遣いをしているのに、
暴言を吐いた。
それにソノカ、ブチギレ・・・。
取っ組み合いの喧嘩寸前・・・。
何故かソノカとアイキキは仲が悪い・・・。
人前だと言うのに・・・!
「賑やかで楽しそうなギルドですねー
憧れまーす・・・」
ラルーさんは感情のこもってない声でソノカとアイキキから目をそらす。
「あ! あ、えと・・・!
その・・・!!
いつもこんなですけどよろしくお願いします・・・!」
「はぁぁぁぁぁ!!?」
私は咄嗟にラルーさんを採用。
ソノカ、ご機嫌斜め。
・・・ごめんなさい・・・。
・・・・
「ただいま~・・・って、なんじゃこの惨劇の痕は・・・!?」
もう一人の仲間
デルア君が仕事から帰ってきて
今の状況を見る。
「・・・デルア君・・・
オカエリナサイ・・・・」
「ららみちゃん・・・
目が死んでる・・・」
「そうかな・・・?
今まで起きた事、説明した方がいい?」
「説明、求む」
「分かりました・・・・」
私は大きく息を吸い、
「ギルドメンバー募集の張り紙を見て来た女の人、
ラルーさんをソノカが散々に疑って、
アイキキと取っ組み合いの喧嘩寸前になる。
それ、止める為に私は咄嗟にラルーさん採用!
そしたら~、ソノカ~、龍の如く荒れる~!」
私は歌うように愉快に今までの出来事を話す。
「荒れたソノカ、冷静なラルーさん!
殺し合っちゃった!
結果! ソノカ敗北! ラルーさん、めちゃ強い!」
その為に今、ソノカはテーブルの上で大の字になって倒れている
それをラルーさんが扇でパタパタしてる・・・。
結果的に、私達のギルド本部のこの建物内は激しい戦闘の末に
めちゃくちゃになっちゃった・・・。
まぁ・・・。
ソノカは本気でラルーさんを殺す気でいたみたいだけど、
ラルーさんの方はそうでもなかったのが幸いして、
ソノカは気絶しただけで済んだ・・・。
「あのソノカを倒せる猛将がいたのか・・・!?」
デルア君は全力で驚いていた。
それは無理もない・・・。
今現在、このギルド最強のメンバーがソノカなのだから・・・。
いや、今現在はラルーさんになっちゃったから、
次に最強メンバーって事かな?
ドラゴン討伐時、ドラゴンと互角にやり合っていたソノカは
化け物級に強いのだ。
ソノカがいたからドラゴンを倒せたと言っても過言ではない。
ソノカのおかげでこのギルドは少数ながらも有名になれたのだ。
「ごめんなさいね~
もっと手加減をすれば良かったかしら?」
「別に問題はありません
たまにはソノカ様も痛い思いをするべきでございます」
アイキキは非常に冷たい事を言う。
し、したたか過ぎない・・・?
「それはそうと、皆、集まったから紹介するね!」
私は明るい声を出して言う。
ソノカを倒せるほど強い人だからもう仲間入りは確定だ。
「この青い人がアイキキね!
とても頭が良いから、何か困ったらアイキキに聞いて!」
私はまずアイキキを紹介する。
「よろしくお願いします。
ソノカ様をボコる時は御協力します」
・・・い、今のアイキキのセリフは聞き流そう・・・。
「で、さっきラルーさんが倒した黒い子がソノカ!
性格に難があるけど、本当はいい子だから仲良くしてあげて!」
私は倒れているソノカを見る。
異常な強さを誇るソノカが、倒れている・・・。
なんとも珍しい光景だ・・・。
「そして、この包帯まみれの人がデルア君!」
私は次にデルア君を紹介した。
灰色の髪でひどい癖っ毛なのか髪がいっぱい跳ねている。
色素がとても薄い瞳で、ほとんど透明のようにも見えるため硝子玉のよう。
そして、デルア君は長袖の白いシャツと長袖のズボンを着ていて、
その上に包帯を沢山巻いている。非常に奇妙な出で立ちをしている。
別に負傷しているわけではない。
デルア君にとってこの包帯は大切なのだ。
だからまるでミイラみたいに体中、包帯を巻いている・・・。
「よろしく」
素っ気なくデルア君は言う。
「デルア君はこのギルドの中では唯一の常識人だから
荒れているソノカや、人間味の薄いアイキキや、
世間知らずで研究ばかりの私に飽きたらデルア君と仲良くしてあげて!」
「なんか、ららみさんの性格がイマイチ解らないわね・・・」
ラルーさんは呟いた。
「その紹介のされ方・・・
嫌だな・・・」
デルア君も呟いた。
私、また変な事を言ったの?
・・・まぁいいや!
「とにかく!
これからもよろしくお願いします!」
私は改めてラルーさんと固い握手を交わす。
強くてある程度、普通でマトモな人で良かった・・・!
「っ・・・!
何が起きた・・・?」
「あ、ソノカ、起きたんだ!」
ソノカが目覚めて、身体を起こす。
「さっきはごめんね~
でも、本気で殺意を向けられたもんだから
倒させてもらっちゃった 悪いね~」
「テメッ! 待てゴラ!!」
「あ、まだ続ける!?」
ラルーさんの姿を視認するとソノカはテーブルから飛び降り、
ラルーさんを追い掛け回す。
それにラルーさんは逃げる。
また・・・?
「今度こそ消えろ!!」
「・・・」
ソノカの声を聞いてラルーさんは突然、立ち止まると
勢い余って飛び込んでくるソノカの腹に容赦なく蹴りを入れる。
それにソノカは勢いのあまり、ラルーさんの足にもたれかけて気絶。
反射神経の高いソノカがさっきみたいにまた瞬殺された・・・。
「・・・さっきもこんな感じだった・・・?」
「うん、こんな感じだった」
デルア君は唖然としながらも私に尋ねる。
あのソノカがこうもアッサリ倒されるなんて、
本当に現実味がない・・・。
「またソノカがご迷惑をお掛けしました
ごめんなさい・・・」
「別にいいって、そんなペコペコしないで?
仲間なのでしょう?」
「そ、そうですね・・・!」
イマイチ、このラルーさんの性格は掴みきれていないけれど、
いい人だから、きっと大切な仲間として分かり合えるはず・・・!
「あ、ラルーさん!
このギルドの決まり?
機能? について話しておきましょうか?」
「あら? ちゃんと説明してくれるの?
とても助かるわ」
「えと・・・このギルドの本部施設たる、
ここはギルドメンバー、一人一人に部屋を貸し与えたり、
武器や魔法の分配
依頼の受理、報告などを目的に
私、ソノカ、アイキキで協力して建てたんです!」
「3人で? こんな立派な建物を?」
「はい! 私の魔法の力や、
ソノカの凄まじい体力と怪力、
アイキキの的確で正確な計算を駆使し、
建てたんです!」
「たったの3人だけでそれだけの事が出来るのね・・・」
ラルーさんは関心の相槌を打つ。
「仲間になってくれたラルーさんにも部屋を貸し与える事が出来ます!
部屋は要りますか?」
「いいのかしら・・・?」
「いいんですよ! 部屋は沢山ありますから!
部屋の使い方は人それぞれで結構です
そこを住居に住んだり、
武器や魔法の保管用の倉庫にしたり、
ご自由に!」
「なるほど、じゃあ私も一部屋、欲しい・・・かな?」
「分かりました! ではこちらに!」
ラルーさんの返答を受けて私はラルーさんの手を掴み、走り出す。
この建物の構造は、
一階、玄関から広い玄関ホールに入る。
玄関ホールにはテーブルと椅子が沢山あり、その両脇には
螺旋階段と掲示板がある。
掲示板は依頼の紙を沢山、貼っておいてあるモノで、ギルドとしては
重要な物です。
螺旋階段を上がると一階の玄関ホールを取り囲むように
部屋に入れる扉がズラリと並んでいる。
横幅3メートルの床が扉の前から
同じように玄関ホールを取り囲む形に続いていて、
二階からは柵の向こうに一階の玄関ホールを見下ろす事が出来る。
天井はドーム状で、常に魔法で綺麗な大空を映し出している。
朝は登り始める爽やかな太陽と青空を、
昼は壮大な雲と大空を、
夕方は朱に染まる大空と赤い沈みかけている太陽を、
夜はきらめく星空と美しい月を・・・。
その日の気分によっては映し出す物を変える時もあるけど
この天井はとても役に立つ物だ。
何故ならば、星空の観察をじっくり眺め星の動きを見る事が出来るし、
ギルドメンバー全員で取り掛かる大きな依頼をこなす為の相談では
目的である物の映像を映し出す事も出来るから。
私はラルーさんと一緒に二階に上がると、
空いている一つの部屋の扉を開けた。
「ここでいいかな?」
「ありがとう、とてもいい部屋だわ」
「良かったです・・・!
では、部屋で休みますか?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
そう言ってラルーさんは部屋の中に入る。
「あ、これ、この部屋の鍵です・・・!」
私は渡しそびれた鍵をラルーさんに手渡した。
「ありがとう、ではまた」
ラルーさんは静かにパタリと扉を閉じ、その姿は見えなくなった。
上品で、不思議な人・・・。
私はその場に立ち尽くしていた。
だって、あんなタイプの人は初めてで・・・。
「アイツ、何者だよ・・・」
ソノカがまた目覚める。
それを私は二階から見下ろして、柵を乗り越え二階から飛び降りた。
一階の玄関ホールまで1メートルの所で私は魔法を使い、
落下速度を緩め、無事着地した。
「今日のソノカはいつもにも増して変だよ・・・
一体どうしたの?」
「ららみは感じないのか?」
「え?」
「・・・感じないんならいいや・・・」
「ソノカ、どう言う事か話して」
「・・・アイツが現れてからというもの、
ずっと、嫌な気がしてならないんだ・・・」
「気のせいだよ、ソノカ
心配していたんだね・・・」
ソノカは起き上がり、床に座り込む。
「それに・・・
魔法が使えるとか言ってたのに、
アタシとの遣り合いじゃ、それらしい力は一切使わなかった
そこんとこがかなり引っかかるんだよな・・・」
ソノカはポツリと呟いた。
「・・・確かに・・・不思議な人ではあったけれど・・・
それだけ実力が確かっていう事なんじゃ・・・?」
「そこが気に入らない・・・
あの雰囲気は天然なのか? 演技なのか?
ワケのわからんトコがムカつく・・・!」
「・・・?」
ソノカの言うには、ラルーさんの全てが疑わしいとのこと、
彼女の語った過去も、顔を隠したワケも、
顔のヤケドの痕も・・・全てが嘘な気がしてならないという事らしい・・・。
「それはいくらなんでも・・・」
さすがにその考えはいくらなんでも筋が通らないと思った。
だって、確かにあの顔のヤケドは本物だった。
間違いないはず・・・!
「魔法でいくらでも偽装出来るだろ?」
「・・・!!」
「ソノカ様・・・ちょっとよろしいでしょうか?」
「あ?」
アイキキが突然、ソノカを呼ぶ。
「ららみ様を守りたいからこそ、
ああいう不思議な御方が不審に見えるのは仕方がありません
しかし、ワタクシ達はまだラルー様を詳しく存じ上げていません
限られた情報しかない中、それで疑うのは単なる憶測でしかないのでは?」
アイキキは正論を言う。
「・・・単なる憶測でも・・・!」
「今、どんなにラルー様を疑っても、
確かな確証なんてないでしょう?」
「ッ・・・!」
「確証がない以上、この会話は無駄です
ソノカ様に今、必要なモノは愛想を覚える事です」
非常に冷たい言葉を言い放つアイキキをソノカはしばらく睨んでいたが、
舌打ちをするとソノカは自身の部屋に戻った・・・。
まだピリピリした空気が残っていて緊張しちゃうなぁ・・・。
「・・・あ、晩御飯を作らなきゃ・・・!」
ふと、時計を見て時間を知り、私は慌てて台所に走る。
「ららみ様、昨日、食料を切らしたばかりなのでは?」
「あ! そうだった! すぐに買ってくるから待ってて・・・!!」
アイキキの言葉を聞き、食料を切らした事を思い出し、
慌てて私は買い物袋を持ち、ギルドの外へ飛び出した・・・。
・・・・
「今晩の御飯は何にしようかな・・・?」
私は魔法で宙に浮かした食材を見ながら今晩のメニューを考える。
うーん・・・ビーフシチューかな?
無事食料を確保出来たが、もう日は沈み夜闇に包まれている・・・。
「早く帰らなきゃ、皆きっとお腹を空かして待っているから・・・!」
私は独り言を言い、走り出す。
ギルドが見えてきた・・・。
「・・・アレ・・・?」
ギルドの全貌が見える辺りから私は変な気配を感じ、
だんだん走る速度を落とし、終いには立ち止まってしまった。
慣れ親しんだ私達のギルド本部の建物が・・・。
今までにないくらいに異常な佇まいで、
まるで別の建物のようだった。
でも、ここで間違いはないのだから私はゆっくりとギルドに歩み寄り、
扉を開け、ギルド内に入る・・・。
「・・・!!?」
私はすぐに異常に気が付いた・・・
玄関ホールに入った時点で、異様なまでに・・・
血なまぐさい・・・!
「い、一体、どうしたの・・・?」
玄関ホールを見回してもいつもと変わりはないようだが・・・。
空間がひどく暗い気がする・・・。
「そ、ソノカ~・・・?
アイキキ~・・・た、ただいま・・・
どこにいるの・・・?」
いつもなら、私が帰ってくるとそれを察知して
ソノカとアイキキがすぐに出迎えてくれるはずなのに、
二人共、全くその姿を現さない・・・。
不安と正体不明の恐怖に耐え切れず私は二人の名を呼びかける。
澱んだ空気、血なまぐさい匂い、暗く沈んだ空間・・・。
もう私には耐えられない程、恐怖が掻き立てられる。
私のそんな気分のせいか、天井に映し出されるのは
星明かりもない暗い暗い夜空。
私はいつの間にか震えている。
ギィィー・・・・
不意に扉が一人でに開くような音がする。
音の元を探るため私はすぐに二階を見た。
一つの部屋の扉が開いているのが見えた・・・。
「・・・デルア君の部屋だ・・・」
その部屋が誰の部屋かすぐに分かった・・・。
デルア君に何か有った・・・?
そう思うと私はすぐに螺旋階段を走り登る。
今、私はとても怖いけど・・・!
大切な仲間のデルア君に何か有った事の方がずっと怖い・・・!!
この目で確認をしなければ・・・!
二階にあがり、デルア君の部屋の前にたどり着いた。
嫌な予感がしてならない・・・。
それでも・・・! 見なければ・・・!
デルア君が無事かどうか・・・!
私はデルア君の部屋の中に震える足で入る・・・。
そして、私は最悪の光景を見る事となった・・・。
「あ、あぁ・・・えぇ・・・? 嘘・・・でしょ・・・?
ち、違う、違うよね・・・? どうして、こんなッ・・・!
い、嫌ああああぁぁ!!!」
私は絶叫した。
私が見たモノ・・・それは・・・。
無残に首を無くした血まみれのデルア君の死体。
それが、デルア君の部屋にある椅子に座らせてあって・・・。
残るデルア君の首は見当たらない・・・。
ただ、部屋中、デルア君の血で真っ赤に染まっていた・・・。
私は恐怖と悲しみであっという間にいっぱいになり、へたり込んでしまう。
デルア君の血が私の靴や足、スカートにべっとりと絡みつく。
また生暖かく、この光景が作られて間もない事が分かる。
「ひどい・・・ひどいよ・・・!
誰がッ・・・! 一体誰が・・・!
どうしてッ・・・!! こんな事をしたの・・・!?
デルア君を・・・殺したのは・・・一体誰ッッ・・・!!」
私は怒り任せに叫んでいた。
デルア君は・・・何者かに殺されたのだ。
目的も、動機も、全く解らないけれど、それは間違いない・・・!!
「クスッ・・・」
ふと背後からそんな不気味な笑い声が聞こえた。
「え・・・?」
私は恐怖に固まった。
デルア君を殺した・・・犯人・・・?
・・・見なければ・・・! 私は見なければならない・・・!
私はそんな想いに突き動かされ、ゆっくりと振り向く・・・。
「“それは私と、私は首を掲げ狂喜する・・・”
クスッ・・・クスクスッ・・・!
ふっはははははは・・・!! 可愛いわねぇ!?」
それは・・・ラルーさんだった。
ラルーさんは狂気の笑みを浮かべると、
デルア君の首を掲げ、クルクルと回り、狂気の舞を始める・・・。
「なん、で・・・
なんで・・・デルア君を殺したの・・・?
一体・・・何の怨みがあってッ・・・!
どうして・・・!!」
そんな私の儚い嘆きさえも、
ラルーさんの狂気の笑い声にかき消されて・・・。
ただ、突如豹変したラルーさんの舞を見るしかありませんでした・・・。
「――――――さて、
愚かな嘘と偽りに身を固めた者達の、裁判を始めようか」
歪に歪ませた狂気の微笑みを浮かべたラルーさんはそう言って、
静かにフードを脱ぎ捨てた―――――
一体、何が始まるというのか・・・。
それはラルーさん自身にしか知る由もありませんでした・・・・。