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「ピアノ専攻の学生って、伴奏法っていう必修科目があるの。
楽器でも歌でも構わないんだけど、その前期・後期試験の伴奏をすることで、自分も伴奏法の単位を取得するわけ。
もちろん成績もちゃんとつくから、楽器の子も伴奏の子も、お互い必死よね。
相手がコケれば一蓮托生、自分の成績も下がることだってあるわ」
「ふーん。で、しあはクラリネットの伴奏するってわけね。
で、どんな奴なの?まさか男?」
叶のほうを意地悪く見ながら言うのだから透子もタチが悪い。
叶は気付かないフリをして餃子を2ついっぺんに頬張った。ラー油をつけすぎてむせる。
「オダジマって言う人」
「男?」
「うん」
「何年?」
「2年生」
「どんな人?」
「会ったことない」
「なんでその人の伴奏することになったの?」
「樋口先生が、竹田先生の門下で伴奏探してる子がいるんだけど、君、伴奏しなさい、相性はいいと思うよ、って」
「竹田先生って、誰?」
「クラリネットの先生」
ほぉぉ~、とわざとらしく驚いて、透子と山崎は叶を見た。
「なんだよ」
いつもより眉間に力を入れて、叶は二人の視線を跳ね返した。
「相性はいいよ、ねぇ」
「初顔合わせをすっぽかされても笑って許せる、竹田門下のオダジマ君、ねぇ」
「しかも、男で、ねぇ?」
「明日からほぼ毎日、伴奏合わせするんだろうねぇ?」
「二人っきりで、ねぇ?」
「練習室って、密室だよねぇ?」
「ねぇ?」
「ねぇねぇうるせーな、なんなんだよ」
山崎がニヤニヤ笑いながらこたえる。
「またまたぁ、気になるくせに」
「ならねぇよ」
「叶」
「なんだよ」
「箸の向き、逆」